第154話 第二次成田空港管制塔占拠事件

 成田国際空港も反乱軍の標的となり、夜も明け切らぬ中、管制塔に兵士達が侵入する。

 ATC航空交通管制の管制官は慌てて、航空機に連絡する。

「日の丸航空123便へ。軍事作戦が展開されており、全ての出発は中止。後程のちほど呼び出します。駐機場で待機願います」

『天候により待機している。目的地を羽田空港げ変更したい。燃料の都合で直ぐにでも向かいたい』

「了解。こちらが気象情報を入手するまで取り敢えず向かって下さい」

『管制塔、こちら、タクラマカン航空666便』

「タクラマカン航空666便、どうぞ」

『どの管制官も応答しない。乗客の搭乗が終わっており、エンジン始動とブッシュバックを求む』

「エンジン始動もプッシュバックもしないで下さい!」

『え?』

「どちらもしないで下さい!」

『どうすれば良い? どれくらい待てばいい?』

「情報が無いんです! タクラマカン航空666便、どうぞ!」

『当機は満席で1時間待っている。搭乗橋ボーディングブリッジも外されている。なので、至急、プッシュバックしてエンジン始動させて下さい。調整願う。勿論、宅配デリバリーも応答が無く、地上グラウンドの周波数も無反応だ。だから管制塔へ連絡した。現状を踏まえた上で、だ。至急、プッシュバックしてエンジンを入れたい』

「現在、両方とも出来ません。乗客を降ろして下さい!」

『当機の乗客は、既に1時間、待っている―――』

「乗客を降ろして!」

『現在、起きている軍事作戦により、〇×▽◇、会社からは、プッシュバックとエンジン始動を要求し、戻るよう、言われています』

「会社? 貴機は、戻りたいのか? プッシュバックを中止するのか?」

『いいえ。我々はカザフスタンに戻る為にプッシュバックを要求します。カザフスタンのヌルスタン空港へ向かう為、プッシュバックとエンジン始動の許可を求む』「了解。上と相談した上で改めて呼びます」

『感謝する。当機の乗客は、既に1時間待機している。すぐにでもカザフスタンに戻りたい』

 然し、幾ら経っても回答は得られない。

 業を煮やして666便は再度、ATC航空交通管制に尋ねる。

ATC航空交通管制、こちら666便』

「666便、どうぞ」

『地上から応答がない。当機は、444番ゲートに居る』

「確認ですが、プッシュバックとエンジン始動を要求中ですか?」

『その通りだ。当機は、エンジン始動の準備が出来ている』

「両方を許可します」

『はい?』

「プッシュバックとエンジン始動をする。滑走路は、85L」

 漸く許可が出たので、666便も安堵だ。

『プッシュバックとエンジン始動を許可。機首を西に向けて停止する』

「666便? 666便? 666便? 666便?」

『こちら666便。どうぞ』

「プッシュバックとエンジン始動を願います。アプローチは、貴機へ。如何なる許可も出していない。追って指示が出るまで中止せよ」

『この状況であれば、我々の判断でプッシュバック並びに出発する』

「アプローチは、貴機へ。如何なる許可も出していない」

『構わない。我々の判断でプッシュバック並びに出発する』

「全ての航空機が如何なる許可も得られていない」

 指示が二転三転しているのは、管制官が侵入して来た反乱軍の隙を見て、出発機を脱出させようとしたが、見付かってしまったからだ。

 結局、666便は離陸寸前で足止めを食らう。

 当然、フラストレーションがたまって来る。

『こちら、地上の666便』

「どうぞ」

『何か情報は無いか? 当機は、1時間以上も離陸出来ていない。これは、異常事態だ。至急、プッシュバックとエンジン始動の許可を求む』

 然し、管制塔も必死だ。

「状況はお察ししますが、異常事態です。ATC航空交通管制にも反乱軍が展開されています。私は、如何なる許可を与えることが出来ません。どのくらい、時間がかかるのかも全く情報が無いんです」

『どうかお願いします。我々の裁量で離陸させて下さい。我々の責任の下で。大至急、離陸を要求する』

「成田には、進入アプローチACC航空路管制機関も無い。離陸して汚管制官からは、応答がない」

『? 今は誰が管制しているのか?』

「何も情報が無いんです。誰も居なくて」

了解OK、それではこのまま我々の責任の下で出発し、飛行計画に沿った経路ルートを飛行して良いか?』

「承知しました。貴機の判断の下エンジン始動並びにプッシュバックを許可します。使用する滑走路は、35L」

『了解、滑走路35Lに向けてエンジン始動とプッシュバックを開始する。飛行計画に沿って飛行する』

「離陸は、PIMAV1Y出発方式に基づいて飛行せよ」

『PIMAV1Yに従う。上昇高度は?』

「スコーク(識別番号の設定値)は、5135。まずは、5千ft(1500m)まで上昇せよ」

『PIMAV1Yに従ってまず、5千ftへ上昇。数分でプッシュバックを開始する』

「参考までに誰かが管制塔に居る。彼等が何者でそして何をしているか、全く分からない。貴機の安全の為にもどうか移動せず、ゲートで待機して下さい」

『……取り敢えずゲートに居る。そして―――』

「了解。貴機の安全の為にもどうか移動しないで下さい。彼等が誰で何をしているか全く分からないですから」

『使用する滑走路はどれか?』

「何も情報がありません。どうか移動しないで下さい」

『了解。取り敢えずゲートに居る。有難う』

 管制塔の状況を理解した666便は、取り敢えず、待機を継続することにした。

 許可が下り次第、直ぐにでも離陸できるよう、準備をした上で。

ATC航空交通管制、こちら666便』

「はい。どうぞ」

『状況に変わりない?』

「はい。残念ながら」

 ここで666便とは別の駐機中の飛行機から管制塔に通信が入る。

『こちら、444便、ATC航空交通管制、どうぞ』

「どうぞ」

『乗客が飛行場に降りることは可能か? 現状は、非常に危険な状況のようだ』

「異常事態で軍事作戦が展開中ですエンジン始動とプッシュバックは、不可。空港含め、全ての管制官が応答しない」

『分かっている。早急にゲートを開けてくれないか? ターミナルに居た方が、安全そうなので乗客には降りて頂きたい』

 ガガガガガガガ……

 通信に銃声が入り、直後、鈍い音がした。

「何?」

『ここでは、激しい銃撃が起きている! 早く!』

 444便は、不運にも反乱軍と千葉県警察成田国際空港警備隊の銃撃戦のど真ん中に居た。

 双方の射線上に居る為、機体には、流れ弾が突き刺さり、操縦席の窓ガラスにも蜘蛛の巣状にひびが入っている。

『こちら、666便』

「どうぞ」

『新しい情報はあるか?』

「いえ……ありません」

『燃料が足りない。如何すれば良い?』

「何も情報がありません」

『我々の判断で離陸出来るような情報も無い? 我々の判断で』

 何度も強調する。

「いいえ、ありません」

 その時、管制塔に兵士達が侵入する。

「な、何だ! お前らは!」

 混乱する職員を黙らす為に兵士が天井に向かって威嚇射撃。

「「「……」」」

 一瞬にして管制塔は、静まり返る。

 管制塔が武装勢力に占拠されるのは、昭和53(1978)年3月26日に起きた成田空港管制塔占拠事件以来、44年振り2回目だ。

 この時は、新左翼によるテロであったが、今回は自衛隊から分裂した極右の反乱軍なので、昭和53(1978)年の時とは対極である。

 こうして到着機は当然、全機が、

・欠航

・行先変更

 のどちらかを余儀なくされた。

 出発を待っていた航空機は、飛行場に侵入した戦車によって進路を阻まれ、離陸出来なくなった。

 成田空港は、完全に反乱軍の手に落ちたのであった。


 午前7時過ぎ。

 上映中の映画館の大画面に字幕スーパーが、入る。

 ———

『首相官邸、成田空港等が攻撃に遭う。武装勢力の正体は不明』

 ———

 瞬間、映画に見入っていた観客達にどよめきが広がる。

「何だ?」

「本当かよ?」

「何、これ演出?」

 国民から人気が高かったエドワード8世(1894~1972 在位:1936年1月20~12月11日)が、王室よりも離婚歴のあるアメリカ人女性との愛を選び、退位を発表した際も、映画館でその件が、字幕スーパーで流れた例があるが、今回の混乱ぶりは、国と時代が違うが、まさにそれ以来だろう。

 やがて、映画が途中で停止し、目出し帽を被った兵士達が乱入してきた。

「きゃあああああああああああああああああああああ!」

「うわ、なんだ!」

 観客が混乱し、出入り口に殺到する。

 然し、そこには、やはり兵士達が、9㎜拳銃で威嚇していた。

「勇者様……」

「ああ」

 俺は、オリビアの手を握る。

 兵士達は誰かを探しているようで、観客を1人ずつ、マイナンバーを提示させ、照会していた。

「少佐―――」

「多分な」

 エレーナに目配せし、それ以上の言葉を飲み込ませる。

 エレーナと俺が思ったのは、同じだろう。

 兵士達が態々わざわざ、身分照会しているのは、彼等にとって標的が、

 観客の中で最も、利用され易いのが、王族の身分であるオリビアだ。

 彼女を人質にすれば、国際社会の注目を集め易い。

 俺は、女性陣をなるべく目立たぬよう、後方に移動させた。

 そして、隠し持っていたベレッタを抜く。

 冷静沈着に指示を出すことも忘れない。

「ライカ、オリビアを守れ」

「は」

「エレーナは、シャルロットを。スヴェン、脱出出来そうな経路ルートを確保しろ」

「「は」」

「シャロンは、ナタリーを頼む。シーラ、俺から離れるな」

「うん」

「……」

 シャロンが頷き、シーラも続いた。

 一方、ナタリーは、不満げだ。

『私は、1人で十分だけど?』

「自信家なのは、良いが、ボクシングだけじゃ、銃には勝てんよ。ベレッタ、使えるか?」

『勿論』

「じゃあ、シャロンと組め。シャロンは、サポートに回れ」

「え? パパ、渡しちゃうの?」

「大丈夫。もう1丁あるから。今のは予備だ」

 常に万全な状態の俺に女性陣は、安堵した表情を浮かべるのであった。

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