第209話 鋼のダンジョン

 モンスターの出現率が異常に低い代わりに、撃破すると必ずレアアイテムをドロップする――この鋼のダンジョンは、かなり癖が強い。


 本来なら、じっくり腰を据えて挑みたいところではあるが……残念ながら、俺たちに残された時間は少ない。

 あと二日。 

 それまでに、虹色の首飾りというアイテムを手に入れなければ……マシロは……


「っ! なんとして見つけないと!」


 一瞬、最悪の未来が脳裏をよぎった。

 それを払拭するように頭を振ってから、もう一度前を向く。


 鋼のダンジョン。


 これまで潜ってきたどのダンジョンよりも、攻略に強い運要素が必要になってくる。

 しかし……よりにもよってなんでこのタイミングで……時間がない中で、もっとも当たりたくない特徴を持ったダンジョンだ。


「もう! 急いでいるっていうのに全然モンスター出てこないじゃない!」

「困った……」


 かれこれ二時間近くダンジョン内をさまよっているが、最初に数匹目撃したくらいで、それからはモンスターの気配すら感じることができない。

 イルナとトーネは強い焦りを見せている。

 冷静を装っているが、ミルフィとジェシカも内心は焦っているだろう。


 二日間というタイムリミットは、長く感じられるようで実際のところそうでもない。

 一応、いろんな冒険者パーティーが協力してくれているため、俺たちだけで探すよりもずっと効率はアップしているはずが、これまでどのパーティーもモンスターに遭遇すらしていなかった。


 ……なめていた。

  

 正直、あれだけの人数で捜索すれば、いくら出現率が低いといってもどこかのパーティーはモンスターに遭遇するものだと思っていた。それがまさか……最初にちょっと見ただけで、あとは遭遇さえできないなんて。


「それにしたって……」


 いくらなんでも、と俺は疑問を抱き始めていた。

 今、このダンジョンには数えきれないほどの冒険者たちで溢れている。それだけの数がいながら、誰もモンスターに遭遇しないなんてことがあるか?


 そんな時に、俺の脳裏をよぎったのは――かつて潜ったあるダンジョン。

 ハーシェ村の近くにあった、あの狭いダンジョンだ。


 あれは見た目こそ探索のしようがない狭すぎるダンジョンであったが、ある条件を満たことで真の姿を見せた。


 ――この鋼のダンジョンも、同じ仕組みなのではないか。


 あまりにも不自然すぎるからな。


「これは由々しき事態ですね、フォルトさん」

「…………」

「フォルトさん?」

「もしかしたら……」


 これまでの情報を頭の中で整理していると――ある仮説が浮かび上がった。

時間が経過すると途端に姿が見えなくなり、おまけに、かつて鋼のダンジョンに挑んだ経験のある冒険者の話では、ここまでモンスターが出現しなかったことなどないという。


 時間の経過とともに姿を消すモンスター。

 そして、普段はそのようなことはないという。


 だとしたら、この可能性は十分にあり得ると思う。


「みんな……カタルスキーさんを捜そう」

「えっ? どういうことなの、フォルト」


 ミルフィが不思議そうに尋ねてくる。

 じっくりと説明をしたいところなのだが、時間がない。俺はみんなに説明をしながら、カタルスキーさんを捜すことに。


 時間的にも、これが最初で最後の挑戦になるかもしれない。

 なんとしても、虹の首飾りを手に入れないと。


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