俺の幼馴染みとクラスメイトが腐女子だった件
剣竜
第1章 『一学期編』
第1話 『幼馴染みの秘密』
放課後。忘れ物を取りに教室に戻ると幼馴染みがクラスメイトの女子と談笑している所だった。
彼女の名前は水瀬(みなせ)遥(はるか)。家が近所で保育園の頃からの付き合いである。
緩いウェーブのかかった明るめの茶髪。長く伸びた爪はピカピカに磨かれている。スカートは折ってありとても短い。
すっぴんでも十分目を惹(ひ)くだろう端正な顔をナチュラルメイクで更に磨き上げている。
背はスラッと高く、全体的に線の細い体つきであるが、メリハリのついた実にバランスのとれたモデル体型である。
おまけに人当たりも良く、男女問わず人気がある完璧美少女だ。
遥はよりにもよって俺の席に座っている。偶然だろうが、少し意識をしてしまう。
話しかけずらかったので、彼女らの視界に入るようにそっと近付くが、気付かないのか談笑を続けている。
「ちょっと...」
その様子に少し腹が立ち会話を止めようと試みたのだが、返事がないどころかこちらをチラリとも見ない。
既に俺に気付いているだろうにわざと無視をする二人にイライラは限界に達し、俺は強引に自分の机の中に手を突っ込んで忘れ物を取り出すとそそくさと出口に向かった。
こちらに向かって何かを言っているようだが、構わず扉を閉めた。
俺の名前は山下 大樹(だいき)。市立神無月かんなづき高校に通っている高校二年生。
自分で言うのもなんだが、俺は何もかもが中途半端らしい。
所属していたサッカー部は二年になる前に辞めてしまったし、テストの成績も平均点ぐらいだ。
趣味も、音楽は好きだけど特に好きだと言うアーティストはいないし、漫画やアニメも好きだけど周りからはニワカオタクだと言われているほど詳しくはない。
行きたい大学もないし将来就きたい仕事も特にない。そろそろ真面目に考えないとは思っているけど中々やる気が出ない。
トイレで自分について考えてた俺は用を足してトイレから出るとーー
「っと」
女子トイレに向かっていた遥とぶつかった。実は男子トイレは女子トイレよりも手前に位置するので、ボーッとしているとこのような事が起こる。
どん。俺の左肩が遥の胸にぶつかるような形で軽く衝突。
衝撃自体は大したことがなかったのだが、その拍子に遥のバッグか手から離れ、床に中身をぶちまけた。
「あっ...」
「ご、ごめん」
俺は素直に謝ると腰を下ろし、床に散らばった教科書等を拾おうとしたのだが、それを察したのか遥は俺が教科書に触れるよりも先に素早くバッグの中へとしまいこんだ。
そして何も言わずにその場から立ち去った。
「んだよあいつ…」
遥の背中を見ながら思わず呟く。それにしてもいつからだろう。遥が俺に対して冷たくなったのは。
確か中学に入った頃のような…。それまでは普通に仲の良い幼馴染み同士だったのになぁ。
嫌われていると言うよりも、避けられている気がする。
俺も帰ろうと思い、立ち上がると視界の端で何かを捉えた。それは男子トイレの入り口に落ちていた。
「何だこれ…ゲッ!?」
不思議に思いながら手に取った薄い本の中には、男同士が裸で絡み合っているシーンだった。
「うわぁあああ!!」
あまりにも予想外な内容に思わず絶叫し本を落としてしまった。
くそ……っ!何て物を見せるんだ。ニワカオタクの俺が一番苦手なジャンル、それはBLだ。
いや、待てよ…落ち着け、俺。落ち着いて考えるんだ。こんな所に本なんか落ちてなかったぞ…?
考えられるとしたらーー
「っ!?」
ーーそれは遥とぶつかった後ということになる。つまり、これは…遥が落としたのか…?
「うっ嘘だろ!?」
ありえない…!!だってあの遥だぞ!いかにもオタクを毛嫌いしてそうなのに…。小学校の頃だってもの凄く純情だったのに…。
だけど俺は中学以降の遥の事、なんも知らないんだよな。
思春期だし、そういう事に興味を持っても可笑しくはない…か。
だとするとこれは本当に遥のなのか…?
「ーーっ!クッソ!考えても仕方がない!こうなったら本人に確かめてやる…!」
俺は少しヤケクソになりながら床に落とした本を拾い、鞄の中に突っ込んだ。そして自宅へと向かった。
帰宅すると家と前で遥が立っていた。やっぱりあの本は遥のだったのか。
「………」
ところが遥は、家の前に立ったまま、こちらの方を見ず黙っている。相変わらず俺とは目も会わせたくないみたいだ。
「なぁ、お前が待ってたのってこの本の事だろ?」
恐る恐るBL本を差し出すと、遥は俺の手から物凄い勢いで本を奪う。
「……っ!?」
ーーびっくりしたぁ…。やっぱりこの本は遥のだったのか。だけどなんであの遥が…。
すると遥はそのまま無言で俺の横を通り抜けようとした。
「ーーちよ、ちょっと待てよ!」
流石さすがの俺も頭に来て咄嗟とっさに遥の腕を強く握りしめた。
「っ……離して!」
「ご、ごめん」
遥の声で我に返り、すぐさま手を離した。て言うかやっと喋ってくれたな。こいつと話すのも何年ぶりかな…。
「あのさ、それ本当にお前のなのか…?」
「…だったら?」
何でそんな事聞くの?とばかりに睨まれた。
「い、いや、何となく気になってさ。だっておかしいだろ?リア充代表みたいなお前がさ、BL本読んでるなんてさ…」
「…あたしが何を好きになろうとあたしの勝手でしょ!あんたには関係ない!」
遥は何故か怒ってしまい走って帰ってしまった。
「はぁ……。なんで俺、怒られたんだろ…」
真っ赤な夕日が沈むのを見つめながらひとり呟いた。
「ただいま~」
家に帰ると、妹が夕御飯を作っていた。
妹の名前は山下ひかり。現在、近所の中学の三年生。セミロングの黒髪をポニーテールに結び、幼い体型をしている。
しっかりもので、家にほとんどいない両親の代わりに家事をしてくれている。
「お兄ちゃんおかえり。今できたから着替えたらすぐ来てね」
時計を見ると既に六時を回っていた。
「分かった。すぐ行く」
リビングの奥にある階段を上がり、自室でジャージに着替えてリビングに戻った。
「で、何だよ。話があるんだろ?」
自分の席に座り、対面に座る妹に問い詰めた。普段はおかえりしか言わない妹だが、話がある時は向こうから話しかけてくるのだ。
「お兄ちゃんさぁ、さっき玄関前で遥ちゃんと話してたでしょ?」
ひかりは真面目な口調で聞いてきた。
「ま、まぁな…。見てたのか」
「びっくりしたよ。話し声が聞こえてきたから窓を覗いたら何か話しててさぁ。普段お兄ちゃん達全然喋らないみたいだし?内容ははっきりとは聞き取れなかったけど、最後に遥ちゃん怒って帰っちゃったでしょ。何やらかしたの?」
ひかりはどうやら少し怒っているみたいだ。遥の事、慕っているようだったしなぁ。
「違うんだよ。遥のやつ、学校に本を忘れてさ、届けてやったんだけど内容があいつが読まなそうなものだったから意外だな、的な事を言ったら『あたしが何を読もうと勝手でしょ!』てな感じで怒られてさ…。俺、何で怒られたのかさっぱり分かんねぇよ…」
いくら妹のこいつでも、遥がBL本を読んでるなんて言えないしもしかしたら幻滅するかもしれない…。
「ふぅん…。まぁ今時の女の子は繊細なんだから気を付けてよね。遥ちゃんを泣かせたら私が許さないんだからねっ!」
「分かったよ。気を付けるよ…」
ひかりは、遥が怒った原因を理解しているようだけど、俺には教えてくれなかった。
結局その日は、あいつの事ばかり考えるはめになってしまった。
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