12/22 消えたプディング

 ガタッ

 何か音がした気がして、目が覚めた。


 寝起きのぼんやりとした頭で、視界に入ってくるカレンダーをみる。と、22日部分にハート。

 あれ……? 今日は久々に丸文字が浮き出ている。ラム酒を得るために9月を大量に破って以降、文字がでなくなっていたから密かに心配していたけど、大丈夫だったみたいだ。どれどれ……なんて書いてあるんだ?


『失せ物♡』


 ——へ? 視線をグルリと部屋に巡らせた次の瞬間、僕はその意味を理解した。



 ◇



「ない、ない、ない、ない、ない、ない、ない!!!」


 膝丈まで積もった雪の中を、走る。

 何度か転んで服は雪まみれ。でも、今はそれを気にしている場合じゃない。

 橋に着くと、あらんかぎりの声を張り上げた。


「レディ!!!!!!!」

「……なによ、朝っぱらからうるさいわねぇ」


 寝ぼけ眼のレディが、ゆらりと登場する。


「ない!!」

「……なにが?」

「ないんだよ!」

「だから、なにが?」

「っ、プディング!!!」

「————……はあっ????」


 途端、レディの表情は険しいものに変わった。



 ◆



 厨房のある家に、急いで二人して戻ってきたものの、やっぱりどこにもプディングはない。

 昨日湯煎し終わった後、大きめの白い布巾でくるんで、部屋の中でも一番涼しい場所——奥の窓の近くに吊るしておいたはずなのに。


「ど、ど、ど、ど、どうしよう??」

「コータ、落ち着きなさいよ」


 すっかりパニックになる僕とは対照的に、レディは冷静そのものだ。


「アタシは自分の言ったことに責任を持つ女よ。アンタがプディングを完成させるまで、ちゃんと手伝うわ。そして、絶対に一口もらうの」

 そう言うと、あたりを探偵のようにつぶさに観察していく。なんとも頼もしい。


 レディはプディングを吊り下げておいた場所を確認し、窓をあけて外を見たところで、こっちこっちと手招きしてきた。


「見て。きっと犯人のものだわ」


 指差す窓の外には、テンテンと2組の足跡。どう考えても人間のものではないソレは、森の中へと続いている。


「————追うわよ」


 言うなり、レディは小柄な身を屈めて、窓からピョイと外にでた。

 僕はさすがにそれは無理なので、ドアから出て回って、アタフタと後ろを追いかける。


「レディ、まって!」


 ああ、やっとプディングができたと思ったのに。

 なかなか世の中、上手くはいかないようだ。



 ◇



 カアカア カアカア


「……」


 足跡をひたすら二人で追うこと、数時間。あたりはもう夕焼けに染まっていて、カラスの声まで聞こえてくる。どこまで犯人は行くんだ? 歩きすぎじゃないか。こんなんじゃ、僕らはもう帰れない。


 今夜は野宿かな。テントも何にもないけど、木の枝と雪でなんとか頑張って……なんて覚悟をし始めたその時——


 ザザザザッ。

 木が左右に開け、目の前にみたこともないほど大きなお城が現れた。


「これは……?!」


 追っていた足跡は、その城門の前で途切れている。

 僕とレディは顔を見合わせ……そして、頷きあった。


 ——ここまで来たんだ。もう、行くしかない。

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