第18話 作戦会議に相性は重要
「仁奈」
「何? お兄ちゃん」
「俺、デートすることになったんだけどなんかアドバイスとかない?」
家のリビングでそう告げると、格闘ゲームの2人対戦をしていた仁奈はフリーズした。
「……え? 聞こえなかった。もう1回言って?」
「デートすることになったからアドバイスげ欲しいんだけど」
そこでようやく理解したのか「むー……」と唸りながら何か考えていた。
「なるほど……佐藤くんがデート、ねぇ」
仁奈以外の声が聞こえたので振り向くと、そこにはいつぞやのアイドルさんがゲームコントローラを持って立っていた。
「おい、なんでお前がいるんだよ」
「お前じゃなくて大将……って大将じゃなーい!!」
忙しいやつだな。セルフボケとセルフツッコミか……。
てか、大将呼びなんだかんだ気に入ってたのな。それだったら安心だ。これなら心置き無く大将呼びができる。
「なんでいんの?」
「仁奈ちゃんと友達だって言ったでしょ? 今日は遊びに来てたの」
でも、今まで全く来てた記憶が無いんだけど。あ、そういえば学校以外は自分の部屋に引き篭ってたわ。道理で記憶に無いわけだ。
泣きたくなるね。
「……それで、デートにはどっちが誘ったの?」
なんだ? 大将が妙に食い付いてくるな。まあ、アイドルって恋愛禁止とかはよく聞く話だし、そういう話にはどうしても敏感になるんだろうな。
ぼっちだとなんでも勘違いしそうになるみたいな、あんな感じか。なんか、ぼっちと一緒くたにしてたら全国のドルオタにぶん殴られそうだな。
「俺が誘った」
「え? うっそだー」
「いやマジなんだけど」
「……そんな。ちょっと友達が多いただの陰キャだと思ってたのに!」
お前辛辣だな。てか、それどんな陰キャだよ。もはや陰キャでもなんでもないわ。
もっと自分のファンを大切にしやがれ。
「にしても、佐藤くんがサラサラミディアム清楚系おっちょこちょいとデートかぁ」
「おい、なんでそんな分かるんだよ」
「良かったぁ……。やっぱり佐藤くんは佐藤くんだった」
なんだ? 佐藤くんは佐藤くんだったって。あれか? 陰キャって言いたいのか?
そういうの好きになるってことはやっぱり陰キャだねって言いたいのか!?
「まあ、そんなことより……。アドバイスが欲しいってことは、佐藤くんは女性目線でどんなことをして欲しいかってことなんだよね」
「まあ、端的に言えば」
「因みに、相手は佐藤くんのこと好きなの?」
「好きというか、告ってきたのは相手だから」
そういうと、仁奈と共にキャッキャと盛り上がり始めた。なんなんだこいつらは。
「じゃあじゃあ、デートに誘ったってことはお兄ちゃんもその子のこと好きってことだよね?」
「いや、それがよく分からないっていうか、どうするか考えるために1回遊ぼうかなと思って」
「あれ? でも、アドバイスは欲しいんだよね」
「まあな。やっぱりデートするなら相手には喜んで欲しいし、自分から引っ張らないと向こうも不安だろうから」
「「?」」
なんか、凄い不思議な顔された。
「おかしなこと言った?」
「いや……。分からないことだらけだから迷惑かけないように教えて欲しいって言うなら分かるんだけど、喜ばせたいってなんでなんだろうって思って。ちょっと話が飛躍するような……」
よく考えてみたら確かに変かもしれない。今まで関心がなかったから、俺は相手と一緒にいてどう思うか知りたいだけだから、大事なのは相手がどう思うかではなく自分がどう思うかだ。別に相手を喜ばせる必要は無い。自分が楽しければ、それでいいはずだ。
「あ、でもお兄ちゃんだし言い間違いとか……」
「いや……そんなんじゃないとは思うんだけど」
言い間違いなんかではない。確かに俺は相手を……凪を喜ばせようと思っている。
俺は、なんで凪を喜ばせたいんだ? 分からない。よく考えてみたらこんなことを思うのは初めてだ。なんだろう、この気持ちは……。
「コレガ、アイ。コレガ、カンジョウ」
「大将、お前馬鹿にしてるだろ」
「大将じゃなーい! ていうか、それしか有り得ないでしょ? 知らないうちに好きになってたんだよ」
「いやぁ、それはないと思うけどな」
「それしかないでしょ!? そうなんだよ。てか、絶対それしかないよ」
? なんだ大将。やけに熱いな。
「え……なんか大将怒ってるのか?」
「大将じゃなーい!! 怒ってもない! もうっ。うるさいうるさいうるさい!! ふんっ、アドバイス貰って上辺だけやろうって人はどうせさっさと振られちゃうんだよ。てか振られちゃえ!」
「え……酷くね?」
「もうっ早くどっか行ってよ!」
ええ……。ここ俺の家なんだけど。てか、仁奈もなんか言ってくれよ。俺結構酷い言い方されてるぞ。身内がバカにされてるんだよ?
「お兄ちゃん。ごめんね。ちょっと部屋に戻ってて欲しいんだけど」
「そんな……!!」
衝撃が走る。まさか、遂に仁奈に嫌われた……!?
「何を勘違いしてるのか大体わかるけど、お兄ちゃんは好きだよ。家族みんな大好きだからね。でも、今はちょっと2人にして欲しいかな」
「あ、はい」
俺は知ってる。こういう、凪が真面目な顔をした時は誰かを助けようとしているときだ。今何が起きたのかは分からないが、何かが原因となって大将を怒らせてしまったのだろう。十中八九原因とは俺だが、無自覚ならいるだけ無駄だから一旦掃けてというところか。
悲しくなってきたけどしょうがない。
「まあ、その……ごめん。よろしく頼むわ」
ムスッとした大将が、リビングを出る前に見た最後の光景だった。
◆ ◆ ◆
「うーん、ごめんねマリちゃん。お兄ちゃんって、ぼっちとか言ってるけど話すのはすごい好きな人だからさ」
「ううっ……謝らないでよ」
涙目な真理亜を仁奈が励まそうとしていた。どうやら、真理亜は一郎に気があったらしい。
「でも、真理亜ちゃんのグループって確か恋愛は禁止――」
「うわぁぁぁぁん! どうせ無理だったとか言わないでよう」
「まだ言ってないよ……」
仁奈は何とか寄り添おうと考える。一郎をずっと部屋に押し込んでいると、それこそ一郎が落ち込みかねないし、かと言って真理亜を落ち着かせるのも力技は不可能だ。寧ろ逆効果になる。
時間に任せるしかな方法はなかった。
だから、仁奈は真理亜を抱き留めて頭を撫でてあげることにした。真理亜の父は寿司職人で男女問わず厳しかったので、どうしても何かを我慢することが多かった。アイドルになってもそれは変わらない。
それを知っているからこそ、仁奈は真理亜を人一倍気にかけている。仁奈は純粋にアイドルが好きでアイドルになり、それは今でも変わらない。
でも、だからこそ辛いこともあった。お互い苦しんでいたからこそ、こうやって気にかけることが出来る。気を許すことが出来る。
「終わったことはもう、しょうがないよ。今は気持ちの整理がつかないかもしれないから、休もう。私はずっとここにいてあげるから」
真理亜にとって、その優しさは何よりも嬉しかった。全てを包み込んでくれて、自分のことを守ってくれて。
でも、だからこそもしそれが意中の人であったらなどと考えてしまう。
もし、一郎がこうしてくれたなら。
そう考えるとじんわりと涙が浮かんでくる。
でももう終わったことだ。前を向いて進まないといけない。真理亜自身、そうして進んできた。
「……ありがとう」
でも、今この間だけは。このままでいたいと、真理亜はそう思っていた。
「……大将」
「……大将じゃないもん」
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