第6話 学び

 騎士団長に部屋まで、送ってもらうとすぐに図書室に向かおうと扉をでた。すると部屋の衛兵が行先を聞くのだ。

 さっきは使用人と一緒に部屋の外にでたため何も言わなかったが今回は一人であったため声を掛けられたのだ。行先をいうとそこまで衛兵はついてくる。城内での護衛も彼の仕事だ。

 しかし、私はついて来られるのが嫌だった。図書館では一人で本を読みたかったのだ。部屋までは入って来ないにしても扉の外に人がいるのは……。

 だから衛兵には「どこも」と伝えられて部屋に戻った。そして窓から部屋の外にでると細い足場を伝いゆっくりと図書室に向かった。そこまではよかったのだが、図書室の扉に鍵がかかっていたのだ。


 当たり前か。


 仕方なく、ゆっくりと壁を伝って下に中庭に降りた。

 それから城内に入り、図書室を目指した。


 図書室は自分が暮らしている塔にある為、流石のルカも場所は知っていた。

 自分の暮らす塔の内部は全て覚えているようだ。それも覚えていなければ本当にバカだ。いや、すでにバカであるが小学生男子と考えると仕方ないのかもしれない。


 図書室は王族専用という事もあり、鍵がついている。鍵は、学習をはじめる時に家庭教師から貰った。

 図書の数は数え切れないほどある。そして、ジャンルも作者も全てバラバラに収納してある。どこに何があるか全く見当がつかない。恐らく秘密保持のため何かの法則性で並べているのだろう。

 その法則をルカは勿論知らない。幼少期のルカはこんなに馬鹿であったのかと頭が痛くなった。

 摂政になったルカは頭の回転が早く国内外の情勢も把握していた。戦略の方法はえげつないが効率的であると何度も感心したものだ。

 天才も努力を怠れば凡人以下と言うことだ。


 今のルカは凡人以下だなぁ。


 図書並んでいる法則性がわからない以上端から一冊ずつ全て確認する必要がある。手当たり次第に読むとどこまで読んだか分からなくなる可能から時間が掛かるが一番効率的な方法だと思う。

 まず、一番端の入り口に近い本を手にとる。マナーの本らしい。マナーはさほど難しくはない。社交界のマナーも書かれている。次に手にしたのは歴代の王族の名前が書いてあるものだ。家系図だ。それを目で追っていくと前王の子どもとして三人の名前があった。

 第一子はルカの父であり、現国王のフィリップ。第二子が……名前が消されている。その隣に養子として現在の摂政であるオリバーの名前がある。

 第二子の存在に私は驚いた。これは知らない。国王は一人っ子だったから養子を迎えたのだと思っていた。


 我が国は基本的に第一子が王になり第二子が摂政となる。累計的に男性が多い。しかし女性が王や摂政になることもある。つまり生まれた順という事である。

 本来ならこの弟が摂政になっているはずだ。おそらく隠蔽しなくてはならない事件を起こしたのであろう。この本は家系図と功績を残した王族、そして城内の役職についての記録しかないからその弟については存在のみしか分からない。


 しばらく読み続けると、あたりが暗くなり日が沈んでいる事に気づく。剣術や法律などの本も見つかり夢中になりすぎていた。

 図書室あるランプに明かりを灯す。そして時刻を確認する。ここに着てから数時間たっていた。この時間で数十冊以上読むことができた。


 ルカやればできるじゃないか。

 ルカの早読み能力に感心する。


 コチコチと時計の音が鳴り響く。なんだか、その時計の存在が気にになった。

 時計……どうやって動いているのだろうか。電気がないからランプの火で明かりを得ているのに。不思議に思い時計を触ろうとすると、扉をノックする音がした。


「はい」


 時計に伸ばした手を元に戻すと扉の方へむかう。扉が開き現れたのは、朝あった侍女服の女性である。彼女に私の部屋を飛び出して行った理由を聞こうとしたら上手く言葉が出なかった。手が汗ばんでいる。


 なんだろう。


 侍女はそんな私の様子に気付くことなく食事を“広間で食べるか”と確認したので頷く。すると侍女服の女性は目を大きくして驚いているようだ。この人はよく驚いていると思う。

 この人の名前は……記憶を探りながら彼女の事を上から下まで何度も往復してみる。記憶がどうも曖昧である。ルカと前世の記憶が混雑していてどっちの経験だったか分からなくなる時がある。しばらく考えると”サラ”である事を思い出した。


 よくやった私。


 ルイの事も避けていたから夕食は自室で食べていたのを思い出した。だから、今サラが目を大きくしたり、朝食の時に広間に向かったらルイやカミラに驚かれたりしたのだと気づいた。

 今まで通り避けた方が自然かもしれないが、今後の事を考えると兄弟とは仲良くしておきたい。きっと今より様々な情報を得ることができるし、ルイに鍛えてもらいたいと思う。戦える力がほしい。


 なぜ彼女が私を図書室に迎えにきたのか不思議に思った。ルカと図書室なんて豚に真珠だ。その時、サラの胸に金色の石ついたネックレスが見えた。それを見てすぐに納得した。


 迷子防止の石だ。


 設定した対象者を探せる石だ。専属侍女は担当の王族が成人するまで所持している。あれは本当に厄介だ。どこにいてもすぐに見つかる。希少価値が高いため王族しか所持していない。

 本を片付けて、サラと共に広間に向かう。広間に近づくとサラの緊張はさらに増したのを感じた。


 広間に着くと衛兵が扉を開けてくれた。私は静かに扉を通ると広間には誰もいなかった。


 私は広間の使用人に案内され席につく。侍女であるサラは扉の横に立っていた。

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