閑話 最果てから帰れない
◆ まみ
電話が切られた。初めて彼から電話を切られた。
明るくて優しかった恋人がもう二度と手の届かない人になってしまったことがはっきりとわかった。息がしにくい。あんなにも楽しい時間をくれた彼は、もう二度と私の前で微笑まない。それどころか、私は彼に何も返せないままだ。胸のあたりが痛い。心臓がバクバクと煩い。
俺と付き合うと病む人多いけど大丈夫?
付き合う前に彼が言った言葉だ。そのときは意味がよくわからなかったけれど、付き合い始めたらよくわかった。彼は誰にでも優しい。誰とでも遊ぶし、いつだって機嫌よく、明るく笑っている。私は彼に釣り合っていない。私以外の方がきっと彼はうまくやれる。その考えは一度浮かんだら離れなくなった。そばにいればいるほど寂しくなった。すきになればなるほど不安になった。
試すように前の恋人のことを話すと、彼は、そんなにすきだったんだ、そっか、と慰めてくれた。それだけだった。彼が私をすきなのかわからなくなった。それからどんどん自分の気持ちもわからなくなった。彼がすきだったはずなのに、前の恋人の事ばかり話して、それでも彼が笑うから、きっとこうした方がいいとさえ思うようになった。
「……どうしよう」
彼と離れたらこんなに寂しくなることが、どうしてわからなかったのだろう。でも、もう彼のところに帰れない。この彼から一番遠いところで、わたしはひとりだ。心臓が痛み、息ができず、異国の路上に座り込む。
それでもここからもうどこにも帰る道がなかった。
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