25話 百合の花園の顕現とぷちぷちと
今日も長い銀色の髪の毛をおっぱいの上にふにょんと乗せているシルヴィーさまから、ご自身のお着替えも手伝っていいよ、っていう、まさかのご提案。
僕が、その服の下をまさぐっていいよ?っていうご提案をされたからにはすぐさまに承知しなければならぬ。
なら、すぐにお返事をっ。
「……じょーだん、よ。 あなたたちの間に割ってまで入ることはしないわ」
「………………………………それは残念です」
………………………………嗚呼。
心の底から、魂から残念に思う。
だってだって、ジュリーさまとはまた違って……たわわなんだ、ボンキュッボンなんだ。
だから当然に……僕の子の小さな手で脱がさせていただいたときのインパクトはきっと、それはそれはもう 、ドのつくインパクトに違いないだろうから。
だからこそ逃がした魚はおっぱい、じゃない、おっきかったんだ。
「……それじゃ、私はうちの人たちに手伝ってもらって、いつもの部屋で着替えてくるわね。 今日の服とか荷物とかお化粧道具とか、ぜーんぶまとめてあっちに置いてあるのだし。 ……なにより? あなたたちの熱々を邪魔しちゃ悪いものね」
「……人の体をじろじろ見ていて……ずるいですよ、シルヴィー」
「言ったじゃないの、ぜーんぶあっちなんだって。 取ってきてもらっていたら時間なくなっちゃうんでしょう? あなたのお父さまたちが準備されているのだもの。 あ・と。 いきなり脱いだのは、ジュリー。 あ・な・た。 んで脱がせたのはリラね」
「それは、……そうですけれど」
ああああああお口をちょっとすぼめていじけた感じの声で甘えられないらっしゃるジュリーさまがああああああ!!!
………………………………、ふぅ。
「………………………………。 それにしても本当に、あなたの口調、いつになったら完全にくだけるのかしらねぇ……? いつもいつもそんなに堅っ苦しく話していたら、また、……リラが来る前の状態ってやつになっちゃうわよ? きっと。 表と裏はしっかりと使い分けないと、いつか取り返しが付かなくなっちゃうって、私のお父さまも言っていらしたし」
「……シルヴィーほどになるのは難しいと思い、思うけれど。 でも、ありがとう。 頑張ってみるわ」
「そーそー、その調子よ? リラと一緒にがんばりなさい? ……それじゃあね、私は着替えてくるから。 また朝食でまた、ね」
「ええ、また後で」
「失礼します、シルヴィーさま」
ちりんちりんと……シルヴィーさまがお持ちになった鈴を鳴らされると、こんこんという音と共に扉が開いてシルヴィーさまのメイドさんが入っていらして、掛けてあった羽織りものですけすけなお姿を隠されてしまった。
至極残念。
とても、極めて。
………………………………ま、いっか。
どうせ今日の夕方のおふろも、夜のパジャマパーティーでもお目にかかれるんだし。
……金と銀、大と中、そんなおふたりの肌色な百合園がもっかい。
えへ、えへへへへへ……。
……と、がっかりしているうちに桃色な光景を思い返していたら、お部屋から出ようとされていたシルヴィーさまがいつの間にか振り返っていらして、僕をじっと見つめられていたのに気がついた。
「………………………………?」
「……リラも、また後で、ね?」
「はい、またお会いしましょう 」
なんだか不思議な感じの声と、………………………………なんとなくだけど、不審な感じ……?が混じったような視線を向けていらしたシルヴィーさまは、そのまま扉の外へと出て行かれてしまった。
………………………………………………………………。
ぱたん、と扉が閉まって、とたんに静かになる室内。
…………よく分かんないけど、まったくに残念だ。
大切な機会を見逃してしまったのが、とっっても。
………………………………なーんて少しだけ後悔してみたけど、よく考えたらシルヴィーさまはそういう冗談をよく言う方だし、今のもきっとそうだ。
最初の頃はよくセクハラまがいのことをジュリーさまにおっしゃって……、でも、ジュリーさまってばもんのすごく……その方面については箱入りなもんだから、それがぜんっぜん分からなくって。
それで言わなくなったんだったっけ。
……今考えてみれば、あれもシルヴィーさまなりの距離感の測り方だったんだろーか?
できればそれを僕にも向けて欲しかったところだけど、まぁこのちんちくりんだし、しょうがない。
ひょっとしたら、僕がいないところでそういう冗談を今でもときどき投げかけていらっしゃるのかもしれないし。
………………………………子供の教育に悪いとかなんとかで。
僕はむしろそういうのについてはこの世界の誰よりも熟知している自負はあるのに、残念で仕方がない。
思う存分に語り合いたいのになぁ……。
それを女性と語り合うっていう時点でそうとうなセクハラなんだけど、信頼関係がある間柄でのそれはセクハラにはなりえないんだ。
……けどなー。
問題は、そういうのをする手段が、ものが僕の体にくっついてないっていうのだけは本当に残念で仕方がない。
けどまあいいやそんなことはどーだって。
こうして女に生まれ変わっちゃったおかげで……ものがないからこそ、こうしてジュリーさまたちの間に入ることができるんだからだからな。
昨日だって、お風呂で……湯けむりの中で見た、あのふたつのたわわをどさくさに紛れて触ったんだし、今度は濡れていない状態でさわさわと触ってみようと思っていたけど。
……ここにジュリーさまのものもあるし、それでいっか。
「…………ジュリーさま少し屈んでください。 お胸のリボンが少しずれているのに気が付きましたので」
「あらそうですか。 それではお願いします」
………………………………と見せかけて。
「おっと手が滑って申し訳ありませんジュリーさま」
完璧に揃えてあるリボンには触れないで、軽く両手でジュリーさまのふたつの控えめなそれを……さすがに揉むとばれるかもだから、そーっと周りのふにょんとしたところを。
「んっ、………………………………いえ、平気です。 ありがとうございます」
改めて、やわっこかった。
……うむ。
満足満足。
☆
馬車でごとごとと揺られておしりが痛く……ならない。
だってジュリーさまのふとももの上だし、そのジュリーさまのおしりにもふわふわのクッションがあるからそこまでは痛くならないはず……んで僕はおしりも背中も首も頭もふにょんふにょんで柔らかくっていい匂いでつまりは満足し尽くして、ついうたた寝しちゃって起きたころになって、ようやく着いた原っぱ。
ジュリーさまのお父さまの領地の中でも、ひときわ景色のいいところ。
それなりの丘になっているもんだから、どこを見ても遠くまでくっきりと開けていて、僕でもなかなか好きなところ。
北の方には、ふだんジュリーさまたちとだったり、僕……とお付きの人たちだけで行く町が見えて、そのさらに遠くにはそびえ立つ山々。
上を見上げると真っ青すぎて目が痛いほどの空が広がっていて、陽の光は容赦なくさんさんと降りかかる。
さて、さっきまでジュリーたちはお花摘み……いや、上品な言い方の方じゃなくってほんもののお花摘みをしていたり、適当に歩いたりいきなり追いかけっこしたりして楽しんでおられたけれど、僕はずっと木陰でそれを眺めていた。
ほんとうはぜひともにきゃっきゃうふふに混ぜてほしいところなんだけども、馬車から出てからはこの木陰まででさえ傘をさしてもらって、今もじめじめしてる感じのとこでおしりの下に敷物を広げてぐだぐだしている。
陽の光に当たらないのは火に焼かれて灰にならないように……大げさじゃなくわりと真剣に僕が柔いからだ。
けど、僕はこれでいい。
僕はこうして、遠目でも……ときどき風に乗って声まで聞こえるし……おふたりの周りと間で百合が花咲くきゃっきゃうふふを眺めているだけで充分なんだ。
うむ。
これだけでも今日ここに来た意味があるというものだ。
なんともすばらしい光景……ほんとにビデオどころかカメラさえないのが悔やまれる。
乙女たちの百合の花園を、この目に焼き付けるだけでおしまいだなんて………………………………人類の大きな損失だろう。
うれしいのに悲しいっていう、なんとも矛盾した感情にやるせなくって、ちょっともぞもぞと敷物の端に移り……名もなき草をぷちぷちと引っこ抜きながら発散してみる。
………………………………………………………………。
……半分以上は引っこ抜けなかったけど、帰ったあとのお仕事、お手紙のこととかを考えて気を紛らわせる。
僕がこうしておふたりから離れてひとりじめじめぷちぷち過ごしているのには、お付きの人たちはもちろん慣れている。
僕が話しかけられるのもあまり好きじゃなくって、丸1日くらいは会話っていうものをしなくても平気っていうのも、むしろその方が快適だっていうのを知ってくれている。
だから彼らもきっと、お嬢さま方を眺めながら……僕がてきとうにちぎっては投げている草をも一緒に眺めながら、ただただそばに控えていてくれているんだ。
うん、実に快適だ。
「……ふぅ、ずいぶん動いたわねぇ。 少し汗かいちゃったわぁ」
「ええ。 久しぶりだったから、ついはしゃいでしまったわねっ」
ぺいっと草を投げて振り返ると、いつの間にかジュリーさまたちがこちらへいらしていた。
汗とな?
……帰り道が楽しみだ。
お付きの人からすっと差し出されたハンカチで手を拭ってお嬢様方の元へ……汗の香りを求めて近づくと 、僕は左右から挟まれるように座らされて、つまりはサンドイッチにしていただいた。
すんすん。
すんすんすんすん。
………………………………………………………………。
うむ。
いい香りのお嬢さま方は、お座りになってすぐに差し出されたお水をこくっと飲みされてほっとひと息される。
僕はあの水になりたかった。
そうだ、次に生まれ変わるんだったら……。
いや、さすがにそれはないな。
とにかくも、喉を鳴らす音が美しい。
ジュリーさまは控えめに、少しずつこく、こくって飲まれて……シルヴィーさまは豪快にごくごくごくって飲まれて。
「……んく、ごめんなさいリラ、おひとりで退屈ではありませんでしたか?」
「いえ。 お付きの方たちもいらっしゃいましたし、それに僕は静かにこうしているのは好きですゆえ」
「そうですか。 そうですよね、リラは。 ……それにしてもつい楽しくって、走りすぎてしまったので……とても疲れてしまいましたわ。 やはりお屋敷の周りを少し散歩する程度では経験のできないものですね」
「です。 ジュリーさまのお体のためにも、ご病気を治すための……以前のような頻度でする必要はないですけど、それでもそうして楽しみながらの適度な運動と、こうして陽の下での時間は大切なのです」
「ジュリーって、見た目や性格によらなくって実は体を動かすの好きなのよねー。 私もこれでもけっこうふだんから歩き回ったりしているけれど、少なくともジュリーよりは外に出る時間が多いのだけれど、その私よりもずっと動き回る体力あるんだから」
「だって、楽しいでしょう? 体を動かすのって。 ……疲れるのは楽しいというわけではないけれど、でも、思い切り楽しんで……その後にこうして横になるのって、とっても楽しいのよっ」
すかさず僕はお付きの人たちとアイコンタクト。
そしてジュリーさまの後ろにさっと敷かれるもこもこのクッション。
ありがとう、ってひとこと告げたジュリーさまは力を抜いて後ろにぽふっと倒れられて、髪の毛はぱさっと広がって。
…………………………控えめに言っても女神な光景が広がった。
ああジュリーさま。
どんなことをしていてもお美しい。
……つくづくに。
つくづくにカメラがないのが、死ぬほどに悲しいけど死ぬほどに嬉しいっていう矛盾にさいなまれる。
ああ、もったいない……もったいないけど、お美しい……嬉しい……、ああ、あああああ……。
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