《 第28話 最高の服 》
そして翌日。
風呂に入ってさっぱりすると、先に脱衣所に出ていたドラミがそわそわしていた。
「どうしたの?」
「なんだか服が窮屈なのだ……」
「昨日いっぱい食べてたもんね」
「お腹だけじゃないのだ。全体的に窮屈なのだ」
「ドラミが成長してる証拠だよ」
毎日いっぱい食べてぐっすり寝てるもんね。
いまはマリンちゃんより少しだけ背が低いけど、次会う頃には逆転してるかも。
「とにかく旅立ち前に気づけてよかったよ。今日は服を買おっか」
楽しく買い物すればテンションが上がり、不安は吹き飛ぶはずだ。
僕の誘いにドラミはうなずき、遅めの朝食を済ませてから外へ出る。日射しを浴びながら歩いていき、子ども服をメインに扱う服屋にたどりつく。
店内には子ども服が盛り沢山だ。これだけあればドラミ好みの服も見つかるはず。
「いろいろありすぎて迷うのだ……」
「とりあえず白い服を中心に見てまわればいいんじゃないかな」
ドラミ、白が大好きだし。シチューもビーフシチューとホワイトシチューがあれば迷わず後者を選ぶくらいだし。
「白い服だとホワイトドラゴンだと思われそうなのだ……」
「そんなことないって。じゃないと街中ホワイトドラゴンだらけになっちゃうよ」
「た、たしかに……! でも、白い服もいっぱいなのだ……これは選ぶのにかなりの時間がかかりそうなのだ……」
「ひとつに絞りきれないなら、何着か買っていいよ」
「そ、それはジェイドに悪いのだ」
「遠慮しなくていいよ。たとえば……これとかどう?」
オーバーオールをドラミに見せる。
スカートよりズボンのほうが動きやすそうだし、生地も丈夫そう。これなら楽しく冒険できそうだ。
「試着してみる?」
「してみるのだ」
ドラミを試着室へ連れていき、オーバーオールを着てもらう。
しばらくしてカーテンが開き、ボーイッシュなドラミが姿を見せた。
「似合ってるね! 元気いっぱいなドラミにぴったりだよ。サイズはどう?」
「ちょうどいいのだ。だけど、これは保留するのだ。違うやつも着てみたいのだ」
「わかった。じっくり見てまわろう」
店内を見てまわり、ドラミに似合いそうな服を片っ端から試着させていく。
プリティーな衣装。
キュートな衣装。
エレガントな衣装。
シンプルな衣装。
ガーリーな衣装。
クールな衣装。
「似合いすぎてどれにするか迷っちゃうね!」
なんて褒めてみたけど、ドラミがお気に召すものはない様子。
いつものドラミなら「全部欲しいのだ!」っておねだりしそうなのに……。
「ここにはドラミ好みの服はなかったのだ」
「だったら、いま着てるのと同じのを仕立ててもらう?」
「そ、そんなことができるのだ?」
「ちょっと時間がかかるけどね。どうする? 仕立て屋に行く?」
即決するかと思いきや、ドラミは迷うように目を伏せる。
いま着てる白いワンピースはドラミのお気に入り。なのに迷ってるってことは……
「……やっぱり国を出るのは怖い?」
服を買ったら旅立つことになるため、迷ってしまったのだろう。
じっと瞳を見つめていると、ドラミは諦めたようにうなずいた。
「怖いのだ……。だって、正体がバレたら大変なことになるのだ。さっき見た服も、ほんとは全部気に入ってるのだ……。だけど、服を買ったら旅立つことになっちゃうのだ……」
「そっか……だったら、今回は留守番する? 僕の家でもいいし、ガーネットさんに頼んで預かってもらってもいいけど……」
「留守番は嫌なのだ!」
「でも、国を出るのは怖いんじゃないの?」
「めちゃくちゃ怖いのだ……。だけど……だけどドラミもガーネットとマリンの力になりたいのだ! だって、ふたりはドラミの大親友なのだ! お父さんを見つけて、ふたりの喜ぶ顔が見たいのだ!」
自分を勇気づけるように叫び、ドラミは決意の眼差しで続ける。
「覚悟を決めたのだ! ドラミもリーンゴック王国に行くのだっ! ……ついてっていいのだ?」
「もちろんだよっ。ひとり旅よりふたり旅のほうが楽しいからね!」
「ドラミもジェイドと旅するの好きなのだ~! だってジェイド、ドラミの知らないところにつれてってくれるのだっ! この国にはない綺麗な小石を見つけてマリンにプレゼントしてあげるのだ!」
よかった。
今度こそ不安は吹き飛んだみたい。
「さて。もうお昼だし、買い物の続きはご飯を食べてからにしよっか?」
「そうするのだっ。どの服もよかったから迷っちゃうのだ~」
僕たちは服屋をあとにして、食事処へと向かう。
と、食事処からガーネットさんが出てきた。
好物を食べたのか、満足そうな表情だ。可愛いなぁ……。
「今日もお買い物かしら?」
「ジェイドに服を買ってもらうのだ! 今日中に最高の服を見つけてやるのだっ! そして明日、新しい服を着てリーンゴック王国に行くのだ!」
ドラミの話をにこやかに聞いていたガーネットさんは、ふと思い出したように、
「気に入るかわからないけれど、ドラミちゃんに似合いそうな服なら持ってるわ」
「マリンちゃんの忘れ物ですか?」
「私が12歳の頃に着てた服よ」
「よかったねドラミ! 最高の服が見つかったよ!」
「まだ見せてないわ」
見なくてもわかるよ!
だってガーネットさんのお下がりなんだから!
「12歳の服をどうして持ってるのだ?」
「一度しか着てないから、捨てるのがもったいないのよ。見てみるかしら?」
「見たいのだ!」
ドラミは乗り気だ。
ガーネットさんの昼休みが終わるまで時間がないので、昼食はあとにすることに。
そうして家を訪れると、ガーネットさんが別室から服を持ってきてくれた。
ふりふりのついたドレス仕立ての衣装だ。
一言で言うなら――
「す、すごいのだ! お姫様みたいなのだ!」
僕と同じ感想を抱いたみたい。
お姫様みたいな格好のガーネットさん、見てみたかったな……。
「ガーネットってお姫様だったのだ!?」
「一般人よ。この服も市販されていたものよ」
「す、すごく高価だったに違いないのだ……。ほんとにもらっちゃっていいのだ?」
「ええ。もう着られないし、私の好みじゃないもの」
「好みじゃない服をどうして持ってるのだ?」
「家を出るとき、お母さんが『王都は大都会だから、田舎者だと舐められないようにオシャレしなさい』って着せてくれたの。だけど浮いてしまったわ」
ふりふりのついた服を着てるひと、あまりいないからなぁ。
ガーネットさんは可愛いし、どんな服でも目立つけどね!
「ジェイドはこの服どう思うのだ?」
「すごく可愛いと思うよ」
「ふむ。ということは凜々しいドラミが着ることでバランスが取れるのだ。着てみていいのだ?」
「もちろんよ」
ドラミは急いで服を脱いだ。
そして、きりっとした顔で服をたたむ。
「お利口さんだわ」
「これくらい当然なのだ」
うちにいるときは脱ぎ散らかすのに……。よその家だと急にお利口さんになるんだから。
ふりふりのついた衣装に身を包み、ドラミはくるっと一回転してみせる。
「どうなのだっ?」
「似合ってるわ」
「お姫様だと勘違いされちゃうかもしれないね」
「褒めすぎなのだ……」
ドラミはてれてれしている。
お出かけ用のポーチを肩にかけると、いてもたってもいられなくなったみたい。
「お出かけしたくなってきたのだ……!」
「じゃあ、今日は散歩しよっか?」
「そうするのだ! あっ、でもその前にご飯が食べたいのだ!」
「こぼさないように気をつけないとだね」
「服が汚れないように落ち着いて食べるのだ~」
家を飛び出すドラミを追いかけ、僕たちも外へ出た。
そしてギルド前でガーネットさんと別れると、僕たちは食事処へ向かい――
翌日、オニキスさんを捜す旅に出たのだった。
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