第15話 昼食
「いや〜、いつ食べても
健一はフォークにパスタを絡めながら、カトリアの料理を褒めちぎった。カトリアは満足気に頷いている。ただし、カトリアのことをおばあちゃん等と呼ぼうものなら、
「あら、ケンイチ。私はいつからあなたのおばあちゃんになったのかしら?」
と大人気なく凄まれる。ほかに適当な呼び方も思いつかず、仕方もなくカトリアさんと呼んでいる。カトリアをおばあちゃんと呼べるのは世界でただ一人、美生だけなのであった。
テーブルには美生の祖父、
広生は元々あまり体が丈夫ではなく、農作業がつらかったらしい。所有している土地で便の良いところにアパートを建てたり、店舗用に貸したりして、不動産投資をしてきた。今では岐阜市や名古屋市内にいくつかの物件を所有している。
不動産からの収益で生活できるようになると、自分では農業を止めて農地は貸してしまった。今ではトマトだけは妥協できない妻のカトリアのために、イタリアの調理用トマトの品種サン・マルツァーノ種のトマトの栽培だけを自分でしている。
昼食が終わってデザートに西瓜が出された。健一が持って来た西瓜だ。
「おうちでいつも食べてると思うけど、カンベンしてね。」
カトリアは健一の前に西瓜の皿を置いた。
「うちで食べてるのは売り物にならない作物ばかりだから、一番良い西瓜が食べられて嬉しいです。」
健一の家も農家である。健一の祖父が長年試行錯誤を重ね、果物を中心に栽培し、ここ十年位で軌道に乗るようになった。今では甘くて美味しいと道の駅や直売所で飛ぶように売れて、会社勤めであった健一の父も手伝うようになり、家も建て替えることができた。
「健一君は
広生が尋ねた。恵介とは健一の祖父の名だ。
「この家の畑をただで貸していただいているから儲けが出ていますけど、新たに畑を買ったり借りたりできるほどの利益はないので、ちょっと厳しいですね。」
「あら、ミオと結婚したら、うちの畑はみんなあなたのものよ。」
「ぶふぉ!」
健一は西瓜を吹き出した。いかにも年寄りの言いそうな冗談である。ただ健一にとっては冗談ですまないところがある。もし畑を返してほしいと言われたら、健一の家の今の暮らしはもう成り立たなくなってしまう。互いの祖父母は親友同士だから、広生とカトリアが元気な内は心配ないが、代が代われば付き合いも変わる。
健一の父と美生の父の
健一としては美生は嫌ではなく、むしろ好意を持っている。自分だけでなく家族も幸せになれるとも分かっている。それでも健一は自分の未来に蓋をされるような気がして、あまり気乗りがしないのだ。
何しろ、まだ高校生だ。結婚なんて遠い未来のことに思えて、美生を将来の結婚相手とするべく振る舞うことなど考えつきもしないのだった。
健一は横目で美生を見ると、美生と目が合った。美生はフイッと目をそらす。その横顔が赤く見えた。
どうやら少なくとも僕は美生ちゃんに嫌がられてはいないようだ。自分は美生に特別な感情はなくとも、自分が美生に相手にされていないのも傷つく。そんな微妙な美生と健一なのでありました。
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