第2話 どちらかが死んでも必ず一緒に
「魔王討伐」
やっぱりねって思った。いや、魔王とかそんなんいる世界かどうかとかそこんとこも知らなかったんだけどね。なんかさっきの熱い語り方? どちらかが死んで中身が別人になっても、必ずやり遂げると約束したーとか言うから。なんかこうそういう信念ある系の? 危険な感じの目的だと思ったよ! くそ!
「……ま、今日はもう疲れただろうから、ゆっくり休むといい。明日は夜明けと共にここを出る」
急にまとめにかかったマントのおっさん‼
「ちょ、ちょ、待って! 無理‼」
「無理って何がだ?」
「もうすべてが! まず状況把握が無理!」
「大体のところは説明した通りだ」
「いや、そうなんだろうけども!」
おれが納得してないというか。だってなぁ? ここで「はいわかりましたー」とか言ったら、契約書にサインしたような感じにならないか? 明日夜明けと共に魔王討伐が始まっちゃうんじゃないか? いや無理でしょ。魔王って何? 強い? 強くないわけないよな! 魔王だもんな!
あとおれの本当の肉体は死んだって言われたけど、おれの魂はここにいていいの? なんかこう、本来の転生とか、そういうのがあるとしたら、そっちに問題とか起きないの?
「すまないが、俺もテーベも疲れている。テーベはエレナの……つまりその肉体を、守りながら敵地から撤退してきたんだ。俺も俺で、屍生術でだいぶ力を使った。ゆっくり休ませてくれ」
お前らが休みたいんかーーーい‼
「でもおれ納得してないんだけど」
テーベとナレディが顔を見合わせた。
「多分、つけられてはいないと思う」
テーベが言った。ナレディがうなずく。
「分かった。じゃあ明日また今後のことを話し合おう。それでいいか?」
良くはないけど、妥協ラインだとは思う。
「分かった」
一人、部屋に取り残された。スープの匂いがいまだ漂って、ちょっとした風でもガタガタと大げさな音を立てる窓。寝れない。
そもそも休めって言われても、おれ的には寝て起きたばっかっていう体感なんだよな。寝て起きただけなのに、全然知らない世界にいて、死んだとか言われて。落ち込む以上に実感がない。
もっかい寝て起きたら、七畳ちょいのアパートで目を覚ますんじゃないかって気がする。すっげーリアルな映画みたいな夢見たな、って興奮しながら。
ただ寝れない。少なくとも、今のところは。
とりあえず横になってたけど、寝れないから起き上がった。窓の外を見る。まだ夕方というにも早い感じだ。外は明るいし、人もウロウロしてる。大体動きづらそうな、厚手の布のドレスみたいな恰好の女性とか、いかにもな感じのベストを着てる男性とか。
しばらく見てたら飽きた。
あ、部屋に鏡あるぞ。
ちなみにこの部屋の間取りは、六畳くらいの大きさで、扉から入って向かいに窓がある。向かって右手側にベッド。左手側には、少し窓寄りの位置に鏡がある。その下には簡素な棚、というか、板が合って、その上に空っぽの桶。多分あの中に水とか入れて顔洗うんだろうな。
で、鏡を見てみた。案の定、知らない女の顔。ただ、すっごい美人。気が強そうなつり目。かなり大きい。濃い緑。鼻も高い。彫りが深いな。おっさん二人に負けないくらい深い。まぁそういう人種なんだろうな。唇も厚めで、完全にセクシー。髪は暗い茶色で、長くてウェーブがかかっている。多分天パ。目覚めてすぐ気づいた通り、胸がでかい。でも細身。わりと筋肉質……かも。完全にナイスバディ。
本来の自分とは天と地、月とすっぽんくらいにかけ離れた姿なわけだが、不思議と違和感はなかった。あ、これが自分かー、くらいの感覚。
んなわけないんだけどな。おかしいな。本来のおれは、日本人で平坦な顔。目は普通。サイズも吊り具合も。いや、世界的に見れば小さいけど、日本人としては普通。鼻は低い。唇も大きさは普通だけど、男の割にはかわいらしい形をしてると思う。ちなみにそれで得したことは一度もないし、恋愛面で活用したことも一度もない。くそが。
……い、いいんだよ、嫁(二次元)はたくさんいるから悲しくなんてないんだよほっといてくれよ!
で、なによりデブ。超デブ。こないだ百キロ超えた。いや、嘘ですごめんなさい。ずっと体重計乗ってなかったからいつ超えたか分かりません。こないだ乗ったらいつの間にか超えててやべー!ってなった、が正解です。
今の姿との共通点といえば、肌の白さくらい。
…………てか、ねえ、なんで女?
こういうのって普通、めちゃくちゃイケメンになってるもんなんじゃないの? それか、元の姿のままで、「この世界ではこういうのがイケメンなんですよー‼」って、激モテするもんなんじゃないの??
なんでおれが女になって、おっさん二人と冒険する流れになってるんだ?
はっ、もしや、おれの隠された願望?
いやいやいやいや! ないないないない! 違う違う違う違う!
それにしてもこの姿は美人だから鏡を見るのが楽しい。どちらかというとハリウッド系の迫力派美人て感じだから、リアル……というか、本来のおれだったら、こんなのがその辺にいても絶っっっ対声なんてかけないけどな!
ちょっと色んな表情を作ってみる。笑顔とか。はい、美人。キス顔とか。はい、セクシー! ポーズもつけてみよう。お~いいね、セクシーだね!
この服がな~、もうちょっといい感じだったら良かったんだが。自然派ママさんの休日コーデ、みたいな、粗い麻か何かのざっくりした感じの服。上からばさっと着るだけのやつ。胸元、というか、ほぼ首元にボタンが一個だけある。長さは尻がギリ隠れる長さ。下には同じ素材のヨガパンツみたいなの履いてる。正直楽ちん。なんの締め付けもない。帰国する時同じの買って帰りたい、とかそのくらいの。そんな帰国日前日の海外旅行みたいなわけにはいかないんだけど、実際は。
「…………」
おれは扉に耳を付けて外の様子を探ってみた。特に物音はない。ちょっと開けて見てみた。特に誰もいないし、誰かがうろつく気配もない。
扉を閉めて、木のかんぬきみたいな鍵も閉めた。……よし!
で、思い切って服を脱いだ。もう全部。下着も。何やってんだ、って? いや、だって気になるじゃんか。
その結果、……なんか、思ったよりこう、……生々しくて。いや、何がとは言わないけど……。
びびってすぐ服を着ました、はい。一人でびびってオロオロしてたから、ヨガパンツの紐がうまく結べなくて余計慌てたわ。
…………何やってんだ、おれ。
…………寝よ。うん、そうだ、寝よう。
寝て起きたらきっと自分の部屋で目が覚めると思うんだよ、うん。やべー昼まで寝ちった、とか思いながら。昼かと思いきや案外早い時間で、なんだ、まだ寝れるじゃん、って二度寝とかしたりして。
で、この変な夢のことは忘れてるんだ、きっと。きっと……。
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