第2話「キリギリスのミツ」
食糧難から約三十年後。
アリとキリギリスの国は窮地に立たされていた。
国がどんどんと発展していた時期は過ぎ、いつからか新しい命が生まれなくなり、アリとキリギリスの国は、働けない年老いた住民ばかりになってしまった。数少ない働ける住民たちだけでは、年老いた住民のエサまではどうしても確保する事が難しく、気がつけばマネの木に頼る生活が続いていた。
今では、4つある島のうち、南の島と西の島、そして北の島の少しがマネの木の雑木だらけになってしまった。国の半分以上が、マネの木の雑木になってしまい、バッタの国やカブトムシの国からは、そのうち国中がマネの木の雑木だらけになるのではないかと、哀れみの目で見られていた。
あんなに栄えていたアリとキリギリスの国はもはや見る影もなく、マネの木の雑木で埋め尽くされようとしていた。
それでも、何とか年老いた住民たちの分までエサを確保しようと懸命に働くアリたち。しかし、そんなアリたちを横目に、いつからかキリギリスたちは、ヴァイオリンを奏で歌を歌い、働くより遊ぶ時間の方が増えていった。
「ねぇねぇ、アリさん、何でそんなに働くの? 私たちにはマネも木があるから働かなくてもいいじゃん。どのみち、老人たちのエサの確保なんて、いくら働いても無理だよ。この国は住民が増えすぎた。だからもうマネの木に頼るしかない。そして、やがてこの国はマネの雑木で埋め尽くされてボクたちが住む場所はなくなるんだ。それなら、その時まで、働かず歌を歌って暮らした方が楽しいよ」
気がつけば、アリたちとキリギリスたちの間に考え方の距離が出来始めた。長老の言いつけを守り、マネの木に頼らず生きていこうと働き続けるアリたち、そしてマネの木に頼り遊んで暮らそうとするキリギリスたち。どちらにしても、両者には絶望しかなかった。
ある日、そんな風に打ちひしがれるアリとキリギリスたちの前に、ミツと名乗るキリギリスが現れた。彼は、カブトムシの国で、マネについて学んだと言い住民たちに不思議な事を言い始めた。
「みなさん、みなさんはマネの木に対して誤解をしておられる。マネの木は一度実をならすと雑木になり私たちの住む場所を奪ってゆくと、多くの方が思われておられましょうが、それは嘘なんです。長老フジの嘘が長きに渡り伝承され、私たちを苦しめてきた。実は、雑木になったマネの木は伐採出来るのです! そのまま放置するのではなく、雑木になったマネの木はどんどん伐採してゆき、そこに新しいマネの木を植え替えたらいんです。マネの木は雑木になる度に伐採して、新しく植え替え、植え替えしてゆけば永遠に実をならす事が可能なんです!」
カブトムシの国で「マネ理論」を学んだと言うキリギリスのミツの言葉に、アリとキリギリスたちは呆気に取られていた。というのも、長老フジからは雑木になったマネの木の伐採は禁じられていた。なぜなら、例え伐採したとしても、燃やす事が出来ないマネの雑木は捨て場所がなく、結局は国の住む場所を奪うだけで、植えていても伐採しても同じだと考えられていたからだ。何がカブトムシの国で「マネ理論」を学んだだ…偉そうに言っても何も分かっていない、住民たちはミツの話に呆れかえっていた。
アリのマンサクはミツに言った。
「伐採した雑木はどうするの? 伐採しても捨て場がないマネの雑木は、結果、私たちの住む場所を奪うから一緒じゃないか」
マンサクのその言葉に、住民たちはそうだ、そうだとミツに声を投げる。しかし、ミツから出た言葉は、住民たちにとって思いもしない言葉だった。
「皆さん。皆さんにとって、マネの雑木は捨て場がないゴミみたいなモノだと思っておられますは、それは違います。何故なら、『マネの雑木は私たちの資産』なんです!」
ーーマネの雑木は私たちの資産なんです!
力強く放たれたミツの言葉が、ざわめく住民たちを静まり返らせた。
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