エイミと食べ歩き隊
ねこのふでばこ
第1話 はじまりの果実
エイミ~!ほら、食べな!
アルドがよこした一つの果実、そこから始まるストーリー・・・
「ねえ、アルド?」
エイミが伏し目がちにつぶやく。
「ん?ちゃんと食っとかなきゃだめだぞ。これからこの扉の向こうへ行くんだから。」
アルドはサクサクといい音をたてて黄色くて丸い果実を食べ終わった。
「ええ、食べるわよ、食べるけどね。」
シャリッ!爽やかな香りがひろがる。
「ちがうの。これじゃないの。」
「え?」
「ねえ、いつもこればっかり!もう!飽きたの!!!」
ちょっ、どうした。他のメンバーが一斉に振り向く。
「次元の狭間ですぐもげるからってさ、いっっっつもこれよ!
何が!遠い昔に!食べたような!懐かしい味よ!毎日食べてるっての!!」
冷や汗をかきながらアルドが答える。
「いや、美味いだろ?それにみんなも食べてるじゃないか。」
他のメンバーも加勢するかのように答える。
「うむ。美味いと思うぞ」「美味しいです~」「まあまあなのだわ!」
エイミがため息をつく。
「そりゃね。あなたたちはそうかもしれない。まだここに来て日が浅いもの。
でもね。私はもうアルドとの旅も長いの。毎日毎日私の天上げしてくれたのはそりゃ嬉しかったけどね?1日6回はこの果物食べ続けてるのよ?」
まてまて、それは言っちゃあいけないやつだぞ。そもそも、それを言うなら俺だってさ、とアルドも思うところは存分にあったが黙っておいた。
エイミの勢いは止まらない。
「やっとさ、天も200を超えてさ、役割終了かと思ったら今度は脇役よ!とりあえずついて来いってさ!控えだからHPもMPも減ってないっての!」
これはますますやばいやつだ。アルドも皆も察知した。
「エイミ、落ち着いて。わかった、わかったから。どうしたらいいんだよ。」
じっとアルドを見つめるエイミ。
「美味しいもの、食べに行きたい。色んな土地の名物料理。エルジオンじゃ食べられないもの・・・」
ぽん、とアルドの肩に置かれた手。
「行くがよいでござる。アルド、エイミ。アナダンの周回なら拙者たちで済ましておく。たまには心置きなく合成鬼竜で旅してくるがよい。」
ケロケロと笑う声。
「あ、ああ・・すまないな。ここまでエイミが溜めこんでるなんて気が付かなかった俺の責任だ。エイミが行きたいところに行こう。」
「いいの?嬉しい!ありがとうアルド!ありがとうみんな!やったあ!」
「待てって!そっちはノポウカンパニー!落ち着けって!」
こうしてアルドとエイミの旅が始まった・・・
風を切り大陸上空を飛ぶ合成鬼竜、その甲板に二人の姿はあった。
「あー!気持ちいい!やっぱり最高の景色ね!アルドったら早く早くぅ!」
ステップを踏むように甲板を走るエイミ。
「さあ、この景色を眺めながら食べましょう!」
小脇に抱えるのは、戦艦クルーが二人のために用意してくれたサンドイッチ。アルドの妹のフィーネが作るものよりちょっとピリ辛で大人の味だ。エイミはニコニコしながら包みをガサガサと開け、勢いよく口を全開にしてほおばった。
「うん、そうだったわ、この味!フィーネちゃん直伝のレシピで作ってくれてるのよね。私もこれなら作れるかなあ。」
いや、やめたほうがいい。卵焼き作るって言って消し炭にするだろ・・・。
苦笑いを浮かべながらアルドもサンドイッチにかぶりつく。
「ところで、どこに行きたい?鬼竜に行先伝えないとずっと旋回のままだぞ?」
「うーん。そうねえ。アルドが決めてよ。」
言い出しっぺのくせに、エイミは生返事だ。どうやら今は、頬をきる風を感じながら食べるランチに夢中らしい。アルドも眼下に広がる景色を楽しみつつ、シャキシャキといい音を立てながらエイミが話しかけてくるのを待つことにした。
食べ終わってしばらく経ったころ、エイミがぽつりぽつりと話し始めた。
「私ね、エルジオンの人間でしょ?あなたに会うまで、時空を超えるまで、エルジオンのものしか食べてないのよね。それが普通だと思ってたけど、もちろん美味しいと思っていたけど、全部加工された食事なのよね。あなたたちの時代って、すごく不便だけど食べ物に関してはすごく羨ましいわ。素材そのままを頂いてるっていう感じが。」
ああ、そうだ。地上に住むことすらできない未来では、肉も野菜もそっくりに加工された食事なんだった。言われなきゃわからないくらいよくできてて、とても美味しいけれど。
「そうだな。じゃあ俺の時代か古代か・・・」
「ハクション!」
ここでエイミが大きなくしゃみをする。おいおい、風にあたりすぎで体が冷えたんじゃないのか。そうだ、それなら・・・
「よし、決まりだ。ユニガンの宿屋に行こう」
「いいわね!あのスープね!」
エイミは満開の笑顔を見せた。
「鬼竜、俺の時代、AD300年、ユニガンへ向かってくれ。」
「承知した。」
鬼竜はスピードを上げて王都ユニガンへ進路をとった。
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