第11話 俺、考える人

 朝目が覚めると昨日とは全く違う心地よさだ。

 あんな牢屋で寝るのと、王ご愛用のホテルの部屋で寝るのとはまた別物だな。

 なんか久しぶりにぐっすり寝た気がする。

 旅の間なんてちゃんと寝るのは難しいからな。


「すみません、失礼いたします」


 寝起きにタイミングよく来客か?

 というか、俺に来客なんてなんのようだ?


「どちら様ですか?」


 ノックして戸を開けて入ってきたのはおじいさんだった。

 執事なんんだろうか?

 いいお召し物だな。


「私は、ゼフス王よりの遣いでありますゲルニカと申します」


 王の遣いとか俺になんの用なんだろう?


「本日、緊急ながら貴方様を騎士団へと入団させることになりました。そのご報告と騎士団本日へのご案内に参ったのです」


 へ!?

 マジで!?

 俺は騎士団に入る気なんて全然ないぞ。

 話を勝手に進めて、俺の意見は考慮なしか?


「あの、俺は騎士団に入るつもりなんてないんですけど……」


「そうですか。しかし、王は騎士団に入らなければ討伐部隊へは編入させられないと申しておられましたが」


 まじかよあの王。

 俺がやりたくないって言うのは目に見えていたのか!

 嵌められたか?俺。


「わかったよ、わかりました。入りますよ」


 嫌々だけど八つ当たりのためだ。

 これぐらいは我慢すればいい。


「では、ご案内いたします」


 あんまり乗り気じゃない俺と定位置のツキミを連れて、ゲルニカさんは俺を騎士団へ連れていく。


「連れてまいりました」


 え?マジで?

 いや、もう驚きはしないけどさ。

 なんで王がこんなところにいるのか訊いても良いのかな?


「おお!やっと来たか。シエル、王を待たせるとは何事だ」


 ええー。

 俺はお前を待たせたつもりなんてないんだがな。

 さっき連れてこられたし。

 まだパジャマ──パーカーと長ズボン──から着替えてないし。


「えっと、待たせたつもりはないんだがな?…………です?」


 やっぱり敬語を使うべきか?

 一応王だよな?


「辿々しい敬語だな。もう敬語は良い。無礼講だ。お前が敬語を使うと我がむず痒いわい」


 ああ、良かった。

 なんだかんだで俺敬語苦手だからな。

 周りは仰天しているようだけど、それはこれから慣れていってもらおうかな。

 自分らの王に敬語なしとか考えられないんだろうな。


「ありがとう。そっちの方が助かるよ。で、本題なんだが、なんで俺が騎士団に入らなきゃいけないんだ?」


 問題はそこだ。

 別に敬語なんてものはなんとでもなる。

 でも、俺が騎士団に入らなきゃいけない理由なんてもう、全くと言っていいほど見当たらないんだからな。


「それか。お前なら聞いてくると思ったぞ。そうだな、理由か。それはひとつ、今回の討伐部隊の編成方法が原因だな」


 編成方法?

 そんなの王が決めることではないのか?

 そういうわけでもないのか?

 こっちの世界の王政とか全然分からないからな。


「今回は色んなところからよりすぐりの部隊、王選抜精鋭ロイヤルエライトを作るつもりだ。だが、それにはどこかに属している必要があるのだが…………。それで近衛騎士団が適切だったというわけだ」


 王選抜精鋭ロイヤルエライト、か。

 でもさ、それって


「王の意見として俺をねじ込むことは出来なかったのか?」


 俺のイメージする王政ってのはそういうものだけど、実際はどうなんだろう。


「そうか。お前はこの国の政治方法を知らないのか。この国はフィード政治と言ってな、王と大臣たちが意見を出し合って決めるのだよ。私が王であっても、その中全15票の中の5票だ。その他は大臣たちの票であるから、王ですらも負けることがあるのだよ」


 王ですらも負ける、か。

 それはこっちで言うところの民主主義に近いところか?

 それとも、中世ヨーロッパのあの貴族政治みたいな感じのものか?


「そうなのか。でもさ、それだったら王が不利じゃない?いくらでも王を解任させられるんじゃないか?」


「安心せい。王は国民の意志がなければ解任できんわい」


 ガッハッハと俺の背中を叩いて宮殿に帰っていった。

 マジでなんのために来たんだろう。

 詳細の説明ならゲルニカさんにでも伝えておけば良かったじゃないか。

 俺をイジるためとかそんな理由なら一発殴らせろよ?


「ゴホンッ。では、先程王より紹介された者だ。シエルだ」


 カフカに続いてレイハによって前に押し出された。

 というかもう紹介されてたんだな!

 あの王、俺が断るかもしれないって考えてなかったのかよ。


「我らがセシリア王国近衛騎士団に一時的にだが加入してくれる事を嬉しく思う」


 カフカってば騎士に前では偉大なんだな。

 確か、昨日レイハが言うにはカフカはこの国の最高戦力の一端だとかなんとか。


「この者は私を倒したことがある!それも余力を残して、だ」


 そーなんだよなー。

 勝っちゃったんだよなー。

 その後に不意打ちで拘束されはしたけど、それでも勝っちゃったんだよなー。


「この者の加入により我らが王国が闇組織に負ける可能性がグンと下がった!しかし、油断はするな!これから一週間の間に最後の鍛錬だ!」


「「「おお!」」」


 なんかカフカがかっこよく見える。

 騎士団員たちもやる気らしいからこの団結力、案外すごいのかもしれない。

 まあ早とちりとか色々残念だけどね。


「では、シエル殿。私と手合わせをッ!」


 おい!待てよ!

 お前さらっと笑顔で斬りかかってくんじゃねえ!

天智慧ヴァルキリー〉さん、なんでもいいから頼みます!


『エクストラスキル〈水化〉を使用します』


 突進してきたカフカの一歩前の地面が水になった。

 これで沈められるはず、と思っていたのは俺だけだったようだ。


「その技は前にも見ましたよ!」


 見切ってぴょんと軽く跳んで避けた。

 カフカって強いのか?

 でも、前は簡単にやられてくれたみたいだったけど………………強いのか?

 成長はずば抜けて早いけどね!


「ヤバいな。〈炎陣〉!」


 迷宮攻略の序盤で異変したイノシシを倒したときに入手したスキルだ。

 身体全体が燃えてたな。

 特に牙と足先が分かりやすく燃えてた。

 苦労したんだが、それを俺は水k…………おっと、そんな事考えていると負けるな。


「な!」


 炎包まれてさぞかし困惑している事だろう。

 なら、これも今までに使ったことないスキルだけど!


「〈大樹〉」


 カフカと炎が燃えている間に太い幹が出てきてカフカを囲った。

 困惑しているカフカを置いて、次第に炎が燃え移って幹も燃えている。


「安心しろ。葉は出ないから火が降ってくることはないぞ」


 葉が燃えたら上から降ってくるかもしれないから危ないよな。

 まあ、いる時間が長いと、上から幹自体が折れて降ってくるかもしれないけどな。

 あー、危ない危ない。


「降参するか?それとも、まだやるか?」


 まだ打開策が見つかっていないカフカには屈辱とも思える言葉なんだろう。

 俺は言ってる方だからなんにも思わないけどね。


「そうですね……………」


 少し悩んだ末に一つの結論にたどり着いたみたいだ。


「〈風の精霊よ、吹け〉!」


 おお!初めて見た。

 これが魔法ってやつなのかな?

 俺は使ったことないし、見ることもなかったからよく分からない。

 でも、詠唱割に中二病発表会になんてなくて良かった。

 これでそよ風ならたまったもんじゃないぞ!

 ちゃんとそれ相応の威力だ。


 炎が消えたか、と思ったが数秒経つとまた燃え上がってきた。

 それを見て何かに納得したカフカは、うん、と頷いていた。


「降参します。私ではこの炎を消せそうにありませんから」


 もう悟ったような笑顔だ。

 思ったんだけど、ジャンプしてからその風魔法で自分が移動すれば逃げられたんじゃないか?

 どうなんだろう?

 俺もその魔法を教えてもらいたいな。

 そして試す。

 案外器用に使えば、空を飛ぶこともできるかも知れないしね。


「そろそろここから出してくれませんか?」


 あ、そうだった。

 考える前に出してやらないとな。

 どうやって出すか、それは簡単だ。

 カフカ回りの円状を〈水化〉で囲む。

 すると、見ての通り火は消えて木は沈んでいくというわけだ。

 見た目恐ろしいことになってるけど、そんなことは気にしない。


「こ、これは、寒気がしますね。回りが沈んでいくなんて、怖い…………」


 予想はできてたけど、やっぱそうなるか。

 カフカがこれをトラウマに持たなければいいんだけど。

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