第42話

「みんなご苦労さん」


自宅でぐっすりと寝た後に祖母の家に帰ると、朝の準備をしていた3人が居る


「おはようございます」


「朝ごはんはもう食べた?」


まだ朝飯を済ましてない俺は便乗しようと声を掛けた


「はい、もう食べ終わって片付けも済んでいます」


日本語的質問の意図には気付かなかったようだ、まぁいいや、ファステルの食堂で食べるとしよう、あっちってとにかくまずいんだよな、味の薄さにどうにも慣れない


「じゃあそろそろ行くか」


3人と連なってドアを開ける、そう言えば一番最初に見つけたのが"補聴器" "メガネ" "指輪"の3点で、他に古い服があったけどあまり趣味じゃないから放置してしてたんだよな


どう見ても年代物だし、汚いし、一応向こうに持って行くか、お店に着くと3人は開店準備をしていた、


朝一はとにかく戦場のようで、それを捌くためにいそいそと肌着を陳列していった、今日が最終日だが100枚先着順だ


明日からはしばらく売らない、少しなら在庫はあるのだが、いつでも在庫があると購入意識は減退する


またしばらくしてから登場させると、ある時に買わなければと言う心理が発生するというものだ


忙しくしているところ声を掛けて邪魔してもなんだし、朝飯の為に食堂へ向かう


「ちょっと市場調査に行ってくる」


気を使わせないために朝飯を食べに行くとは言い辛かった、


(何食べようか、朝だから軽い物がいいな)


そう探してると軒先で麺をすすっている人達がいる、まさかラーメン?これは味見するしかないね、お店に入って注文する、出てきたのは脂が浮いてるスープと白い麺、多少は期待した。


箸はないのでフォークで麺を啜る。


(うん、まずい)


まず味がない、そして麺に腰がなく、形状でこそ麺だが、フォークを入れるとすぐに切れてしまう、何のために麺状にしてるのか全く意味がわからない


「お兄ちゃん久しぶりー」


声を掛けてきたのはリリム、最近町中を歩いていても見かけることはなかった


「最近見なかったけどどうしたんだ?体調でも崩したのか?」


「最近お母さんの体調が悪くて看病してたんだよ」


「そうか大変だな、お母さんのお見舞いに俺も行こうか?リリムには世話になったからな」


「ううん、いいよ、来てくれてもお母さん余り動けないんだ、足もむくんじゃって歩くの大変だし」


聞く症状で気になる病気がある、リリムのお母さんの病気って"脚気"じゃない?ビタミン不足でなる病気だ


「普段お母さんってどんな物食べているんだ?」


「別に普通だよ、パンとスープとかだけど、残すこと多い」


「果物って食べているか?生野菜とか」


「果物の値段っていくらか知ってる?そんなの年に1度ぐらいしか食べられないよ、生野菜は虫がいるから火を通さないと病気になっちゃうよ」


脚気の可能性が増した、俺は医者でもないからそんな詳しくはないが子どもの頃生野菜の苦味と果物の食べ辛さが嫌いでよく出された物を拒否してると母親から


「あんたそんな好き嫌いしてると脚気になっちゃうよ」


とよく言われたものだ、実際に本当になる子は居ないが、この世界なら栄養不足なんで珍しくはないだろう


「リリムちょっと今から俺の店に来い、渡したい物がある」


「え?何?飴玉ならいらないけど、チョコなら嬉しいな」


甘い物好きな女子のくせに何故飴だけは拒否するのだろう、おそらくうちの祖母が子供扱いしてる時に渡してきた物だから 飴玉=子供と図式が成り立っているのかも


「まあとにかく来い」


半ば強引にこんびにに連れて行く、麺は食べてる途中だったがまずさのあまり興味をなくした、これで銅貨3枚なんてほんと詐欺だ


お店の中でリリムを待たすと祖母の家に戻り、冷蔵庫にあったぶどう、りんご、バナナを持って戻る、それを渡すと


「これから毎日お母さんに食べさせろ、それでお母さんの身体が良くなるかも知れない、これで良くならなかったら俺には治す術はないがやれるだけやらせてくれ」


「こんなにもらえないよ」


「じゃあ花と交換だ、これから毎日果物を渡す、代わりにリリムはお店に飾る花を持ってきてくれ、いいな?」


「う うん」


「お母さんに早く食べさせてやれ、いきなりたくさんはだめだぞ、毎日少しずつ食べさせるんだぞ」


「わかった、ありがとう」


お礼を言うと帰って行った、俺の考えが当たってくれたらいいが、もっと早く症状を聞いておけば良かった、聞いてもなにも協力できないと思い込んでいた


(あっリリムに頼めば良かったけどすっかり忘れてた)


実は頼みごとがあったが脚気のことを考えていて、うっかりとしていた、テレサ達に頼んでもいいんだけど、まだまだお店の混雑は続く、一体いつになったら落ち着くのか


今では手伝いをしても邪魔なので、カウンターの椅子の隅に腰掛けて待つことにしたのだった。

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