第144話 寄り道

 俺たちは次の目的地を風のダンジョンに定めると、馬車を最寄りの町へ向けて走らせていた。


 しかし、移動中に日が暮れてしまったため、やむなく途中で立ち寄った小さな村で夜を明かすこととなった。

 名前はハーシェ村というらしく、なんとものどかな雰囲気が漂う農村だ。


「宿の手配も済んだし、夕食にはまだちょっと時間があるな」

「なら、ちょっとこの村を散策してみない?」

「いいですね! この村のアイテム屋さんに寄ってみたいです!」


 早くも興奮気味のジェシカだが……正直、この村はこれまで立ち寄ってきたどの村よりも規模が小さい。なぜなら、近くにダンジョンもなく、大都市間の移動における中継地点ともならない位置にある。

 村の産業の中心は農業らしいが、出荷するというよりは自給自足がメインみたいだ。

 一応、宿屋はやっていたけど、店主曰く、客が来たのは二ヶ月ぶりとか言って大喜びしていたしなぁ。たぶん、店の裏側にあった畑で野菜を育てるのが本業になっているんじゃないかな。

 なので、アイテム屋へ寄ってもあまり期待できる代物はないのではないか、と遠回しに伝えてみたのだが、


「ちっちっちっ! 甘いですよ、フォルトさん!」

「? と、いうと?」

「こういう村だからこそ、誰にも手をつけられていない、超絶レアアイテムが眠っている可能性があるんじゃないですか!」

「そ、そういうものなのか?」

「そういうものです!」


 ジェシカの気迫にすっかり押されてしまった。

 まあ、必需品の補充をするためにも、アイテム屋へは寄るつもりだったから、別にいいけどね。


 というわけで、俺たちは村のアイテム屋へと向かおうとしたのだが……


「うん?」


 なんだか、視線を感じる。

 その正体は――村人たちだ。


 見たところ、農夫や木こりといった仕事をしている人たちがほとんどなので、俺たちのような冒険者は珍しいのかもな。

 村の状況を考えると、それがもっとも可能性としては高いと判断し、特に気にとめることもなくアイテム屋へと歩を進めていく。


「あっ、ここみたいね」


 ミルフィが指さした先にあったのは木製の看板。

 そこには薬草や剣の絵が彫られており、その下には「営業中」と書かれた別の看板も掲げられていた。


 早速、俺たちは店内へと足を踏み入れる。

 ドアを開けた瞬間、取りつけられた来客を告げるベルがカランカランと音を立てて響き渡る。


「いらっしゃーい」


 随分と若い女の子の声が店の奥から聞こえてきた。

 親の手伝いでもしているのだろうか。


 俺がそんなことを思っている間に、女子組は買い物に夢中となっていた。

 特に、こういった場で同世代の子たちとにぎやかにショッピングするのは初めてだろうトーネは、困惑した様子を見せつつ、慣れてくると自然と笑みも増え、買い物を楽しんでいる様子だった。


 そんな光景にほっこりしていると、


「あれ? お客さんたち……もしかして冒険者!?」


 店の奥から、十歳くらいの少女がやってきた。

 どうやら、彼女が店員らしい。

 ただ、明らかにお手伝いって感じだから、店主を呼んでもらおうか。

 

「悪いけど、店主はいないかな?」

「店主? それなら――」


 少女は自信満々に自分を指さした。


「私が店長よ!」

「えっ?」


 嘘だろ……?

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