第9話ルイの安堵

ルイ第一王子視点です。


 朝日が昇り侍女たちが仕事をはじめた頃、僕は自室を出た。すると部屋の前の衛兵に声を掛けられた。ルカに部屋に行くと言うと驚かれると当時に心配された。一緒にルカの部屋まで来て、ルカの部屋の衛兵に挨拶をすると帰っていった。

 ルカの衛兵は朝早い事と僕の訪問であるに衛兵は驚いていたが扉を開けてくれた。部屋に入るとルカは着替えをすませ、テーブルに座っていた。


「おはよう。早いね」


「おはよう。約束だからね」


 挨拶をするとすぐにルカの目の前に座った。ルカは話の内容をまとめているのか僕から視線をそらして床を見ている。静まりかえりゆっくりと時間がすぎるのを感じた。

 早く聞きたいと焦る気持ちがあったがルカの気持ちを考え、我慢した。


「ルカです。ルカ・アレクサンダー・ウィリアム」


 覚悟するように静かに名乗った。産まれた時から一緒なのだから今更名乗らなくとも知っている。しかし、それがとても重要なのだと思い、ルカの次の言葉を待った。


「しかし、ルカではない記憶あるんだよ。ルカではない人生を歩んだ記憶」


 突拍子もない話に目を大きくした。そこからルカは言葉を詰まらせた。恐らく信じて貰えないと思っているのだろう。膝の上に置いた手でズボンを握り締める。椅子に座ってから一度も視線を上げていない。まるで、しかられている子どもだ。


 ルカに何か違う要素がはいっていると感じた自分は間違いではなかった。

 突然、静かな空間にお腹のなる音がして、ルカは顔を赤くする。


「大丈夫だよ」


 なるべく柔らかい口調で声をかけると僕は立ち上がり扉の外に顔を出し紅茶と軽食の準備を使用人に頼む。部屋に戻りしばらくすると戸を叩く音が聞こえた。

 僕の専属侍女が紅茶とサンドイッチを持ってきてくれた。それをテーブルの上に置くと侍女は丁寧にお辞儀をして退室した。

 ルカは紅茶がくると頭をあげ「頂きます」と言い、すぐに紅茶を口にする。そしてサンドイッチもすぐに食べてしまった。「ごちそうさま」と言うと幸せそうな顔をしている。

 今までの顔が嘘のようだ。食べられれば何でも良いと思う僕と違いルカは昔から食べることが大好きであった。


「ごめん。話の途中で食べてしまった。しかも朝食前に……」


「でも、朝食も食べるでしょ」


 僕の言葉に笑顔で頷いた。細い体のどこにはいるのかと思うほどルカはよく食べる。公の場ではマナーを守りきれいに食べるが、そうでない時は汚くはないがマナーとしては問題がある食べ方をする。僕に気を使っていない証拠だと思うとその食べ方も見ていて安心する。

 ルカが食べ終わったのを確認すると僕は口を開いた。


「じゃ、一つずつ確認して言っていいかな。まず、ルカとは違う女性の記憶はいつから? ルカの記憶もあるんだよね」


「うん。思い出したのは昨日」


 軽いノリで話すルカに面くらった。さっきは自分の名前を改めて名乗り話を始めたのに食事をしたら忘れてしまったらしい。

 まぁいいか、それがルカなんだと思う。


「でも、昨日の症状はルカのだって言っていたよね」


「そうだよ。緊張しやすいみたい。だからあまり人と関わりたくなかった」


 緊張しやすい?

 あれは病気だと思うがルカはそう感じていないのか。これでルカが他者に近寄りたがらない理由がわかった。“僕にも緊張するのか”と確認するとルカの返事はあいまいだった。ルカ自身のよくわからないようである。


「昨日の朝は大丈夫だったけど、夜は緊張した」


 昨日の朝と夜、ルカに接した時の自分の行動を必死に思い出した。ルカは今僕と普通に話している。つまり朝と今の僕は同じで夜だけ違うということだ。


 昨日の夜、ルカの前で何かしたかな?

 一瞬、中庭にいたサラを思い出したが、首を振った。挨拶しないでいなくなる侍女などいない。だからアレは見間違えだと思った。


「昨日の夜、僕に対して嫌だと思ったことはないかい」


 ルカ本人に確認した。ルカは一瞬目を大きく開いたがすぐ元に戻し手を顎にあてた。思い出しているようである。僕ももう一度考えなおす。


 “兄上の方が嘘くさい”

 “貼り付け笑顔”


 昨日ルカに指摘された言葉を思い出した。おそらくルカは“嘘くさい笑顔”正しくは“下心のある雰囲気”に反応しているのだろう。ここで一つ思い出した。多分、この症状の原因となる心の傷を作ったのは彼女だ。しかし、彼女の話をすると大変なことになりそうであるため、今はまだしまっておく事にした。


「でも、僕を避けたのは緊張だけじゃないよね」


 今の話は続けたくないため、切り替えることにした。ルカはそれに気づいてないようで素直に僕の質問に答え始めた。今回はなんだか照れ臭そうに話す。


「家庭教師が兄上と私を比較して、私を否定したんだ。だから授業を受けたくなくて……。けど、授業に行かない弟がそばにいると兄上は恥ずかしいかなって思った。

 一回避けたらなんだか気まずくなって避け続けてやめどきが分からなくなった。意地をはってしまった」


 恥ずかしそうにして、僕と目があわない。口を尖らすその様子は年相応である。そんなルカが可愛く思える。今までの重い気持ちがすべてなくなった気がした。


「そうだ、もうひとつ。我が国が崩壊するんだよ」



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