第327話 東郷平八郎

 空母の名になるほどの有能な軍人であるチェスター・ニミッツであるが、その信奉のレベルは高い。

 戦後、戦艦・三笠が進駐軍によって『キャバレー・トーゴー』なる娯楽施設になっていたことに激怒し、海兵隊を送り歩哨ほしょうを立たせ、個人的な寄付と米海軍の援助の下、三笠を復興させた(*1)。

 開艦式で米海軍代表が持参したニミッツの写真には、


『東郷元帥の大いなる崇敬者にして、弟子のニミッツ』


 と書かれていたという(*1)。

 これほど信奉するに至った訳は、ニミッツが士官候補生時代にまでさかのぼる(*1)。

 1905年。

 東京湾に寄港した所、日本海海戦戦勝祝賀会に招待され、そこで他の候補生と共に東郷を胴上げし、その後、机に彼を招いて会話し、感銘を受けた(*1)の理由だろう。

 この出来事は、後年、ニミッツの自伝に記してある(*1)。

 当時、東郷平八郎57歳。

 ニミッツ、20歳の時である。

 親と子ほど離れた2人だが、20歳の若者が当時、世界を驚かせた軍人と会話出来たのだ。

 ニミッツが完全に心酔するのは、無理の無い話だろう。

 世界もこの勝利には、驚いた。

 オスマン帝国は自国の勝利のように伝えられ、国民的英雄となった(*2)。

 フィンランドでは、


『自国を統治していたロシアが敗れたことで、フィンランドでは独立の機運が高まったこともあり、国民はこの東郷ラベルのビールを飲んで往時をしのんでいた』(*3)


 という。

 後にインドで初代首相になったネルーは、


『アジアの一国である日本の勝利は、アジアの全ての国に大きな影響を与えた。

(略)

 沢山のアジアの少年少女、そして大人が、同じ感激を経験した』(*4)


 と語り、インドネシアの教科書では、


『インド、フィリピンでは、日本の近代化の後、民族運動が一層活発になった。

 太陽の国が、いまだ闇の中に居たアジアに明るい光を与えたのである』(*5)


 アメリカ人歴史家も、


『日本が西洋に認められる上で、日露戦争は有益な学習だった。

 文明世界は奇妙な小男達の勇気と闘争心に仰天し興奮した。

 彼等は民族衣装の着物キモノを着ながら、たちまちにして近代戦の技術を習得していたのだった』(*6)


 と高く評価している。

 ロシア帝国やその後のソ連にも支配された歴史を持つトランシルヴァニア王国でも、この勝利は好意的に受け止められ、長らく続く独立運動の精神的支柱になった。

 煉、シーラ、ウルスラ、オルガの4人は作法通り、手水ちょうずと二拝二拍手一拝を行う。

 郷に入っては郷に従え。

 オルガの身のこなしは、東郷神社のHPで掲載されている通りだ。

 何も見ずに出来るのは、事前に勉強していたようだ。

 煉は感心しつつ、3人を連れて、厳かな表情で神社を出ていく。

 近くのホテルの喫茶店の入ると、シャロン達7人が個室で待っていた。

「! パパ!」

 シャロンは、煉を見るなり飛びつく。

「遅い!」

 腰に足を絡めて、抱き着いたまま離れない。

「御免な」

 スマートフォンを確認すると、既に午後12時過ぎ。

 沢山の寺社仏閣を名簿化リストアップしていたのだが、結局、1と1社のみ。

 ミアも不満そうだ。

「……モウチョット周リタカッタ」

「ミア」

 ヨナが制止するも、煉は謝罪した。

「御免な。また時間作るから」

約束ヤクソク

「約束だ」

「破ッタラ呪ウ」

 代償が大きすぎる件。

「分かったよ」

 苦笑いで煉は座り、シャロンを膝に乗せたままミアの額にキス。

「……母ニモ」

「分かってるよ」

 ミアにも行うと、彼女は恥ずかしそうに俯いた。

 愛娘の優しさと夫の愛情の一挙両得だ。

「殿下は、漁色家プレイボーイですね?」

 棘のあるオルガの言い方に、ウルスラは目を細めた。

「貴様―――」

「ウルスラ」

 行動を起こす前に煉は、彼女を抱き寄せる。

 これで膝にシャロンとミア、左にヨナ、右にウルスラという陣形だ。

 蚊帳の外に置かれたBIG3であったが、次の瞬間、笑顔になる。

「3人はこっち」

「「「は♡」」」

 指示通り、背後に座る。

 背後は死角なので、暗殺出来る絶好の位置ポジションなのだが、それを3人に任せるのはそれだけ、煉がBIG3を信頼している証拠だ。

 残ったシーラも最後に呼ばれる。

「シーラ、おいで」

「♡」

 沢山の不可視の♡を出しながら、シーラは、シャロンとミアの真ん中に座る。


 左膝担当   :シャロン

 右膝担当   :ミア

 両太腿の間担当:シーラ


 と言った感じだ。

 同時に8人を侍らす煉に、オルガは圧倒された。

ウクライナ保安庁スルージュバ・ベスペークィ・ウクライィーヌィ報告書レポート通りですね)

 文字で見る分と、実際に目の当たりにするのは、やはり感じ方が違う。

「さっきの話は、ウエノスキーに伝えろ。いいな?」

「……は」

 オルガは、最敬礼する。

「殿下に貴重な御時間を割いて頂き有難う御座いました」

 そして颯爽と喫茶店を出ていくのであった。

 彼女の姿が見えなくなった後、煉は、溜息を吐いた。

「ウルスラ」

「は」

「奴の素性を洗え。徹底的にな?」

「は」

 気になることがあった為の指示だ。

 阿吽の呼吸でウルスラも察し、首肯した。


[参考文献・出典]

*1:WEB歴史街道 2018年2月20日

*2:『ニュータイプ中学歴史資料 学び考える歴』浜島書店

*3:カレヴィ・ソルサ(1930~2004 フィンランド首相 1972~1975、

                              1977~1979、

                              1982~1987)

   朝日新聞 1997年10月6日 一部改定

*4:『日本賛辞の至言33撰』 ごま書房 一部改定

*5:『インドネシアの歴史』 明石書店 一部改定

*6:『アメリカの鏡・日本』 ヘレン・アミーズ 一部改定

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