第80話 物件チェック

「さて、集まったわね!」


 夕食後。

 イルナによって集められた俺たちは、そこでパーティーだけで寝泊まりができる新たな本拠地の候補を聞かされる。


 ――とはいえ、イルナが認めた好条件の物件はひとつだけ。


「ここなんだけど……二階はなくて一階のみ。決して広いとは言えない面積だけど、私たち五人だけなら問題ないと思うわ」


 説明しながら、イルナはテーブルの上に部屋の図面を広げる。


「場所は?」

「中央通りから外れているけど、そこまで離れていないわ」

「実際に見ることはできるか?」

「明日にでも行けるわ」

「よし。じゃあみんなで見に行くか」

「「「さんせ~い!」」」


 ミルフィ、ジェシカ、マシロの声が綺麗に揃う。

 俺たちだけの本拠地……なんだか、楽しみになってきたな。


  ◇◇◇


 翌朝。

 俺たちは五人揃ってイルナがチェックした空き物件へ向かう。 

その前に不動産屋へ寄り、鍵を管理している担当者と合流することに。


「この物件は本当に掘り出し物ですよ!」


 鼻息荒く語る担当者の中年男性。

 ちょうど前に借りていた人が引き払った直後らしく、放っておけば三日も経たずに次の居住者が決まるだろうと豪語する。不動産屋の常套句っていえばその通りだが、この部屋に関しては本当に引く手数多になりそうだ。


「思っていたよりも広いなぁ」

「収納スペースもたくさんあるわね」

「トイレとお風呂つきっていうのがありがたいですねぇ」

「日当たりも文句なしよ」

「庭もついてる……歌の練習ができそう♪」


 女性陣も気に入ったようだ。


「フォルト、この家でいいんじゃない?」

「そうだな」


 これから、俺たちだけでダンジョンへ潜る機会が増えてくるだろう。だったら、腰を据える場所――本拠地は早めに決めた方がいい。正直、この先待っていてもここより好条件の物件は出てくるかどうか……そう考えたら、答えはひとつだ。

 俺は担当者に声をかける。


「あの」

「なんでしょうか!」

「この家に決めます」

「ありがとうございます!」


 俺と担当者は握手を交わす――これにて交渉成立。

 



 鍵を受け取った後、俺たちはそれぞれの私物を新しい本拠地へと運び込む。

 部屋割りはくじ引きで決めた。

 空いているのは狙いすましたように五つで、どれも大きさに違いはない。異なる点といえば窓からの眺めくらいか。


「おぉ……いいなぁ……」


 俺の選んだ部屋の窓からは、近くを流れる小川が見える。

 

 男の俺は割と身軽だ。

 愛用の武器と最低限の着替えくらいか。

 ――しかし、女性陣は違う。

 それぞれが大きなリュックがパンパンになるまで詰め込んでいた。


「手伝うよ、イルナ」

「えっ? あ、ありがとう」


 リビングで重そうにリュックをひきずっているイルナを手伝おうと、俺は手を差し伸べる――が、これは本当に重いな。かなり力を込めないと持ち上がらないぞ。


「よっと!」


 少し強引にリュックを持ち上げる。

 すると、金具が外れてしまい、中身が飛び出してしまった。


「あっ、ご、ごめ――」


 謝ろうとした瞬間、飛び出た中身を見て、俺は硬直。

 出てきたこれは……イルナの下着だった。


「…………」

「イ、イルナ?」

「……何?」

「か、可愛らしい下着だね」

「っ!」


 次の瞬間、イルナの右ストレートが俺の頬を捉える。

 ……いくらパニックになっていたとはいえ、さっきの発言はなかったなぁ。

 薄れゆく意識の中、俺はそんなことを思うのだった。

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