*17話 黎明期の終焉④ 怒りのオーバーロード


 怒りが恐怖に勝った結果、色々と思考が抜け落ちるのを感じる。


 ただ、時として冷静な立ち回りよりも怒りに任せた突進が勝る事がある。多分、今がそうなのだろう。


 直感的に限界まで[敏捷]を引き上げた俺は、一呼吸で15mの距離を詰めて、里奈とドラゴニルの間に割って入る。そして、その勢いのままに、先ず1匹のドラゴニルに肉迫。攻撃に移る瞬間[力]と[技巧]に数値を振り直し、その状態で[幻光]を振り抜いた。


 脇構えから飛び込みざまの逆袈裟斬り。それに[魔刀:幻光]が持つ【切断】効果が乗った結果、最初のドラゴニルはひと太刀で脇腹をザックリと断ち割られて転倒する。


 ただ、俺はそれで止まらずにきっちりとトドメを刺しに行く。倒れたドラゴニルに【水属性魔法:下級】で造り出した水の槍を叩き込んだ。そのスキル発動の瞬間、魔法スキルの威力を上げるため存在しない何かの・・・・・・・・数値・・を無理やり[理力]に割り振った。やっている事は滅茶苦茶だが、結果として、倒れたドラゴニルの脇腹の傷に突き立った水の槍は、内部で一気に膨張し、ドラゴニルを爆散させた。


「一匹!」


 飛び散った水混じりの返り血をそのままに、俺はもう一匹のドラゴニルに肉迫。この時は再び[敏捷]を最大限に引き上げている。そして、一瞬で間合いを詰めた後は、[敏捷]をそのままにして、[力]と[技巧]を無理やり引き上げる。


 どうしてこんな事が出来るのか分からないが、頭の中には「スキルの過負荷発動オーバーロード」という言葉があった。多分、それが答えだろう。でも、この際細かい事はどうでも良い。まず、人の女に怪我をさせた分のお礼をきっちりさせてもらう。


 ということで、俺は恐らく目で追えないほどの早い振りで[魔刀:幻光]を一閃。カツンッと乾いた音を立てて、ドラゴニルの爬虫類チックな頭部が宙を舞う。


「最後はお前――!」


 ただ、流石に相手がレッドドラゴニルにもなると他とは勝手が違う。振り向きざまに叩きつけた俺の斬撃は、レッドドラゴニルが持つ大振りの鉈剣(魔剣ではなさそうだ)によってガッチリと防がれてしまう。そして、一瞬、お互いの武器を重ね合わせて力比べのような感じになるが、次の瞬間、レッドドラゴニルはカッと口を開く。


「ブレス――」


 以前に一度喰らっているので、それが火の息ブレス攻撃の予備段階だと分かる俺。慌てて間合いを外す。そして、


――ゴォォォッ!


 一瞬前まで俺が居た場所を真っ赤な炎が薙ぎ払った。


「ちっ」


 ただ、少し離れて見てみると、ブレスを放つ間の奴は無防備だった。なので、再び[理力]の数値を限界を超えて加算して【水属性魔法】で「水の槍」を放つ。


――ジュァァ


 炎の息に飛び込んだ水の槍は、それで蒸発してしまうが、代わりに大量の湯気を放出。その湯気が視界を奪う間に、俺は【隠形行】を発動させて、一気にレッドドラゴニルの死角に飛び込む。そして、再び【能力値変換】で「飛ぶ斬撃」が可能な数値まで[力]と[技巧]を引き上げる。


 狙うは至近距離からの「飛ぶ斬撃」連打。連打しながら間合いを詰めて勝負を決めようと考える。


 後で思い返すと、我ながら呆れるほどに強引な力押しだ。しかし、この時には既に「スキルの過負荷発動オーバーロード」による弊害 ――強烈な脱力感―― が身体の中で鎌首をもたげていた。そのため、俺は勝負を急ぎ、力技でレッドドラゴニルに迫る。


「ギャァァッ!」


 巻き上がるのはレッドドラゴニルの傷から迸る血飛沫。それをまるでシャワーのように浴びながら、俺は最後の間合いを跳躍して詰めると、


「うおぉぉっ!」


 吠えるような声を破裂させながら、平突きの形で[魔刀:幻光]の切っ先をレッドドラゴニルの胸に叩き込んだ。


――【能力値変換Lv4】――


 このタイミングでレベルが上がるのか、と少し呆れる。でも、それはさておき、突き刺した切っ先にはちゃんと手応えが有った。ただ、結末を確認する前に、俺の意識はまるで地球に引っ張られるように沈み込み、もしかしたら、絶命したレッドドラゴニルよりも先に床に倒れ伏したかもしれない。


**五十嵐里奈視点************


「お見事ニャン!」


 その瞬間、ハム美は喝さいを上げた。一方、私はもうコータが心配で自分の怪我も忘れて彼に駆け寄っていた。


「コータ、しっかりして!」

「あうぅ……うぅ……」


 揺り動かすとコータは呻き声を上げる。


 そのタイミングで体育館に岡本さん達が飛び込んで来た。そして、


「こっちもそろそろ片付けるニャン、[極氷封棺]――」


 ハム美が何かを叫び、私は全身を鳥肌におそわれ、金色をしたドラゴニルは巨大な塩の柱に封じ込められた。


「斃す必要はないニャン。これで1年くらいはこのままニャン」


 ハム美は、塩の柱に埋まった金色のドラゴニルにそう語り掛けている。どうやら斃してしまう、という選択肢は取らないようだ。何故だろう? と思うが、たぶんリスポーンを警戒しての事だと直ぐに見当がついた。まぁいずれにしても、今はそんな事を考えている場合じゃない。


「五十嵐さん、コータは一体?」

「先輩! どうしたんですか?」


 駆け寄って来る岡本さんと朱音ちゃんに、私は答える言葉が無い。ただ、レッドドラゴニルを斃したと同時に倒れたとしか言いようがなかった。


「故意にスキルをオーバーロードをさせたニャン。でも、それ位しないと斃せなかったニャン」


 そんな私達にハム美はそう声を掛けると、


「まだ終わってないニャン。怪我人を収容して避難民も収容してサッサと外へ逃げるニャン!」


 と、私達に次の行動を促してきた。


 確かに、今校舎の外には


「ドレイクは単体でレッドドラゴニルよりも強いニャン」


 とハム美が言うようなモンスターが居る。自衛隊の部隊がどれだけ押さえておけるか、そこの所が未知数だから、なるべく早く撤収するに限る。


「行きましょう!」


 少し離れたところから、別の[受託業者]達の声が聞こえる。どうやら、ハム太が「東京DD」の面々を呼びに行ってくれたようだった。



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