第311話 見知らぬ土地と母と娘

 テレビ等、電化製品が撤去された煉の部屋は、


・ベッド

・本棚

・勉強机


 くらいしか家具が残らなかった。

 ある種、最小限主義ミニマリズムのようだが、電化製品はスマートフォンくらいしか使用しない煉には、このような暮らしでも苦痛は無い。

「パパって相変わらず、潔癖症だねぇ」

 シャロンは、ベッドにうつぶせで足をバタバタ。

「下着、見えるぞ?」

「パパだから見せてるんだよ♡」

 にっしっしと、笑う。

「「「「……」」」」

 BIG4は、その綺麗な室内に興味津々だ。

 何度か入った事があるのだが、何度見てもゴミ一つ無い。

 男の部屋はもう少し乱雑な心象があったのだが、この部屋は綺麗

 防塵室クリーンルームを連想するくらい何もないくらいだ。

「「……」」

 電化製品を殆ど排除した御蔭か、ヨナ、ミアは落ち着いている。

 シャルロットによれば、昨日は、


・過呼吸

・多汗

・下痢

・嘔吐


 等で大変だった為、ほぼ1日中、皐月が看ていたようだ。

 昨日と比較すると、非常に落ち着いている。

 日本とトランシルヴァニア王国は、緯度も経度も気候区分も違う。

 来日初日で慣れるのは、困難な事だ。

 日本人も外国に行った際、水道水や現地の料理であたるように。

 こればかりは、体質次第であろう。

 2人は、室内を見回すと、満足気に首肯し、

「「合格ゴーカク♡」」

 と笑顔で言った。

 少し上から目線にイラっとするものの、2人に悪気が無い事は分かっている為、煉も表に出す事は無い。

 2人は、煉の膝に飛び乗った。

「「殿下デンカ♡」」

は無くなり、殿は残る、か」

 名言風に呟いたのだが、

?」

 シャロンに捕まった。

「パパ、オヤジギャグ寒いよ?」

「う……」

 掛け言葉を非難され煉は、うめくのであった。


 通信制なので家で勉強し、時々、学校の指定した日に登校すればよい。

 新型ウィルスの蔓延した事により、オンライン授業も出来る。

 学生である煉、司、シーラ等はオンライン授業のある時間以外、彼の私室で過ごす。

 令和4(2022)年9月2日(金曜日)。

 午前中に授業を受けた学生達は、昼、皐月等と共に食べた後、煉の部屋でゆっくりしていた。

「そういえば、パパ、仕事は?」

「王配だからね。少な目だよ。っていうか、殆ど無い」

 王配になった後からは、王室が「流石に仕事は減らそう」という事で、報告書の最終確認くらいが、今の主要な仕事だ。

 その為、ほぼ無いに等しい。

 訓練の指導や観察もライカとキーガンに引き継がれ、煉は、ほぼ寿退社のような状況だ。

 部下達も王配には気を遣う為、こればかりは仕方の無い事だろう。

 それよりも今、問題なのは―――

「「……」」

 ファストフードをもしゃもしゃと爆食いする先住民族の母娘である。

 司が買って来たハンバーガーのセットに興味を示した2人は、それを一口食べると、両目を見開き、フードファイターのように爆食いを始めたのだ。

 1セットを僅か数分で食べ、予備のにも手を出す。

 そして、それを完食した時、2人のお腹は、バスケットボールのように膨らんでいた。

「「……ゲプ」」

 げっぷの時機も一緒だ。

 流石、母娘と言った所だろうか。

「「……♡」」

 2人は、満足したのか、ティッシュで汚れた手や口元を拭き合った後、煉のベッドに寝転がる。

 食べたい時に食べ、寝たい時に寝る。

 キリスト教的には、怠惰たいだであるが、これが先住民族の生活様式なので変える事は難しい。

 2人はすぐに寝息を立て始めた。

「「zzz……」」

 慣れない文化、初めての外国で相当、ストレスが溜まっている筈だ。

 少々の怠惰くらい、罰は当たらないだろう。

「司」

「うん」

 皐月と司は、2人の近くに陣取った。

 皐月はヨナを、司はミアの担当だ。

 喜びの島から出た事が無かった2人は、島の消失を理由に泣く泣く、本土に避難し、遥々はるばる、日本に来た。

 然も、2人が信頼しているのは、煉のみ。

 オリビアも信頼しているのだろうが、彼と比べると、やはりは劣るだろう。

 その間、煉は自由だ。

 レベッカ、シーラ、ナタリーを膝に乗せる。

『何で私まで?』

「いーから。いーから♡」

『む……』

 レベッカの純粋無垢な笑顔に圧倒され、ナタリーは渋々、従う。

 一応は、相手が王族なので、配慮している部分もあるのだろう。

 煉は、シーラの頭に顎を乗せて、3人をテディベアのように抱き締める。

 シャロンが煉をあすなろ抱き。

「パパは王配。私は、王女プリンセス♡」

「……まぁな」

「……」

 オリビアは何か言いたげだが、煉が視線で制す。

 広義では、シャロンも王族の一員だが、王位継承権は無い。

 王位継承権があるのは、オリビア、もしくはレベッカとの間に出来た子供のみだ。

 その辺は、血縁を重んじる傾向がある為、幾ら多民族国家といえども、厳しい。

「おいちゃん」

「ん?」

「お腹空いた」

「もう?」

「成長期!」

 ドンっと、胸を張る。

 部活をしていたら分かるのだが、レベッカは、帰宅部。

 何も動いていない為、その分、運動部と比べると、空腹なのは不可解であろう。

「……う~ん。じゃあ、何か食べに行こうか?」

「殿下」

 チェルシーが、挙手した。

「うん?」

「レベッカ殿下の為に食料を空輸しています。御用意してもよろしいでしょうか?」

「だって、オリビア?」

「しょうがないですわね」

 このまま不機嫌になるより、食べらせて黙らせた方が良い。

 オリビアは、首肯しゅこうした。

「用意していいわよ」

「はい」

 

 数時間後、レベッカも、

「zzz……」

 お腹一杯で満足したのか、ベッドで眠っていた。

 ミア、ヨナに挟まれているが、それでも熟睡している。

「有難うな。チェルシー?」

「いえいえ♡」

 煉に褒められ、チェルシーは内心でガッツポーズを行う。

「「「……」」」

 フェリシア、エマ、キーガンは作り笑顔の裏で、「やられた」と思っていた。

 結婚したとしても、決して、安泰ではない。

 次のステップは、子を産む事だ。

 その分、シャルロットのような愛人が1番、良いポジションかもしれない。

 正妻になれず、ただ傍に居る事が出来、煉の気分次第で愛される。

 ある意味、最強であろう。

 オリビア、ライカは公務で大使館に。

 皐月、司母娘は、ヨナ、ミア母娘の対応で忙しい。

 実質、今の時間帯は、BIG4に好機であった。

 無論、エレーナ、シャロンにも同様に好機な訳ではあるが。

「司。パパ、借りていい?」

「良いよ。でも、直ぐ返してね?」

「分かってる。パパ、デート♡」

「分かったよ」

 シャロンに腕を引っ張られ、煉は渋々、立ち上がる。

『私はパス』

 ナタリーは、煉の腕から脱出し、代わりにシーラの背中を押す。

「(私も行きたい)」

「良いよ。行こう」

 シーラの手を取ると、彼女は笑顔で握り返す。

 そして、一行は、束の間の外出に繰り出すのであった。

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