掛け時計・伊藤時と恐怖譚

亞讍

伊藤時

冷たい風が冷たいアスファルトの上を駆ける。すると、真上の空は闇に呑み込まれ、

さっきまで出ていた綺麗な月が見えなく

なった。この時、魂がない人間の寂しい肉体のように動く掛け時計は独り言をしていた。よ〜く聞いてみると、「もう、午前1時だよ」そう聞こえる。つまり、丑三つ時だと、言いたいのだろう。

その掛け時計はどこに住んでいるのか。場所は、過去に、あるアパートの焼身自殺が起きた部屋だ。その部屋で、寂寥感たっぷりに掛け時計は動いている。それは仕事ではないので、お金は貰ってない。では、掛け時計は、なぜ、この部屋に住むことができるのか?

実は、この掛け時計は一人暮らしではなく、

ある女性と暮らしていて、その女性が、この部屋のお金を払っているため、掛け時計はお金を払わずに、この部屋に住むことができているのである。だから、掛け時計は内心では喜んでいる。

そんな掛け時計には名前があるのだが、この掛け時計を作ったわたしが、それを言い忘れてしまった。申し訳ない。

さて、掛け時計の名前をこれから言うことにしよう。名前は、「伊藤時(いとうとき)」だ。わたしの伊藤時計屋から「伊藤」、「時計」から「伊藤時」だ。


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