第18話 マジックソルト

ついに待ちに待った日曜日がやってきた。

茜ちゃんとの映画だ。

これ、もしかしてデートってやつじゃないか。

いや、もしかしなくてもデートってやつだ。

きっとそうだ。

茜ちゃんと駅で待ち合わせた。

待ち合わせの時間よりも三十分も早く来てしまった。

まあ遅刻なんて絶対したくないからね。

約束の時間の五分前に茜ちゃんがやってきた。


「お待たせー。ごめん、待たせちゃったかな?」


「ううん、全然。今来たところ」


いや、まあ本当は楽しみすぎてかなり早く来てたけどね。


「じゃあ行こっか」


「うん」


映画館に到着してチケットを購入した。

この劇場は今、キャンペーンをやっていて、マジックソルトを観に来た人にはマジックソルトのソルトにかけてポップコーンのうす塩味が百円引きだった。

二人分のポップコーンのうす塩味とソフトドリンクを買って劇場へと入った。

最新映画情報の予告編が次々と流れ、いよいよマジックソルトが始まった。


序盤は、心優しい主人公の少年が、ボロボロの服を着た老婆からこの魔法の塩を買ってくれないかと頼まれる。

少年は老婆がお金に困っているんじゃないかと思って、おこづかいで魔法の塩を買ってあげたところから始まった。

最初は塩をポテトにかけて食べたが、あまり美味しい塩ではなかったら部屋の中に放置していた。異変に気付いたのは夜のことだった。なんと魔法の塩が光輝いていたのだ。

そして、いつの間にか少年の部屋の中にあの老婆が立っていて、マジックソルトの使い方を教えてくれる。魔法は心の優しい人間ほど強力な力となるらしい。老婆は昼間に魔法の塩を自分から買ってくれたのは、自らの欲望の為ではなく、純粋な優しい気持ちからなるものだったから、少年は強力な魔法使いになれるのだと言う。そして世界を支配しようとする悪い魔法使いと戦って倒してくれと頼まれるという内容だった。


塩を買ってあげただけなのに、まさか世界を救う為に戦ってくれと言われるとはね。

俺ならきっと他を当たってくれと言ってしまうだろう。

しかし優しい少年。断れない。

映画は次の展開へと進んでいく。

いや、まあ断ってたら映画ここで終わっちゃうけどね。


その先の展開では、他にも老婆から悪い魔法使いと戦ってくれと頼まれた美少女とクールな少年の三人で協力して悪い魔法使いを倒すことになる。


途中、クールな少年が悪い魔法使いに連れ去らわれてしまう。


ええ!?

こういうのって大体、ヒロインの美少女が連れ去らわれるだろ。

ど、どういうこと?

展開が予想と違う。ある意味、裏切られた。


そして物語は終盤へ。

悪い魔法使いによって操られたクールな少年と戦うことになる主人公とヒロインの美少女。

しかし主人公は優しい少年。

彼を攻撃するなんてできない。だって仲間だろう。正気に戻れよと叫ぶ。

もちろんそんなことでは、正気には戻らない。

ヒロインの美少女が、自分が彼を足止めしておくから悪い魔法使いを倒して彼を操ってる魔法を解いてと言う。

わかった。頼む。とヒロインの美少女に足止めを頼み、悪い魔法使いを倒そうとする。

しかし悪い魔法使いの強大な魔法の前に徐々に崩されていく主人公。

更にヒロインの美少女もクールな少年に圧されていき、追い込まれていく。

絶体絶命の状況を救ったのは、人々の願いの力だった。

負けないでと願う人々の願いの力が、主人公達の魔法を強くした。

クールな少年を操っていた魔法は解け、形勢は逆転。

三人で協力して最強の一撃を放つ。

その一撃が悪い魔法使いを倒したのだ。

こうして世界は平和になった。

最後は主人公とヒロインが結ばれて、クールな少年は悪い魔法使いのような奴が二度と現れないようにする為、守り人となった。

めでたしめでたし。


エンドロールが流れた。

主題歌を歌っているのは、最近流行っているリトルビッグフラワーだった。

大きい花なのか小さい花なのかどっちなんだよ。

この名前が出る度に毎回思う。


いやー、でもなかなか面白かった。

映像も壮大で迫力があった。

特に魔法の戦闘シーンが凄かった。


「面白かったね。凄い世界観に入り込めたよ。ずっと見入っちゃった。悪い魔法使い倒した時、やったーって思ったよー」


あの様子なら茜ちゃんもかなり楽しめたようだ。

よかった。


「映像も凄く綺麗だったねー。魔法凄かった」


「私も魔法使えたらなーって思っちゃった。魔法使えたらなーって考えた事ない?」


「わかるー。魔法使えたら楽しいだろうね」


「ねー」


映画のあのシーンがよかったという話、魔法使いたいよねという話で盛り上がりながら帰った。

今日のデートは、上出来なんじゃないか。


「彰君、今日は映画付き合ってくれてありがとう。また大学でね」


「うん、またねー」


マンションへと帰ってきた。

アルが早く聞かせろという雰囲気を出して全力でこっちを見ている。


【あら、帰ってきたわね。どうだったのよー】


「映画も面白かったし、二人で映画の話とか魔法の話で盛り上がったよ」


【それで?】


「ん?何が?」


【それでその後、どうなったのよ】


「また大学でねーって別れたよ」


【なによ、それ。次のデートの約束とか取り付けてこなかったわけ?】


「あー……」


【あんた、次どうすんのよ。これで終わっちゃうじゃない】


「た、たしかに……。いや、まあ大丈夫でしょ。そのうちなんかあるよ」


【ったく呑気なんだから】

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