ショートショート置き場

丹生壬月

うちのカワイイ妹の挙動が最近おかしい

第1話 魔法少女

 窓には明るい色の花柄のカーテンがかけられている。机にはかわいらしいミニサボテンが飾られ、ベッドの枕元にはだらりとしたクマのキャラクターのぬいぐるみが横たわっている。女の子の部屋だった。


 その部屋の真ん中で、少女が姿見を前にポーズを取っている。


 大きな瞳に小ぶりな鼻、控えめに微笑んだ口元。愛らしい少女だ。だが、特筆すべきはその衣装にある。とても普段の日常生活で目にする機会のないコスチュームであった。布面積の極端に少ない薄桃色のワンピース型の衣装で、胸周りやスカートにはフリルがふんだんに使われている。スカートの丈は短く、股下から先は白色のニーソックスで覆われている。靴は履いていない。そして何より異彩を放つのは、その手に握られている装飾過多のステッキだった。


 いわゆる世間――子供や大きなお友達の間――で魔法少女と呼ばれるコスチュームをその少女は身にまとっていた。


 少女は魔法少女なのだろうか。いや、現実的に考えてみて、その可能性は低いだろう。


 少女が鏡の前で再度ポーズを取り直す。


 少女――名前を楓子ふうこという――はアルバイトで必死に貯めた貯金を使って、念願のコスプレ衣装を購入し、今はじめて衣装を試着しているところだった。


 ――なかなか可愛いじゃない。わたし。


 楓子は得意気だった。彼女は今年で高校二年生になるが、クラスの中ではいわゆる目立たない女の子だ。普通、平凡といってもいい。幼なじみである栄子と普段なにかと一緒に行動していることが多いためか、華やかな栄子に比べて、控えめで人見知りな性格である楓子はよりクラスでの印象は薄くなってしまう。


 そんな自分が普段は目にすることがない過激な衣装を着ている事態に、軽く高揚していた。まったく違う新しい自分になれた気がした。


「ムーンハレーション!」


 ステッキを正面に突き出し、可愛らしいポーズを決めて、キャラクターの必殺技名を発声する。


 まさに楓子は今、魔法少女であった。


 その時だった。


 鏡に映った魔法少女のさらに奥、廊下へつながる自室の扉の先に少年が立っているのを見つけてしまう。良く見知った顔。楓子の兄だった。


「…………」


「…………」


 お互いに言葉はいらなかった。

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