第43話『クリスマスの魔法』
目覚めると、見上げる天井や匂い、布団の柄がいつもと違うことに気づいた。
(ここは、どこだ?)
未だに記憶が追いつかない。弥生が来れなくなって、母さんに押されて雪の積もった道を走った。店内に入ったけど弥生が倒れて…それで?何か肝心な部分が思い出せない。漢字テストで
「…弥生?」
弥生はそのまま何も言わずに抱きついてきた。
「よかった。岳流が生きてて」
それを聞いて僕は全てを思い出した。
弥生が倒れて、運んだ後にこの部屋に来て空の丘に行った。そこで血色の死神と対峙して…
「勝った、んだよね」
「そうだよ、あなたは勝ったの」
「姉ちゃんの仇、討てたんだよね」
「うん、討てたんだよ」
僕は弥生の腕の中で泣き崩れた。
しばらく泣いて気が晴れた僕は、弥生を誘う。
「この後、行きたいところがあるんだけど、いいかな」
「ダメって言うと思った?」
「あんなことがあった後だから…」
「私は大丈夫よ。あなたが守ってくれたから」
「一旦家に戻って、それからまた来るよ」
弥生は首を横に振った。
「私も行く」
机の上に置いてあったプレゼント。その中には彼女へのプレゼントが入っている。まだ先程の疲れが抜けていないのか、家に入って、気がついたらプレゼントを持って家の外にいた。どうやら母さんから渡されたらしく、ケーキが入った袋も持っていた。
「お待たせ」
斜向かいから声が聞こえる。さっきと打って変わってお洒落した私服コーデだった。何もしなくても可愛い弥生が、とても綺麗に見えた。
「これ、ケーキ。母さんが作ったやつ」
僕はケーキを渡す。プレゼントはまだ勇気が出ない。
「ありがとう。それじゃあ、はいこれ。メリークリスマス」
渡してきたのは小さな箱。可愛らしい紙でラッピングされていて、赤いリボンが巻いてある。
「開けていい?」
弥生が頷いた。
ラッピングを剥がし、箱を開けると、中から財布が出てきた。
「…映画見に行った時、本屋のレジでアーサー・スミスの新作を買ったときに出した財布が、古くなってるように見えたから」
「なんだ気づいてたのか…」
「恥ずかしくて声かけられなかった」
「そうなんだ。プレゼント…ありがとね」
「どういたしまして!」
弥生は可愛く笑って見せた。
「それじゃあ、僕の方からもこれ」
弥生が袋の中を確認する。
「なにが入ってるのかな」
プレゼントというのは目の前で開けられると緊張するものだと知った。
「あっ、ペンダント?」
「うん。気に入ってくれるといいんだけど…」
「つけてくれる?」
弥生がペンダントを僕に差し出す。
「うん」
そっと弥生の首に手を回して、ペンダントをかける。胸に、雪の形のペンダントトップが輝いていた。
弥生はそれを見て、嬉しそうにはにかむと
「うん、気に入った。ありがとう岳流」
と言った。
「僕も同じの一緒に買ってね、一緒にお揃いの写真を入れたいな…って思って」
そう言って僕はポケットから同じペンダントを取り出す。
**********
僕の要望を聞いた美紅に連れてこられたアクセサリーショップで、僕はある商品を手に取った。
「これなんかいいな」
「なにそれ。えっとペンダント?雪の結晶の飾りがついてるんだ。弥生ちゃんって雪好きなの?」
「んー、好きかどうかは知らないけど、弥生と言ったら雪だから」
「そっか。んー」
美紅は少し唸った後
「ならそれ、私も買ったげる」
「え?」
「岳流は、弥生ちゃんに一つ買えばいい、私は幼馴染の貴方に一つプレゼントするわ。そうすればお揃いでしょ?」
僕は驚いて聞く。
「いいの⁉︎」
「大人気アイドルの収入舐めるんじゃないわよ」
「お見それしました」
**********
「あれ?もう一個入ってる」
弥生が袋の中を確認してそう言った。
(もう一個?)
僕はそれしか入れた記憶がないのだけど…
「えーと…手紙?」
(手紙?)
「『僕が死んだら、これは燃やして破棄してください』なにこれ?」
(…………あ!)
「忘れてた…」
僕は青くなって口を手で覆う。
「なに?岳流死ぬつもりだったの?」
「いや、それは違くて…」
説明にしばらく時間を要した。
「ふふっ…なにそれ、面白い」
弥生は口元を押さえて笑いだした。
「ちょっと、こっちは真剣にこれ書いたんですけど…」
さっきと打って変わって真っ赤になった僕が狼狽える。
思いっきり笑った後、落ち着いた弥生は急に話題を変えた。
「あのさ…」
「何?」
「来年のクリスマスも、一緒に過ごせたらいいね」
「うん、それからもずっと一緒がいい」
弥生は嬉しそうに照れて、それを誤魔化すかのように笑う。
「クリスマスってすごいね、普段なら恥ずかしくて言えないことも、簡単に口にできる」
僕も笑って言う。
「クリスマスの魔法だね」
「うん」
僕らは二人、駅前に戻ると、街路樹を彩るイルミネーションを広場のベンチに座って見た。他のベンチにもカップルが座っていて、僕達は上級者カップルの仲間入りを果たした気がした。この時は、ただ幸せだった。そして、浮足立っていた。だから純粋にこの時を楽しめた。
冷静になって考えると、サリエルは最後、自ら力を抜いて僕に殺されることを選んでいた。
知らぬが仏と言うけれど、まさにその通りだ。サリエルは僕に殺されることで、僕を人殺しにしようとしたのだ。
そして、サリエルの思惑を知った僕は、自分が人殺しだと再確認し、それを思い出すきっかけとなる脳内世界に、行けなくなった。
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