第4話騎士団長の戸惑い
私はいつも通り、騎士の演習中に騎士館の見回りをしていた。新兵のハリー・ナイトが体調を崩したためにその様子も見にいく予定もあった。そこで、珍しい御方と出会った。
ルカ第二王子殿下だ。
出会ってしまった以上声をかけない訳にはいかない。ただ、ルカ第二王子殿下は王族の中でも一番身分を気にされる。農村出身の私の言葉を公の場以外では不快に思うかもしれない。しかし、予測に反してルカ第二王子殿下は挨拶を下さった。なぜかルカ第二王子殿下の顔は少し赤みを帯びている。疑問に思ったが囗には出さなかった。それより、騎士館へ足をのばされた理由が知りたい。
自分より身長の低いルカ第二王子殿下を見下ろさないように膝をついて丁寧に言葉を選んだ。
姿勢が低くなった為にルカ第二王子殿下と視線があう。すると更に赤くなるルカ第二王子殿下。体調でも悪いのかと心配になる。今まで何度か公の場でお話させて頂いたがこんなにも赤くなるルカ第二王子殿下をみたのは初めてである。
戸惑っているとルカ第二王子殿下はハリー・ナイトを探しているという。ハリー・ナイトは孤児である上に貧困地域出身である。今年から入団した為マナーも知らない。
ルカ第二王子殿下相手に何か失礼があったのかと焦る。
ルカ第二王子殿下がハリー・ナイトを探しに自ら騎士館へ足を運んだのである。ハリー・ナイトに合わせない訳にはいかない。ハリー・ナイトの伝え彼の部屋にご案内する事にした。
部屋へご案内する間ルカ第二王子殿下は一切言葉を口にはしなかったが、視線を感じる。何か言いたい事があるのだろうか。
聞いて差し上げた方いいのかそのままでいいのか悩む。
先ほどの場所から五分と離れていない場所にハリー・ナイトの部屋がある。到着するとハリー・ナイト自身を確認する為入室した。
騎士団長である私は全ての部屋の鍵を持っているためハリー・ナイトの部屋へは問題なくはいれた。本来なら騎士の部屋に無断で入る事はないが今回はルカ第二王子殿下の頼みであるため例外だ。
入団したばかりのハリー・ナイトの部屋は何もない。そして寝ているはずの本人もいなかった。
どこへいったのだ。
騎士団の外出は外出届が必要であるがハリー・ナイトは届けを出していないから騎士館内いるだろう。
それに対してルカ第二王子殿下はどう反応するだろうか。もし、これで何言われたら……。
ハリー・ナイトの不在と外出届が出ていない事を伏せるわけには行かず部屋を出てすぐに状況をルカ第二王子殿下にお伝えした。すると意外にもあっさりしており、城内を探せとおっしゃる。何やらルカ第二王子殿下のご様子がおかしい、焦られているようだ。
本当にハリー・ナイトは何をしたのだ。
王族が騎士館に新兵を探しにくるなど前代未聞だ。私は不安になりハリー・ナイトを探している理由をお聞きしようとしたところで、副団長のウィリアム・クラークが現れた。
おそらく、私の見回りの帰りが遅いため探しにきたのだろう。彼もルカ第二王子殿下を見て驚愕しているようだ。それもそうだ、本来は王族が騎士館に出向く際は事前に連絡がある。
彼はすぐの笑顔を作るとルカ第二王子殿下に丁寧挨拶をしている。
ウィリアムの質問に対してルカ第二王子殿下は何も仰らない。時間だけが過ぎていく。
自ら理由を話すつもりはないのだと思い私が代わりに返事をした。本日のルカ第二王子殿下が全くつかめない。私はどうしていいか分からなくなってきた。
ルカ第二王子殿下のいつもと違う様子にウィリアムも気づいたようで再度声をかけた。彼はハリー・ナイト捜索の手伝いさせて欲しいと頼んだ。それを聞くと謝罪の言葉を口にして去ってしまわれた。慌てて声をかけたが立ち止まることはなかった。
王族が騎士の謝罪をした。
それには私もウィリアムも我が目を疑い、その場から動けなかった。ルカ第二王子殿下の姿が見えなくなるとウィリアムは口を開いた。
「今の御方はルカ第二王子殿下ですよね?」
ウィリアムのその言葉に頷く。しかし、私も同じ事を思った。
元々ルカ第二王子殿下は自室からあまり出ないため拝見する事は少ないのだが、ルカ第二王子殿下らしくない事はわかる。
私は副団長であるウィリアムの方を見た。彼はルカ第二王子殿下が行った先をじっと見つめている。
「ウィリアム?」
あまりに動かない彼が心配になり、声をかけた。するとすぐに私の方を向き、なんとも言えない顔していた。気持ちはわかる。
「申し訳ありません。少し混乱いたしました。」
「ああ、わかるさ。ルカ第二王子殿下に何があったのだろうか。あのご様子は……」
ウィリアムの言葉に頷く。何かがおきているがそれがなんであるか見当がつかない。ルカ第二王子殿下の様子がおかしい。ルカ第二王子殿下は色々ある御方だから、これを上に報告すべきなのかも迷うところだ。
「落ち着く時間が必要だ」
「そうですね。それに何故ハリーをお探しなのかも確認する必要がありますね。新兵が王族と関わるとは思えませんがもしあのルカ第二王子殿下に不敬をしていたら」
「それこそ落ち着け。それは噂だ。実際はそうなった者を私は知らない」
青ざめるウィリアムに対して私はできるだけ落ち着いた口調で話す。ルカ第二王子殿下の噂は誰もが一度は耳にした事ある。彼は平民嫌いのため必要最低限の会話しかしない。だから平民が不敬をすれば酷い目にあうという話だ。
兄君であるルイ第一王子殿下は誰にでも優しく接しくださる。何故ここまで差が生まれてしまったのであろうか。ルイ第一王子殿下とルカ第二王子殿下は同じ第一王妃のご子息である。やはり、ルカ第二王子殿下のみ特殊な育児を行われたというのは本当なのかもしれない。
「トーマス騎士団長。ルカ第二王子殿下は騎士館の内部を理解していらっしゃるでしょうか。ここも複雑に作られていますし」
ウィリアムは心配そうに話す。
確かに騎士館も含め城全体が守りを強くするため複雑な作りになっている。騎士なって一番の課題は騎士館内部の把握であり、新兵が苦戦する最初の課題だ。
「王族はみな城の内部のことは学んでおられるはず。ルカ第二王子殿下が騎士館で迷っていると考えるのは失礼だ」
私の言葉にウィリアムは頷いた。王族は例外なく騎士館を含む城の内部のことを幼い頃に教わる。ルカ第二王子殿下が家庭教師から逃げているという噂は聞くが城内の地図を覚えないなんて事は有り得ない。バカな心配だと思う。
ただ、私たち騎士団長と副団長は王子殿下にお会いしている。これでルカ第二王子殿下に何かあれば大変なことになる。
「何かあれば騎士団全体の責となる。手分けして王子殿下をお探ししよう。」
ウィリアムは頷くとすぐに歩きだした。私もルカ第二王子殿下を探すため足を動かす。ルカ第二王子殿下が我々と別れてからたいして時間もたっていない。恐らく騎士館内にはおられるはずだ。
何事もない事を願う。
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