第209話 外交官等保護条約
令和3(2021)年10月1日(日曜日)より、大手ガス会社が新約款の下、反社会的勢力(例:暴力団組員、準構成員、総会屋等)との契約を打ち切った。
これは発表当時、警察の幹部でさえ、
「ガスの供給が反社会的勢力への利益供与や活動の助長と言えるのか、唐突感が拭えず、流石に驚いた」(*1)
と発言するくらい、衝撃的なことであった。
新約款に違反すると、「ガス需給契約を解約することがある」と明記されている為、若し、反社会的勢力である事が判明した場合、彼等は事実上、生活が困難になる。
ガス以外だと、
・賃貸
・携帯電話
・銀行口座
等も持てない暴力団は、日々、追い詰められている。
まさに『ヤクザに人権なし』の世界だ。
1980年代まで表向きには、晴れやかな生活を送れていた彼等だったが、暴対法施行以降、どんどん萎んでいっている。
平成31(2019)年初頭には、生活苦を理由に郵便局で1日だけ働いた組員が逮捕された事例もある(*2)。
辞めてもその地獄は終わらない。
『元暴5年条項』の下、5年間は現役同様、制限を受けるからだ。
然も、数字では5年となっているが、絶対に5年で制限が解かれる、という保証は無い。
その為、5年以上かかる場合もある。
又、再就職も厳しい為、結局、復帰する者も後を絶たない。
続けるも地獄、辞めるも地獄は、まさにヤクザにとって日本は、
そんな状況下で俺が関係者に認定されれば、確かに汚点になるのは、間違いない。
「……
「もう公安に睨まれているので、無問題ですよ」
笑って俺は、財布から万札を出す。
「何だ? 買収か?」
「違いますよ。空腹なんでかつ丼の出前を頼みたいです。出来ますよね? 自腹なんで」
「……糞ったれ」
郷田は、万札を引っ手繰った。
「もう一つ、妻達にもそのお金で飲み食いさせて下さい」
「……分かったよ」
舌打ちしつつ、郷田は出て行くのであった。
あくまでも事情聴取なので、制限時間は無い。
その為、時間を気にすることなく、郷田は俺を調べる。
午前7時。
夜も明け、多くの人々の活動が活発になり出すであろう頃、
「失礼します」
「
髭を蓄えた俳優顔は、とても弁護士には、見えない。
ハリウッドスターを自称しても通じるだろう。
(ドイツ系か)
弁護士バッジを見せたフリッツは、俺に向かってウィンク。
気色悪いが、オリビアの差し金だろう。
「何ですか?」
相手が弁護士なので、郷田も柔らかい対応だ。
「そちらの方は、我が国の駐在武官です。長時間、拘束するのは、国際法違反かと」
「双方合意の上ですが?」
「そうでしょう。然し、深夜の事情聴取は、人権上、問題があります。又、彼は、高校生でもあります。郷田さん、貴方の行き過ぎた捜査は、警察庁も問題視されていますよ?」
「……」
自覚があるようだ。
郷田は、何も言わない。
「今回の事は、
「……」
面倒臭そうに郷田は、手を振った。
「もう良いです。事情聴取は、終わりです」
フリッツは、嗤った。
「有難う御座います。譲歩して下さったので、こちらとしても幸いです。貴方を擁護する声明を出しましょう」
「……有難う御座います」
1人の公務員が、国家に勝てる訳が無い。
外交的圧力の下、俺は解放されるのであった。
迎車の中で、フリッツは、名刺を渡した。
「改めまして、駐日トランシルバニア王国大使館顧問弁護士のフリッツ・ハーバーと申します」
「? 《化学兵器の父》の?」
「同姓同名は偶然ですよ」
フリッツは、苦笑い。
「彼は、プロテスタントに改宗しましたが、私は、ユダヤ人です。祖父もアイヒマンを追った検事ですよ」
「フリッツ・バウアー?」
「はい。映画、御覧になられましたか?」
「ああ、名作だよ。モサドに奪われたのは、可哀想だが」
「戦犯ですからね。イスラエルの心情も分からなくはないですよ」
「……皆は?」
「早朝、御帰宅されました。御疲れの御様子だったので」
「有難う」
「いえいえ。仕事ですから」
一旦、間を置いた後、
「ですが、少佐。無礼を承知で一つ、御助言があります」
「ん?」
「犯罪組織との交際は、何も利益は御座いませんので、御付き合いを控えて下されば幸いです」
「……彼は、実業家だよ」
「そのように御主張されるのは、自由ですが、当局は彼を犯罪者と認定しています。この国では、法律により、制限が―――」
「知ってるよ」
「では、何故?」
「彼は、情報通です。あくまでも情報屋として交流しています」
「情報なら情報機関を御利用されたら如何です?」
「情報機関の情報が必ずしも正しいとは限りません。CIAがピッグス湾で失敗した例もあります。ですので、私は、広い視野で情報を集めたいのです」
迎車は、武家屋敷前に停まる。
「今後も何かありましたら、御連絡下さい。駆け付けますから」
「有難う御座います」
フリッツに感謝した後、俺は降車した。
帰宅すると、皐月とシャルロットが出迎える。
「御帰り。朝帰りね?」
「お帰りなさいませ、旦那様」
「只今」
2人にキスした後、尋ねた。
「皆は、学校?」
「そうよ。貴方は、疲れているだろうから、欠席の連絡を入れておいたわ」
「有難う」
ほぼ寝ていないので、有難いことだ。
「じゃあ、ちょっと寝させてもらうわ」
「良いわよ」
寝室に向かうも、2人はついてくる。
「あら、2人も寝るの?」
「いけない?」
「駄目ですか?」
「いや、良いよ」
1人で寝たい気分だが、2人は、心配していたのだろう。
目に
2人と握手して、寝室に入る。
「……先客が居たな」
「パパ♡」
俺のベッドでシャロンが、枕に抱き着いて寝ていた。
オリビアから贈られたそれは、結構、気持ちが良いのだが、シャロンの
シャロン以外にもウルスラが毛布に包まっている。
疲れているのに、2人は笑顔なのが、少し腹が立つ。
が、表には出さない。
熟睡中をわざと叩き起こすのは、畜生のやることだ。
皐月が提案する。
「私の部屋に来る?」
「いや、ここで良いよ。どうせなら皆で寝たい」
俺は、2人をベッドに誘い、そのまま横になる。
シャロンとウルスラの真ん中に2人を寝かせ、自分は、更にその間だ。
「煉♡」
「旦那様♡」
「好きよ♡」
「お慕い申し上げます♡」
2人からキスされ、俺は笑顔で2人の体に手を伸ばすのであった。
寝る前に2人と愉しんで、仮眠をしたのが、午前9時頃。
それから昼も摂らず、寝て夕方に起きる。
「……ん?」
「お早う、パパ♡」
胸板を枕にしていたシャロンと目が合う。
「お早う」
「パパ、御寝坊さんだね?」
「そうか?」
「うん。私が襲っても起きなかったから」
「マジか」
まさか、襲われているとは思わなかった。
「ウルスラも一緒だったのよ?」
「何?」
「私が手取り足取り教えたんだ」
「……そうか」
ウルスラは、室内に居ない。
恐らく自室で休んでいるのだろう。
彼女の信仰宗教は、イスラム教。
なので、処女であった可能性が高い。
イスラム教は、処女を重んじる宗教なので、これで俺達は、事実上、夫婦になる事が確定した訳だ。
日本人には、理解し難いことだが、イスラム教が国教、或いは多数派の国では、処女を重視する国や地域がある。
その代表例がインドネシアだ。
インドネシアの軍では女性志願者に対して処女検査が存在する。
2021年に陸軍では、廃止宣言がされたのだが、海空軍では今尚継続している(*3)。
この検査は、女医が触診で調べ、非処女だった場合、採用が取り消される。
当然、若い女性志願者には、恥ずかしく屈辱的で、非難の対象になっていた。
それが、2021年に漸く陸軍で廃止宣言されたのだから、日本とインドネシアの考え方に大きな隔たりがあるかが分かるだろう。
又、これよりも、文化の違いが大きいのが、性犯罪者と被害者が結婚する事例だ。
―――
『【暴行された女性「加害者と結婚するしかない」、アフガン】』(*4)
『【14歳少女暴行の容疑者、被害者と結婚で無罪に マレーシア】』(*5)
―――
「皐月もシャルロットも足腰が立たなくなって、さっき、帰って行ったわよ」
「……もう良い。それ以上は聞きたくない」
薄っすら、予想が出来た。
俺が夕方まで寝たのは、皐月がキスした時、口移しで睡眠薬を盛ったのだろう。
それで俺が寝静まったのを良い事に今度は媚薬を流し込み、思う存分愉しんだ、と思われる。
全て推測だが、俺の下半身が未だに熱を持っている事を見ると、状況証拠が揃ってしまうので、ほぼ事実だろう。
(医師法違反じゃないのかな?)
皐月に呆れつつも、立ち上がる。
「パパ♡ お風呂入ろ?」
「……分かったよ」
シャロンの誘いに乗り、俺は嘆息しつつも頷くのであった。
[参考文献・出典]
*1:デイリー新潮 2021年9月24日
*2:東スポ 2019年1月18日 一部改定
*3:JBpress 2021年8月17日
*4:AFP 2011年12月20日 一部改定
*5:AFP 2016年8月4日 一部改定
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