第24話 解けた謎

雨竜から話を聞き出す前に、僕は女子AとBに説教を食らわした。

どうしてあんなことを言ったのかと。言っていい内容だったかしっかり自分の中で吟味したのかと。

2人は言ったよ、反省してるって。興奮して歯止めが利かなかったって。

でも最後に言ったよ、愛故の行動だから引けなかったって、自分たちにも譲れないものがあるって。

だから僕も訊いたさ、その愛って何さって。お前たちの譲れないものって何さって。

そしたら2人、何て言ったと思う? 頬を赤らめながら、私たちの口からは言えないだって。


言えよ!!! そこが1番知りたいことなんだよ!! あれだけ場を荒らしまくって何を照れてるんだコイツらは!!


しかしながら僕の説教も空しく、朝礼のチャイムが鳴り響いてしまう。くそう、不完全燃焼でイライラがぐぐぐのぐだ!


とまあそれも一瞬のこと、すぐさま冷静さを取り戻した僕は一限終了後、隣の席に座るイケメン星から引っ越してきた転校生に声を掛けることにした。


「やあ池田麺夫くん、地球の暮らしには慣れたかい?」

「そういうの先に設定教えといてもらわないと困るんだけど」


その返答ができるならアドリブで合わせにこいよ、常人アピールをするな超人が。


「こんなアホなやり取りをしている場合じゃない、さっきの件だ」

「それ始めたのお前だけどな」

「黙れ童貞、どうしてお前と僕が付き合ってることになってるんだ?」

「心当たりを語ってやらんでもないがどうする包茎」


コイツなんて酷いことを。こんな迂闊な発言で僕が包茎だと思われたらどうするんだ。この非人徳的行動が許されて良いのか、ああ悲しき時代の流れ。


「ちなみに童貞と韻を合わせたんだけど上手くね?」


そんな情報はいらん。お前の自己満足で包茎扱いされてたまるか。


「っと、また横道逸れちまった。何の件だっけ?」

「僕とお前が付き合っている(ことにされている)件だ」

「今の発言だけでもお前の自業自得って分かるけどな」

「はっ? ただ質問に答えただけだろうが、人のせいにするな」

「はいはい、じゃあお前が悪いってことをしっかり丁寧に教えてやるよ」


すると雨竜は、「先週のこと覚えてるか」と話を切り出した。


「馬鹿にしてるのか、そんなものおはようからおやすみまで把握してるわ」

「へえ、じゃあ水曜日の昼に食べた定食の副菜三種を全て答えろ」

「フレッシュサラダに鯖の味噌煮、マッシュポテトの三種だ。いやあ、ポテトと自家製マヨネーズがたまらなくマッチしてたな」

「きんぴらごぼうと菜の花のおひたしとかぼちゃの煮物な、何一つ合ってないぞ」


何コイツキモ。なんで人が食べたもの覚えてるの。どう考えても記憶力の使い方間違ってるんだが。


「とまあ記憶力に乏しいお前でもさすがにデートのことは忘れてないだろ?」

「忘れるも何も一昨日のことだぞ?」

「桐田さんの方じゃなくて俺の方な」

「ああ、千利休を語る会な」

「お前の頭はそれしかないのか、そういやちゃんと抹茶奢れよな」


しまった、やぶ蛇だった。せっかく雨竜も忘れていたというのに。今持ち合わせがないから茶道部でなんとかできないだろうか。御園出雲がいたら何だかんだ言いながら出してくれそうだ、今度試してみよう。


「問題はお前が俺を誘った時のことだよ、何て言ったか覚えてるか?」

「勿論だ、君は瞳と恋してるだろ?」

「俺は瞳と恋してねえよ、誰なんだ瞳って」

「僕が知るわけないだろ、瞳って誰だ?」

「じゃあ一旦瞳は置いといて、お前は俺に紛らわしいことを再三言っていたわけだ」


そう言って雨竜は、その時僕が言った言葉を順に読み上げた。


『今週の土曜日、僕とデートしろ』

『だから僕とデートしろって言ったんだ、何度も言わせるな』

『僕が女になる。それなら問題ないだろ?』

『詳しいことは当日話す。だから今は何も言わず僕を女にしてくれ』


「…………」

「どうだ? どう考えてもお前が悪いだろ?」


いや、うん。こうして人から言われることで気付くことがあるというか、当時(先週)の僕は一体何を考えていたんだろうか。


だがしかし、気になることが1つあった。


「おい雨竜。最後の言葉にお前はなんて答えたんだよ」


そもそも付き合ってるという認識は、両方が同意しなければ得られないものだ。先週の僕っぽい生き物も変なことを言ってるが、雨竜の返答がまともならここまでのことにならないんじゃ?


「付き合ってやるって返したけど」

「お前のせいじゃねえか馬鹿野郎」

「ホントだ、俺も悪いなこれ」


何なんだよこの茶番は。

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