第3話 常識が壊れる音が………。

 もう結構驚くことが続いた今日だったな。

 これ以上は体が保たない(気がする)

 え?スキルが勝手に進化して、スライムくんが急に喋る出すしでもうしんどいよ。


「でさ、ひとつ疑問何だけど、なんで今まで喋らなかったのに急に喋りだしたの?」


 いやー、この質問を欠かす事なんてできないでしょ。


『それは私から説明します。それは、ユニークスキル〈心通ずる〉の発動による効果です。ユニークスキル〈心通ずる〉は、ある一名とのみ会話できるスキルです。その一名は変えることができませんので、ある意味使い捨てスキルと言えます。しかし、一度使えば半永久的に使用可能です』


 また〈賢女〉か。

 まあ、説明してくれるのは嬉しいけども。


「細かいことは気にせずに行こう。ボクらはそうやっていくのが一番お似合いだよ」


 またスライムくんの声だ。

 少女のような声がする。それに、どうしてか懐かしい声だなって思う。

 それは、俺の幼馴染みで絶賛片想い中だった相手の声だ。

 名前は柚歌ゆずかつきっていう。

 片想い中に異世界に来たんだからなかなか吹っ切れない。

 そうだ。たしかその娘もボクっ子な。

 変に関連付けられて一層前世離れ出来なくなったじゃないか。

 どうしてくれるんだよスライムくん!

 まあ、スライムくんに当たっても仕方ないか。


「そうだ。スライムくんは他にどんなスキルが使えるの?」


 結構急だけど、気になっていることは覚えているうちに訊いておく。


「ボクが使えるスキルは結構あるけど──」


 言葉が途中で止まった。

 何か言おうとしてるけど、俺は〈賢女〉みたいに心を読めたりはしないから、じっと待っている。


「やっぱり言わない」


「え?言わないの!?どうして?」


 そりゃあ、気になるよ。

 言ってくれても良いのにねえ。


「度々見る機会があるんだからその度に見るほうが面白いと思うよ」


 なんか性格まで月に似てるんだよな。

 妙に面白さを求めてるというか、俺をおちょくってるというか………。

 まあ妙に面白さを求める気質は俺もそうか。


「分かった。その度々に期待してるね」


 ちょっとムッと来たので、さり気なくプレッシャーをかけておいた。


「それでよろしく」


 なんか呆気ない。

 こんな肝が座ってるところも月に似ている。

 ああもう!このままじゃ絶対に現世に未練しか残ってないって実感しちゃうじゃん!


 *****


 あのドーム型の空間からバテるぐらい歩いたところに、初めて見るモンスターがいた。

 初めてみたよ。もう5mぐらいある蜘蛛なんて。

 うん、冷静に考えよう。大きい蜘蛛だ。冷静に考えよう。


「逃げろ!!!」


 こんなの相手に出来ないって!


「バカ、逃げるな」


 スライムくんが言う。

 逃げるなって言っても無理でしょ!倒せないでしょうが!

 スライムくんは、はあ、と大きなため息をついた。


「…………沙夜のバカ…………」←(シエルには聞こえてない)


 ん?なんて言ったの?

 まあ、そんなに気にすることでも無いか。

 スライムくんがエクストラスキル〈呪与の焔エンチャントフレア〉で大きな蜘蛛をなんとも大蟹の焼きのように食糧とした。


「うん。なんでそいつ倒せるか分からない」


「シエルは〈呪与の光エンチャントレイ〉が使えるんだから、撃ち倒せばいいでしょうに」


 なんと今までと違う雰囲気なんだろう。

 こんなにスライムくんに説教されるのは悲しい気持ちになってしまう。


「はい、次の敵が来たよ。殺って殺って」


 もう「はい」以外に選択肢はない状況だろう。


「〈呪与の光エンチャントレイ〉!!」


 黒く光る光線が大きな蜘蛛の頭を撃ち抜く。


「いやー、こんなに呆気なく倒せるとは思わなかった」


 本当にそうだ。

 多分俺はゲームとかそんなものばっかり考えていてもワンパン思考がなかったんだろうな。

 大体のゲームは敵をワンパンで倒せないもんな。


「ほら、出来たでしょう?だからやればできるんだってシエルは」


 やれば出来るとかなんと熱血指導なんでしょうかね。

 まあ、実際出来たんだけど……………。

 出来たは出来たけど、俺はもう自分が何なのか分かんねえ感じになっちゃんたわ。

 魔法みたいなの撃つし、大蜘蛛に襲われるし。

 俺はオリハルコンの精神力なんぞ持ってないんだよな。

 マイペースにやる自分主義だからな!


『大蜘蛛があと十匹ほど来ます』


 突然の報告だ。

 無理だろ!十匹なんて!


「じゃあ、やるよ」


 ペチャペチャと前に進んでおります。

 何という事でしょう。初めて見るスキルを使っているではあーりませんか!


『あれは、エクストラスキル〈枯渇ノ霧こかつのきり〉です。対象の生命力を吸って火力へと変換するスキルです。条件として、自分より位が下の者にしか使用できませんが』


 それでも強いじゃん!

 俺なんかが使ったら自滅する系のスキルじゃん!

 ん?待てよ?っということはスライムくんはあの大蜘蛛よりも強いことになるのか?

 まあ、俺も一匹なら倒せるけど。

 あのスキルって、個VS集団ならどんな感じになるんだろう?

 全部含めたステータスよりも自分が高くないといけない的な………………?


『御名答』


 マジかよ!?

 スライムくんって、あの大蜘蛛十匹の合計ステータスよりも高いってわけ!?

 もういっその事スライム様〜って崇めたほうがいいレベルなんじゃね?


「シエル、そっちに一匹逃しちゃった」


 うわっ!

 こっちに一匹来るじゃん!

 っていうか、逃しちゃったじゃなくて、逃したのでお前が殺れ的な何かでしょ!

 もう後がないので頑張ります。


「〈呪与の光エンチャントレイ〉!」


 また頭にクリティカルヒット!

 俺ってエイムの素質あるんじゃね?


『一定の経験値を獲得。レベルが1→5へ移行しました。スライムの加護により、レベルが5→12へ移行しました』


 うん。レベル、あるんだ。

 もう驚かないぞ!スライムの加護とか言っても驚かないぞ!


『スライムの加護とは。経験値量を大幅に増幅。防御力を強化。攻撃力を強化。自律精神度数を大幅に強化。スライムの耐久力と耐性を獲得』


 説明ありがとう。

 スライムってゲームとかじゃ最弱だよね。

 それがこんなにも強化されてるわけでしょ?

 それってチートだよチート。


『スライムの加護を授けされるスライムの発生確率は0.01%です』


 マジですか!

 スライムくん、そんなに凄いスライムなんですか!

 なんか一緒にいる俺がチョー弱く見えるぐらいに強いじゃないですか!


『マスターは弱いです』


 うん。そうだね。うん。

 って、悲しいこというなぁぁぁぁぁ!!


『すみません。本当の事なので』


 追い打ちをかけられた。

 もう精神力が持たないよ。


『スライムの加護により精神力は大幅に強化されています。持たないことはありません』


 俺を過剰に信頼してるのか、舐めてるのか、それが当たり前なのか、またはただ単に俺をおちょくっているのか………。


「はい、次に行こう。レベル上げるよ。それからここ出るよ」


 もうハイスピードなペースで行こうとするスライムくんとそれに何とも思わず乗ずる〈賢女〉。

 俺がもし夫なら尻に敷かれているっていう表現が似合うな。


『条件を達成。スキル〈探索〉を獲得』


 なんかよく聞くスキルだな。

 探索って言うことは何か探すことが出来るのか?


『否。何かを探すことはできません。できるにはマッピングだけです』


 へえ、マッピングね。

 ゲームとかならとてもありがたいスキルだし、この世界でも役に立ってくれるでしょう。


 他になんか面白いスキルないかな?

 歩いてても魔物が出ないこともある。

 そんなときに面白いスキルがあったらいいなと思うのは俺にとっては当然だ。


『ありますよ。エクストラスキル〈水化〉。このスキルは、自分の半径10mの円のモノを水に変える能力です。ちなみに自分だけ沈めないとか出来ます』


 …………………………は?

 え!?なにそれ!

 めっちゃ強いじゃん!

 なんでそんなにも強いスキルを知らなかったの!?

 っというかいつそんなものを手に入れていたの?


『足を滑られて湖に落ちたときです』


 あ、あの時か。

 恥ずかしい経験を思い出してしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る