第170話 次なる犯行

 再び挑む風のダンジョン。

 だが、今回はいつもとは少し状況が異なる。

 

 王宮解錠士ロイヤル・アンロッカードン・ガーネスのお気に入りにして、多くの冒険者から宝箱を奪った疑惑がもたれている男――バルテル。


 そのバルテルを追い、俺たちは風のダンジョンに戻ってきたのだ。

 ヤツはまたここで犯行を繰り返す。

 確証はないが、その可能性は高い――なぜなら、俺たちはヤツの手口について何も把握していないからだ。俺たちも宝箱を奪われた被害者であるが、一体どうやって奪っていったのか、その手段は不明のままだった。


 それはきっと、他の冒険者も一緒のはずだ。

 怒りに打ち震え、著しく冷静さを欠いた彼らはバルテルにとって昨日以上に与しやすい相手となっているだろう。


 バルテルがそれほどの宝箱を欲している理由は……それらをドン・ガーネスに献上するためだろう。それに、宝箱を奪われた冒険者たちは怒りに任せて行動しているが、いざ本当にバルテルを捕まえても、ヤツがドン・ガーネスの名前を出せば牽制になる。


 だが、俺たちはこれ以上ドン・ガーネスに力をつけさせるわけにはいかない。


 バッシュさんや、廃棄のダンジョンで出会ったマルクスさん、そして、まだ会っていないが、彼らの志の根源ともいえる聖女ルナリア様――正しい心を持った解錠士アンロッカーたちにとって、ドン・ガーネスのような存在は大きな障害となりえる。


 俺たちも、できる限りの手伝いがしたい。

 旅の目的のひとつは、ルナリア様がいるという聖都市を目指すことだし。

 


 いろいろと考えているうちに、俺たちは昨日ツリーシャークを倒した場所までやってきていた。

 周囲には怖い顔をした冒険者たちがうろついている。

 昨日の穏やかな雰囲気とはえらい違いだ。


「――で、風のダンジョンに来たまではいいけど……どうやって捜す?」


 腕を組みながら、イルナが言う。

 そう……問題はここからだ。

 どうやってバルテルを捜しだすか。


 思えば、彼が単独で行動しているという保証はない。

 ギルドで暴れていた時は単独だったが、裏では多くの仲間とつながっているということもあり得る。


「今回は集団で動く。みんなで行動を共にし、バルテルを追い詰めよう」


 俺はみんなにそう提案した――直後、


「いたぞおおおおおおお!」


 冒険者のひとりが大声で叫ぶ。

 俺たちはその声に反応して一斉に振り返った。

「いた」とのことだが、発見したのはバルテル本人ではなく、ヤツの使い魔と思われる鳥型のモンスターであった。


「ヤツを追いかけろ!」

「いずれ主のもとへ帰るはずだ!」

「絶対に見失うなよ!」


 冒険者たちはそれぞれ得物を手にし、使い魔を追いかけていった。


「……妙だな」


 俺は首を傾げた。

 なぜ、バルテルはわざわざ使い魔を放ったんだ?

 あれでは、まるで見つけてくれと言っているようなものだ。

 つまり……あれは囮。 

 バルテルはまた犯行を働くつもりだ。


「フォルトさん」

「あぁ……これはチャンスだ」


 ヤツが何かしらの手段を用いて人の宝箱を奪うというなら……魔法かアイテムを使うはずだ。

 それによって生じる魔力を追えば、バルテルの居場所を特定できるはず。

 この龍声剣ならば……それを可能にできる。

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