第13話 最終兵器スライム
いや〜、さっきは本当に危なかったよ。
悪い輩に追いかけられたのははじめてだねえ。
っというか、あの輩たちでさえレイハが女子だって事知ってたんだな。
知らなかったのは俺だけか。
まあ、俺は部外者だし、この国の奴でもないから無理はないか。
「………あ、ありがとう………」
顔を赤らめたレイハだったけど、なぜかは知らない。
でも、ふたりとも助かってよかったよ。
──ツキミは………と言いたいところだけど、やっぱり俺の頭の上なんだよな。
なあ、なんだかんだあったけど結局は収束したから良かった良かった。
「で、これからどうする?」
俺にとっちゃまた観光してもいいんだけど、それはレイハにとっては危ないからな。
「んー。私からしたらもうちょっと観光したい気分?」
曖昧だな。
まあ、いつも曖昧で無責任な俺が言えることじゃないか。
「それなら───!」
『忠告します。超高密度な魔力反応を確認。今すぐ退避することを推奨します』
「言われなくても分かってる。この馬鹿げた魔力反応、辰爾以来の緊張感だ」
辰爾以来、か。
そうだ、辰爾なら何か分かるかもしれない。
「おい、辰爾。お前なら………」
笑っている場合じゃなねえぞ!辰爾!
「何がそんなに面白いんだ?」
真剣そうな眼差しになった辰爾に問う。
その答えはこうだ。
「あれは、純種だよ。それも、アラクネの」
純種、か。
以前に辰爾から純種について聞いたことがある。
種族でも純血混血がある中で、より一層純血を守り抜いているのが純種と呼ばれる部類らしい。
純種が生まれるのは本当に稀なため、ほとんどは100年以上、下手をすれば1000年以上生きている奴らだ。
ちなみに辰爾も純種らしい。
「というか、アラクネって上半身が女性で下半身が蜘蛛だったよな?コイツはどう見ても人形だぞ?」
俺の知っているアラクネはいわゆる蜘蛛から人の上半身が生えたようなイメージだ。
それなのにコイツは全身女性だ。
「それは、ユニーク進化〈貴女〉によるものだ。機動性と魔素量が膨れ上がってるから気をつけろよ?」
他人事みたいに言うな!
まあ、他人事なんだけどね!?
手に持っているでっかい斧をなんとかしたい。
今みたいに避けてばっかじゃ街が壊れて行くだけだ。
レイハを守りながら避けているから無理に動きを変えるとレイハが狙われる。
レイハが本命なんだろうから絶対に取らせるわけには行かない。
「なあ〈
今思うつく手段はそれしかない。
さっき試してみた〈水化〉は簡単に避けられたし、ジャンプ力が高すぎて、〈大樹〉で囲っても意味がなさそう。
なら、今出来ることは〈
『無理ですね、はい。避けられます。というか当たりません』
何だよこのスキル!
前から思ってたけど、スキルにしては流暢で喋り方に人間じみた何かが乗ってる気がするんですけど!?
まあ、今はどうでもいいけど!
避けることに精一杯になってるところで〈
『応急処置として、カフカに思念通信を繋げました。応援を呼ぶことを推奨します』
そうですか。それならやる事は一つ。
「〈
『了』
何故転移させるか。それはレイハをなるだけ安全なところに移すことがこの勝敗を分けるからだ。
カフカに思念通信が伝わる今、一方的にだけど、レイハを送りつけたほうがいいと俺はみた。
「スキル〈思念通信〉」
俺の思念が真っ直ぐカフカの脳へ繋がっていく。
「カフカ、聞こえてるか?」
「え!?は、はい………」
流石に戸惑ってる様子だな、こりゃ。
「今からレイハをそっちに送りつける。出来るだけ安全なところで保護してくれ!できれば援軍が来てくれたら助かるんだけど。場所は───派手に暴れてる奴がいるからすぐわかると思う」
それだけ言ってブツっと切った。
「え!?あの………え?」
絶賛混乱中のカフカを置いて、完了した転移陣にレイハを乗せる。
「え?これって………ねえ、シ───」
話しているところ悪いんだけど、飛んでもらった。
「───エル、これは………」
レイハの目の前に広がっていたのは武装したカフカとその部下の兵士たちだ。
飛んだ訓練場は周りの警備も頑丈だし、防御魔法陣もしっかりと貼られている。
籠城には最適だ。
「やっと、お前の相手をしてやれる。さあ、来い!」
『ユニークスキル〈
アラクネ一体にオーラの的を絞るのは困難なことだけど、俺の考えが正しければこの威圧で相手を怯めないと倒す………いや、互角に戦うことすら出来ない。
幸いこっちには最強のスライムがいる。
今は、街の結界を張ってもらってるけど、それが終われば互角以上には戦えるはずだ。
「〈水化〉!」
足元が水になることを察したのか、上へ高く飛んだ。
ここまではさっきと同じだ。
だけど、少し戸惑いつつだったところを見ると、ユニークスキル〈
「そっちは囮だ!」
地面から〈大樹〉の根が多量に襲いかかっていく。
だが、相性は最悪だ。
相手のバカみたいにデカい斧で全てが薙ぎ払われる。
だけどな、
──そっちが本命なわけだいだろうw──
誰が囮だとか言うんだよw
視覚不良になった足元から先に用意していたスキルが発動した。
「バカめ」
小声で誰にも聞こえない程のボリュームで話す。
足元から一本の黒い光がアラクネを貫いた。
〈
普通は人間相手には使えない技だけど、相手が人間じゃない、そして敵意を持って殺しにかかっているのなら中途なく使ってやる。
「これでy───」
いや、これを言ってしまうとフラグが立つな。それは駄目だ。
「心臓は貫いたけど、これで大丈夫か?念の為にもう一発撃っとくべきか?」
一応指鉄砲を模ってエイムをアラクネに向けた。
撃つか撃たないかの判断は〈
「アニメとかじゃこういうときに限って妙な進化を遂げるんだよな。まあ、今回は進化の素となるエサを与えてないから確率は少ない気がするけど」
できればこのまま死んで欲しい。
───だが、俺の予想は当たっていた様だな。
『厳重忠告です。純種のアラクネが進化を開始しました』
予想通りだ。
ぽっと出の謎種族なんかに純種が負けるわけがないからな。
何らからの隠し要素があると考えておいて正解だった。
「〈
一直線上に頭を貫いた。
が、しかしその貫かれた頭は進化中の超速再生効果によってすぐに回復されてしまっている。
「しくじったか。まあ、どちらにせよこうなる事を避ける手段が俺には無いんだし、自責してもしょうがないか」
まだ生まれて?から1年も経っていない奴が確実に100年以上生きている奴に勝とうだなんて最初から思っていない。
ここで殺せたら良かったけど、本来のプロセスの一部にしか過ぎないこの戦において、俺が出来ることは精一杯の時間稼ぎだ。
再生しようがしまいが関係ない!
「〈大樹〉!」
大きな一本の樹木が生え、その一つの枝にアラクネは胸を貫かれた。
「美女で巨乳だからって容赦はしねえぞ!」
アラクネの進化の光で周りが薄暗くなっている中で俺の白い髪は薄暗く見えている。
〈大樹〉で刺さったところから魔力を吸収していって、出来るだけ進化を遅める。
そして、超速再生していても、刺さっている枝を切れないため、そこでも無駄な魔力を使用させて進化を遅める。
それでもやはり限界がある。
アラクネの進化が終わると、全身蒼い炎に包まれて、枝は一瞬で燃やされた。
燃え移りこそしていないが、その炎の火力は凄まじいんだろう。
頼む、間に合ってくれ!
「〈
後ろから水色のツルツルしたものが飛んでくる。
「間に合ったな!」
なびく髪共に後ろを向くとそこには頼もしいスライムがいた。
そう、ツキミだ!
蒼い炎で包まれたアラクネの心臓に黒い焔が刺さっている。
ツキミが撃った〈
消えることはない。
ということは威力はアラクネの炎と同等、またはそれ以上だ。
これで分かっただろう?
──アラクネが来てもこっちには最強のスライムがいる!──
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