《 第52話 いざアイス王国へ 》
クーさんから衝撃の情報を手に入れたあと――
「すごい情報を手に入れてしまったのだ!」
「だね! 早くガーネットさんに伝えたいよ!」
「ガーネットの驚く顔が楽しみなのだ!」
「驚く顔も好きだけど、僕は笑顔が好きかな」
「ドラミはお花に水をあげてるときの、あの優しい眼差しが好きなのだ!」
おしゃべりしながら家に帰り、クエストに出かける準備を始めた。
いますぐこの話をガーネットさんに聞かせたいけど、まだ仕事中だからね。まずはドラミの初クエストを見守らないと!
「そろそろ出発できそう?」
「うーむ……。いまいちなのだ……」
姿見の前でポーズを決めていたドラミが、悩ましげな顔をする。
左腕にミスリルの盾をつけ、右手にドラミソードを握り、オペラグラスと小石と薬入りのポーチを肩に提げている。
「準備万端にしか見えないけど……」
「でも、なにかが違う気がするのだ……」
うーんと唸り、ハッとする。
「せっかく魔法が使えるのに、両手が塞がってるのだ!」
「だったら、片手を空けておく?」
「そんなことができるのだ?」
「できるよ。ちょっと待っててね」
待ちきれなかったのか、ドラミが僕についてくる。
自分用の衣装ルームへ行き、棚からベルトを取り出した。
ドラミの腰に巻いてやり、そこにドラミソードを差してやる。
「これでどう?」
「おおっ! ばっちりなのだ! かっこよすぎなのだっ! このベルト、どこで手に入れたのだ?」
「ずいぶん前に近所の店で買ったんだ。僕はもう使わないからドラミにあげるよ」
「やったー! ジェイドのお下がりなのだ~!」
嬉しそうに跳びはねるドラミ。
準備ができたようなので、一緒にギルドへ向かう。
すると子どもたちが集まってきた。
「ドラミちゃんだ~!」
「うわあ! かっこいい武器持ってる!」
「もしかしてクエスト受けるの!?」
「うむ! いよいよそのときが来たのだ!」
「頑張ってね!」
「ありがとうなのだ!」
きりっとした顔でお礼を言うと、勇ましくギルド内へ。
屈強な冒険者たちの行き交う姿に萎縮しちゃったようだけど、頬を叩いて気合いを注入。凜々しい顔つきを取り戻す。
「ガーネットはどこなのだ?」
「18番窓口だよ」
「よ、よーし! 行ってきますのだ!」
また緊張しちゃったみたい。右手と右足、左手と左足を一緒に動かしながら18番窓口の列に並ぶ。
冒険者たちに挨拶を返しつつ待っていると、ドラミが戻ってきた。
普段通りの歩き方だ。ガーネットさんの顔を見て、緊張がほぐれたみたい。
「クエスト受けたのだ!」
「おめでと! なにを受けたの?」
「スライムの討伐なのだ!」
さっそく戦いに行くのだっ、と声を弾ませ、僕たちはギルドを出る。
そのまま大通りを歩き、正門を抜けて街道に出た。
街道に沿って歩きつつ、草むらを眺める。
「……いた?」
「……いないのだ。あっ、そうなのだ! こういうときのために――」
ドラミはポーチからオペラグラスを取り出した。
そのまま草むらに入っていく。
そのあとを追いかけていると――
ぴたっと立ち止まった。
「い、いたのだ……!」
「ほんとだ。あそこにいるね」
15歩ほど向こうにスライムを発見。
僕がオペラグラスを預かると、ドラミはドラミソードを抜いた。
そーっと、そーっと近づいていると、スライムがぴょんと跳ねた。
「くっ! バレてしまったなら仕方ないのだ! 正々堂々勝負なのだ!」
うおおおおっ、と勇ましく叫び、どたばたとスライムに迫り、ドラミソードを振り下ろす。
ぶよんっ。
「これでどうなのだ!」
ぶよんっ。
「これならどうなのだ!」
ぶよんっ。
「名のあるスライムとお見受けするのだ……」
ぶよんっ。
「こっちがしゃべってるのにいきなり体当たりはズルいのだ! 正々堂々戦うって、ちゃんと約束したのだ!」
ぶよんっ。
「ま、またズルしたのだ! そっちがその気なら、こっちにも考えがあるのだ!」
ドラミソードを収めると、右手をかざした。
ちょろちょろと水が出てくる。
むくむくっ。
水を浴びたスライムは、一回り大きくなった。
「ど、どうして大きくなるのだ!?」
「スライムは水でできてるからね。水分補給すると成長するんだ」
「ま、まさかこうなることを見越してドラミを挑発したのだ!? ……沈黙は肯定と捉えるのだ!」
ぶよんっ。
ぶよんっ。
「くっ。一撃一撃が重いのだ……! だけどドラミの攻撃だって負けてはないのだ! うおおおおおおおお!」
ぽかすか! ぽかすか!
激しい攻防を繰り広げ、ついにそのときが訪れた。
スライムから魔素が発生したのだ。
「やったのだああああああああああああ!」
「おめでとうドラミ!」
「ありがとなのだ!」
清々しい笑みを浮かべ、僕のもとへ駆け寄ってくる。
汗だくで、前髪がおでこにくっついている。
「激戦だったね」
「かなりの強敵だったのだ……。でも勝てて一安心なのだ~」
「しかも無傷の勝利だもんね」
「うむ。あとは魔石をギルドに――あっ、魔石! 忘れてたのだ!」
慌てて駆け戻り、草むらをかき分けてスライムの魔石を探すドラミ。
見つけると、安心したように駆け寄ってきた。
「あったのだ!」
「じゃあギルドに行こっか?」
「行くのだ~! 換金したら、ジェイドにお菓子を買ってあげるのだ!」
「自分で稼いだお金なんだから、自分のために使いなよ」
「これが自分のためなのだ。スライムを倒したらジェイドとぺろぺろキャンディーを舐めるって決めてたのだ」
「ありがとね! 大事に味わわせてもらうよ」
「うむっ。今日のぺろぺろキャンディーは格別な味がするに違いないのだ~!」
スキップしつつ王都へ戻り、ギルドで換金を済ませると、ぺろぺろキャンディーを味わうのだった。
◆
そして夕方。
モモチの水やりを済ませると、僕たちはガーネットさん宅へ向かった。
まだ帰ってきてないようなので、家の前で帰りを待つ。
「――っ!」
するとガーネットさんの気配がした。
思った通り、道の向こうから絶世の美女が歩み寄ってくる。
ガーネットさんだ!
「おかえりなさい!」
「おかえりなのだ!」
「ただいま。ふたり揃ってどうしたのかしら?」
「ガーネットさんにお話ししたいことがありまして!」
「あと、窓口から見たドラミの感想を教えてほしいとも思ってるのだ! 残念な感想でも落ちこんだりしないから、正直に教えてほしいのだ……!」
「凜々しい冒険者に見えたわ」
「うおおおお! やったのだあああああ!」
ドラミはとっても嬉しそう。
気持ちはわかるよ。もし冒険者デビューした日に同じことを言われてたら、僕なら嬉しすぎて失神しちゃってただろうな。
「それで、僕の話なんですけど」
「ジェイドくんも凜々しい冒険者に見えるわ」
「うおおおおお! やったああああああああ!」
めちゃくちゃ嬉しい!
だけど違う! 僕がしたい話はそうじゃなくて!
「手に入ったんです! オニキスさんの情報が!」
ガーネットさんが、戸惑うように目をまるくする。
「お父さんの情報が、王都で手に入ったの?」
「はい! 馴染みの薬屋に行ったら、先代薬師のクーさんがいたんです!」
「ドラミの薬を買いに行ったのだ!」
「クーさんは最近、いろんな町を旅してるみたいで、旅先でオニキスさんを見かけてないかたずねてみたんです!」
「ちなみにクーさんにはラブーンをオススメしておいたのだ!」
「そしたらクーさんが言うんです! 12年くらい前の蒸し暑い日に大量の凍傷薬と溶岩薬を買いに来たって!」
「どうやらオニキスはアイス王国に向かったらしいのだ!」
僕が言いたかった!
「そう……。お父さん、アイス王国に向かったのね」
ガーネットさんは不安そうだ。
無理もない。アイス王国は年中雪に覆われた、とても寒い国なのだから。
アイス王国で生まれ育ったひとたちは、どんな環境にも適応できると言われてる。
それくらい過酷な環境に、オニキスさんは向かったのだ。
行き先がわかったからって、手放しには喜べないよね。
「アイス王国へは、いつ旅立つのかしら?」
「明日の昼頃に旅立とうかと」
「そう……。今度の旅は、何日くらいかかるのかしら?」
「アイス王国ですから、1ヶ月はかかるかもしれません……」
元々は一度の旅につき1週間くらいの予定だった。
だけど目的地がアイス王国となると話はべつだ。
片道だけで1週間以上かかってしまう。
「しばらく留守にするから、モモチの世話を頼むのだ」
「ええ。ちゃんとお世話するわ。だけど……ひとりでお世話をするのは寂しいわ」
「僕も寂しいです! でも、僕と同じくらい……いえ、それ以上にガーネットさんは寂しい思いをしてるわけですから! だって12年もお父さんと離れ離れになってるわけですし……」
だからこそ僕は旅立つのだ。
そしてオニキスさんを見つけ、ガーネットさんを満面の笑みにしてみせる!
「ジェイドくんの気持ち、本当に嬉しいわ。会えなくなるのは寂しいけれど……私はここで、ふたりの帰りを待ち続けるわ」
にこやかにそう言うと、そうだわ、と手を合わせた。
ひとまず家に入るよう告げられ、椅子に腰かけて待っていると、ガーネットさんが二階から下りてきた。
「本当は寒くなってから渡そうと思っていたけれど……アイス王国に行くならこれを持っていってほしいわ」
「こ、これって……」
「手編みの手袋よ」
「やっぱり! ありがとうございます! うわあっ、ぴったりだ! 嬉しいです! 大事に……本当に、大事に使わせてもらいます!」
「羨ましいのだ……」
「もちろんドラミちゃんにも編んでるわ」
「やったー! ありがとなのだ~!」
ドラミの手袋は片方だけだった。
もう片方は僕が編む約束になっているのだ。
「もう片方は移動中に編むからね」
「楽しみに待ってるのだ~!」
元気いっぱいに声を張り上げ、ぐぅとお腹を鳴らすドラミ。
「夕食はこれからかしら?」
「はい! まだ食べてません!」
「だったら、ご馳走を作るわ。ドラミちゃん、なにか食べたいものはないかしら?」
「ドラミが決めていいのだ?」
「ドラミちゃんの初クエスト攻略のお祝いだもの」
「お祝いしてくれるのだ!? 嬉しいのだ~!」
ドラミは大はしゃぎだ。
肉料理をリクエストして、みんなで力を合わせて料理を作り、おしゃべりしながら楽しく食事をして――……
◆
そして翌日。
僕とドラミはアイス王国へと旅立ったのだった。
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