第3話 水の都 アクトゥール
さらさらと心地よい水の流れる音がする。
とても澄んだ美しい水で潤った街、それが古代のアクトゥール。
「はい、着いたー!デザート、デザート、スイーツ、スイーツ!」
エイミが宿屋へ駆けて行く。あいつ、走るの速くなったんじゃないか・・・?
追いかけるアルドとアナベル。心なしかアナベルも速足のようだが。
「なんかごめんな。こんな事で王都を留守にさせてしまって、大丈夫か?」
「えっ、ああ、そんな、大丈夫よ。それに、違う時代をこうして歩けるのはとてもいい経験になるもの。見なさいよ、こんなに綺麗な水路、私たちの時代ではとても作れやしないわ。」
いつもより早口でうろたえたように話すアナベル。やっぱりいつもとちょっと違う。エイミのペースに巻き込まれてるのかな、アルドはそう思った。
宿屋へ入ると店員と話しているエイミの姿が見えた。
「遅い遅い!ねえ聞いてよ。テイクアウトできるんですって!」
「ていくあうと・・?」
「ああ、えっと、お持ち帰りできるってことよ。それでね、店員さんが言うには、酒場のドリンクも美味しいから飲んでいって欲しいって。デザートにドリンクがセットなんて最高じゃない?!」
「いやいや、俺たちお酒なんて無理じゃないか。」
「だーかーら、もちろん確認済よ。アルコール以外の飲み物も美味しいんだって。ここのデザート持ち込みも大丈夫らしいわ。」
もう完全に行く気じゃないか。苦笑いしながらアルドは答えた。
「すごい行動力だな。あらためて実感したよ。じゃあ酒場に持って行って食べよう。」
「今更何言ってるのよ、私の性格くらい知ってるでしょ。ん?アナベルさん聞こえなかったかしら、大丈夫?」
「ああ、ごめんなさい。ここの街、店内にも水が流れるような仕組みがあるのよね。あまりの美しさについ見とれてしまっていたわ。水の音を聞くのもすごく好きなのよ。失礼したわね。」(これだけ綺麗な水があるからこそ存在し得うるスイーツなんだわ・・。ユニガンに持ち帰ったとしても、どんな腕利きの職人でも作ることは無理ね。ああ、残念だわ!)
心の声は誰も知る由もない。
程なくして包みが渡された。
「お待たせいたしました。当店自慢のスイーツ、冷製スフィア・コッタでございます。くずれやすいのでお気をつけてお持ち下さい。」
「どうもありがとう。さあアルド、酒場に行くわよ。」
水の輝きの美しさに目を奪われながら水路に囲まれる道を歩き、三人は酒場へと到着、店内に入った。
酒場のマスターが声をかけてくる。
「いらっしゃい。美味い水なら世界一だよ。どんなドリンクがご希望だい?アルコール抜きかな?」
「ああ、はい。おすすめの飲み物をもらえますか?」
「よしよし、席についてちょっと待ってておくれよ。」
奥のテーブルに座り、ドリンクが運ばれてくるのを待った。カウンターの向こうにはたくさんの種類の酒瓶が陳列されている。
「スイーツ、早く食べたいなあ。」
「ふふ、少しお預けね。でもその分きっと美味しさも増すわよ。」
楽し気に話すエイミとアナベル。こうしてると二人ともまだまだ可愛い女の子って感じだな。
マスターがドリンクを運んでくる。
「へい、お待たせ。君たちのイメージで作った特製カクテルだ。こちらがホーリーブルー、ブルーキュラソーにレモンを絞ってだな・・・。」
なにやら蘊蓄が始まってしまった。これは長くなりそうだ。
「ねえ、アルド。マスターが言ってたことわかった?」
「いや、俺がわかるはずないだろ。」
「そうよね。ちんぷんかんぷんな顔してる。いつもの。」
見かねてアナベルが落ち着いた声で言う。
「まあ、カクテルってものはそういうものよ。マスターの腕を信じましょう。何が入ってるか理解できなくても私たちのために作って頂いたのだから。大丈夫よ。」
そうだな、とりあえず乾杯するか。
「じゃあ、お疲れ様。この旅にかんぱーい。」
チン、とグラスを合わせて各々飲み物を口にする。
「うん、美味しい!」
「ええ、甘いのにサッパリしてて美味しいわ。」
「すごいな、やっぱり水が美味いからなのか?こんなの飲んだことないや。」
カウンターの奥で小さくガッツポーズをとるマスターがいた。
そしていよいよ待望のスイーツの開封である。目にも涼やかなスフィア・コッタが目の前に現れた。
「きゃー!これこれ♪美味しそう!」
エイミが歓声を上げる。
「いただきます!」
透明のぷるぷるとしたその物体にスプーンを差し込み、そっと口に運ぶ。
「んふっ」
たまらず誰かの口からこぼれた吐息がエイミの声でかき消される。
「美味しーーい!中に甘いボールが入ってる!なんだろこれ!ほどよい甘さ!最高ね!いくらでも食べられそうだわ!」
「ええ、とても美味しいわね。」(ああ、来て良かったわ・・・。ディアドラも好きかしら、今度連れてこないと)妹の顔が脳裏に浮かぶ。
ニコニコと嬉しそうな二人の様子を見ながらアルドも同様に妹のことを考えていた。
お兄ちゃんだけ食べてきたのー?えー、ずるーい。そんなフィーネの声が今にも聞こえてくるようだ。
ここに来たことは黙っておこう。
お腹も満たされ、会話が途切れると耳に聞こえるのは癒しの流れる水の音。3人が睡魔に襲われるのも時間の問題だった。
「ふわーあ。ああ、眠くなってきたな。」
「うん、私も。」
「鬼竜に戻って帰りましょうか。」
その時、エイミがはっとした顔になって言った。
「ねえ、鬼竜って休めるところあったわよね。そこで今夜は泊まらない?」
アルドが答える。「ああ、大丈夫だろ。部屋もいくつかあったしな。」
「ねえ、アナベルさん!一緒に泊まりましょう!」
「えっ」
「私ずっと憧れてたの。アナベルさんみたいな大人で落ち着いた強い女性。せっかく一緒にいるんだもの。今夜は色々聞いてみたいことがあるのよ。大人の女性の魅力ってやつをね!」
「おいおい、エイミ、無茶言うなって・・」
だが、返ってきたのは意外な反応だった。
「ふふっ、大した話なんてできないけれど、私なんかで良ければ。むしろ私のほうこそエイミのまっすぐで素直なところ、見習いたいくらいだわ。」
「わあ、やったあ!嬉しい!女子トークいっぱいしましょ!アルド、邪魔しないでよねっ!」
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