第2話第二王子ルカ
朝日がのぼり少したった頃、外で鳥の鳴く声が聞こえた。
まだ頭がぼーっとした。
「おはようございます」
優しい声が聞こえるが目が開かない。回らない頭で必死に思い出した。
確か、駅のホームを友人と漫画についてメールのやり取りしながら歩いていたのはよく覚えている。それから、大きな衝撃があった。痛いと思ったがすぐに痛みはなくなった。
あれ?
もしかした電車にひかれた?
するとここは病院?
「おはようございます。朝食の準備ができております」
丁寧で優しい声はきっと看護師の声だ。
ゆっくりと目を開けるとそこは見たこともない場所であった。大きなベッドに豪華な部屋。病院ではないことはよく分かる。どうやら夢の中で寝ていたらしい。
一度眠ろうとするが眠れない。すごく嫌な予感がする。もう一度目をあけて自分の頬をつねると痛みを感じた。夢ではないらしい。
大きく深呼吸して覚悟を決めて起き上がるとよく中世ヨーロッパの映画でみる侍女の服が視界にはいってきた。
コスプレイヤーが部屋にいる。
頭を振りもう一度ベッドの横にいるコスプレイヤーを見る。コスプレイヤーは金色の髪をしており目はキレイな青色をしている。顔はとびぬけて美人ではないが西洋系の顔立ちをしているため侍女の服がよく似合う。
レベルが高い。こんな知り合いがいれば絶対覚えているはずだが……。
「ルカ様、どうなされましたか?」
侍女服の人はどこか不安そうに私に話しかける。不安なのは私の方である。突然、知らない部屋にいて侍女服のコスプレ女性が目の前にいるのだ。意味がわからない。
そういえばこの人“ルカ様”って言っていた。私しかここにいないのだから私の事らしい。
ルカ?
彼女をじっと見る。やはりこの人はどこかで見たことがある。“ルカ”という名前も知っている。しばらく考えると思い出した。
私が好きな漫画の世界そのものである。
不安そうな侍女服の女性は何も言わず私を見ている。知らない人に見られているのは居心地が悪かった。
とりあえず、退室してくれないかな。
どう言えば下がってくれるのか迷っていると、侍女服の女性はどんどん顔が青くなっていった。手が震えているのが分かる。原因がわからない。私はただ見ているだけで何もしていない。
「失礼致しました」
突然、謝罪して頭を下げると部屋を出て行ってしまった。私は思わず目を大きくした。そのことで自分が目を細めていることに気づいた。そっと顔にふれるとメガネをかけていない。今起きたところであるためそれは当然なのだが、当然ではないのは、メガネを掛けなくとも視界がクリアに見える世界だ。
世の中にはそういうメガネを必要としない人種がいることを私は知っている。
裸眼族
本当に羨ましい奴らだと思う。メガネやコンタクトの苦労を知らない裸眼族は私の敵といっても過言ではない。
待てよ。そうすると今の私が敵になってしまう。しかし、“違う”と思いなおす。私は裸眼族の仲間入りをはたしたのだ。近眼の奴らを同情すべき立場になった。なんだかとても嬉しくなった。
気分がよくなり、ベッドを降りると目の前鏡があった。
あ……。
鏡に映った自分の姿に言葉を失う。
鏡の中にいたのは少年だ。
少年の耳にかからない長さの金色の髪はサラサラと揺れ動いている。
手を動かして見ると鏡の中の少年も同じ行動をした。足も動かして見るが結果は同じである。鏡に近寄り、顔じっくりと見る。青い大きな瞳にシミ一つない肌。
何度見てもその姿は変わる事はない。私は彼を知っている。
彼は第二王子のルカ・アレクサンダー・フィリップ、漫画のキャラクターである。
会社で働きながら腐女子ライフを楽しんでいた記憶がある。あるのだが、ルカの王族としての記憶もある。情報が多すぎて面倒くさい。
多分私は死んだ。そして、漫画の世界に転生した。
そういえば男になったんだっけ。
おそるおそる自分の手を股間に移動した。そこにはやはりあった。
下着をめくり今度は目で確認する。幼いため小型でシンプルだがあった。
そんなにグロテスクじゃなくて良かった。
コンコン
安心していると扉を叩く音が聞こえた。返事をすると二人の女性が現れて、着替えさせてくれるという。どの服をどうやって着てよいかわからなかったから助かった。
着替えをすませるとその二人の女性に案内され食事に向かった。
食事のための広間に着くと、その扉を衛兵が開けてくれた。ここに着くまでに多くの衛兵や侍女を見かけ、城なのだと改めて感じた。
広間には大きなテーブルがあり、そこにはすでに食事をしている子ども二人が座っていた。一人は兄であり第一王子のルイそして妹の第一王女カミラだ。
ルイはルカと同じ金髪碧眼で白い肌をしている。ルカに似ているがルカよりも優しい顔をしている。
カミラは赤いドレスを着ている。異母兄弟であるためルカやルイと違う系統の顔をしているが、肩まで伸びた黒い髪や黒い瞳は美しいな思う。
「おはようございます。兄上。そして、カミラ遅くなり申し訳ない」
二人に声をかけ、使用人の案内で席に着く。目を大きくした二人は私の顔をみる。何を驚いているのかはすぐに分かった。ルカがここにくるのは久しぶりだ。
マズかったかな。
「おはようございます。ルカおにいちゃま」
食事の手をとめて、可愛らしい笑顔でカミラが挨拶を返してくれた。前世で友人に同じくらいの子どもがいたがその子どもは友人に隠れて挨拶をしなかった。王族の教育に感心する。
遅れてルイも笑顔で挨拶をしてくれたのでホッとした。ずっと参加していなかった朝食にきた理由を問われたら答えに困っていた。ルカが朝食に行くことを避けていたのを忘れて案内されるままについてきてしまったのだ。
この時期のルイとルカの中が余り良くなかったことを思い出した。
少し、ルイと話がしたいな。
「兄上、この後は時間がありますか?」
ルイは弟に誘われたのが嬉しかったようですぐに良い返事を返してくれた。
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