第167話 不覚

「それじゃあ、開けるぞ」


 解錠レベル103の赤い宝箱。

 これはかなり期待が持てそうだ――と、その時、突然俺たちの視界を何かが横切った。


「わっ!?」

「な、何っ!?」

「! あそこです!」


 驚きのあまり尻もちをついてしまった俺とイルナ。その正体を追おうと立ち上がって辺りを見回すと、マシロが犯人を発見する。

 それは上空を旋回する大きな鳥だった。


「と、鳥?」

「新手のモンスターってわけね!」


 イルナはすぐさま臨戦態勢をとる。

 ミルフィやトーネも、イルナを援護するため駆け寄った。この辺は特に合図を出さなくても行動に移せるくらい、しっかりとした連携が取れるようになったな。

 と、感心している間もなく、謎の鳥型モンスターは俺たち目がけて急降下。


「かかってきなさい! とっつかまえて焼き鳥にしてやるわ!」


 仲間を鼓舞するような威勢のいい言葉を放つイルナ。

 向かってくるモンスターに怯むことなく、力強く握った拳を向けた――が、敵は直前でこれを回避。


「ちっ!」


 突っ込んでこず、身を翻したモンスターに対し、イルナは思わず舌打ちをする。完璧にカウンターを決めるつもりだったが、それが空振りに終わってしまったことが悔しかったらしい。


 だが、イルナの気迫は敵から戦意を奪うことに成功したらしく、鳥型のモンスターはダンジョンの奥へと消えていった。


「ふふん! どうやら、あたしの強さに恐れをなしたようね!」


 腰に手を当て、ふんぞり返るイルナ。

 でも、確かにそんな感じに見えたな……或いは、最初から途中で撤退するつもりだったのかとも思えた。そう感じたのは、イルナとの戦闘を見守っていて抱いたある違和感が原因だった。


「あのモンスター……本当にこのダンジョンに生息するモンスターだったのかな」

「と、言いますと?」


 何気なく呟いた言葉に、ジェシカが反応する。


「いや、そもそもダンジョンに鳥型モンスターは珍しいっていうか……あと、イルナとの戦闘を見ていて、あのモンスターには、一般的なモンスターよりも知性があるんじゃないかとも思えたんだ」

「なるほど。それは確かにそうですね」


 さらに、俺はある仮説を話した。


「さっきのモンスター……誰かの使い魔だったんじゃないかな」

「その可能性……ゼロではないと思います」


 俺とイルナが深刻な表情で顔を見合わせていると、


「ああっ!」


 突然、イルナの叫び声が轟いた。


「ど、どうしたんだ、イルナ!」

「な、ないのよ……」

「ない? 何がないんですか?」

「宝箱……ツリーシャークを倒して手に入れた、あの赤い宝箱がなくなっているのよ!」

「なっ!?」


 イルナの指摘を受けて、俺たちは辺りを見回す。

 

「た、確かに……どこにもないぞ!」

「い、一体どうして……どうやって消えたの?」


 ミルフィが口にした素朴な疑問。

 それにすべてが込められていた。

 仮に、人が盗んだとすればさすがに気づく。モンスターと戦闘中だったとはいえ、赤の他人が宝箱を盗みに来たら即バレるし、そもそも、あれだけのサイズの宝箱を誰にも気づかず持ち出すのは難しい。一瞬で別の場所に移動させるという手段も考えられたが、どのみち術者は宝箱に近づかなければならない。その時点で、もうアウトだ。


 じゃあ、誰がどうやって……


「やっぱり……さっきの鳥型モンスターが関係しているのか?」


 俺たちを襲ったあのモンスター……やっぱり、誰かの使い魔で、俺たちの注意をそらしておくために襲って来たのではないか。

 詳細は判明していないが、今のところそう考えるのが妥当だろう。


「ど、どうする、フォルト」

「……あの鳥を追おう」


 イルナからの質問にそう答え、俺たちはあの鳥型モンスターを追いかけてダンジョンの奥へと足を踏み入れるのだった。

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