第7話入隊面接

「よし、よく言った水澤ちゃん。早速だがこっちで入隊手続きを進めておくよ」


 優一はニッコリと微笑みナノマシンの通信システムで誰かと連絡を取ろうとしていた。


「え!? 今からですか? 幾ら何でも無茶ですよ」


「どうして? 今すぐにでもホープの隊員になりたいんだろ? 折角決意してもらったんだから今すぐにでも入隊手続きをするべきだよ」


「いや、そうじゃなくて入隊時期無視で入隊するのは、ホープ隊員になりたい他の人にとって示しがつかないんじゃないんですか?」


 玲奈が心配しているのを無視して優一はそのまま無線で誰かと話し始めた。


「もしもし~暁美、今暇? ……仕事なんて後回しでいいから早く来てくれよ。コーヒー奢るから……それじゃあ、待ってるよ」


 優一は一方的に連絡していた相手との回線を切る。玲奈の頭の中ではクエスチョンマークしか浮かばなかった。


「もう少しだけ待っててくれ。今から君の採用面接だ」


「さ、採用面接? ちょ、私の話聞いていたんですか? 他にも隊員になりたくてもなれない人が大勢いるのに私だけ最終試験も受けていないのに面接だなんて……」


 面接を断ろうとしている玲奈に対して優一はニッコリと微笑む。


「無断で訓練用のバトルサポート使ってゴーストに立ち向かったのに、飛び級で入隊するのが怖いの? 今更批判を気にするなんて……」


「いや……そんなんじゃなくて……」


 言い争っているうちにカフェの自動ドアが静かに開き、スーツ姿の女性がツカツカと近づいてくる。玲奈たちの席の前に立ち止り、冷たい目で優一を見下す。


「ゆ~う~い~ち~」


「おっ! 早いな暁美。呼んで40秒しか経ってないぞ?」


 優一は女性に対して驚いた表情を見せたが、女性はさらに目つきが鋭くなり、ため息をついた。


「で? 何か用? そしてこの子は?」


「まあ、座れよ。俺の頼みを聞いてくれ」


 暁美と呼ばれる女性は優一の隣の席に着いた。その時、玲奈の頭の中ではありとあらゆる思いが駆け巡っていた。


(いきなり呼び出してすぐ駆けつけるこの信頼関係。そして何のためらいもなくタメ口……この二人はまさか……恋人関係? それを裏付けるかのようないい体系。胸は確かにふくらみがあり、ウエストはしっかりくびれていて、美脚をさらに美しく見せるように座った瞬間足を組んでいる。でもなんで私の採用面接で彼女さん? ……まさか! この人は本部長の娘さんで、優一さんが権力欲しさで近づいた? いやしかし、優一さんは多少意地悪だけど、野心家ではなさそうだし……それに、いい体系と言ってもパッと見30代に見えるし優一さんの恋人と言っては少し歳が離れすぎているような……ああもう! 何がなんだかさっぱり読めない!)


「あんたの頼みなんてきっとロクな事じゃないんでしょ?」


 暁美は注文用のモニターを操作しながら優一に尋ねる。優一は少し微笑んで、「今回はそんな面倒事じゃないよ」と返した。


「いつもの頼みは面倒事だとあっさり認めたね……で? 何? 私結構忙しいし、2時間で4つの支部に行かなきゃいけないんだけど?」


「それはお疲れ様。実は急遽なんだけど目の前にいる子をホープの正隊員として認証してもらいたいんだ」


「なんだ……そんな事かって、はあ?」


 暁美が疑問の表情を浮かべながら優一を睨みつけていた。そして店員が持ってきた熱々のコーヒーを一口飲んで頭を抱えた。


「よく面倒事じゃないって言い切ったな! 今回も面倒事じゃない!」


「そんなことないだろう? 仮入隊からの正規入隊は暁美の認証さえあれば簡単に入隊できるだろう?それのどこが面倒なんだよ」


「もう認証期間は終わっているんだよ! 特例で認証期間外で入隊させる時は本部長の私以外に4人の支部長と最高権力のホープマスターにまで認証が必要なんだよ!支部長に認証を貰うのはまだいいけど、マスターの認証を貰いに行くのは嫌だし、面倒なんだよ」


「丁度いいじゃないか。今から支部長さんたちに会いに行くんだろう? さっさと貰ってきて、マスターによろしく~って認証貰えばいいじゃないか」


 激怒しながら説明している暁美を挑発するように優一は言葉を返した。


(ん? 待って)


「え~~!! も、もしかして今目の前にいる人ってホープ本部長!?」


「あ、紹介していなかったね」


 優一は完全に空気になっていた玲奈に目を向けて、ガリガリと頭を掻いた。


「水澤ちゃん、改めて紹介するよ。この人がこのホープ本部の本部長の」


「霧峰暁美だ。初めまして」


 暁美は激怒していた表情から一変、落ち着いた表情で玲奈を見つめた。


「んで、暁美。彼女は水澤玲奈。先月最終試験志願予定だった隊員だ」


「だった? ……優一詳しく聞かせてくれない?」


 暁美は真剣な眼差しで優一を見た。優一はナノマシンの情報共有システムを使い、暁美にある資料を送り、眼前に映し出される資料に目を通した。


「1か月前、大型の獣ゴーストが3匹出現した出来事を覚えているか?」


「ああ。覚えている。だってそれは……」


「ゴーストが出現したあの時、彼女と彼女の仲間は現場にいたんだ」


 暁美が何かを話そうとしていたのを遮って、優一は出来事の説明をした。


「そして彼女の仲間は戦おうとせず、その場から離れようとした。しかし、水澤ちゃんだけは逃げようとせず、暴れているゴーストに訓練用のバトルサポートで戦おうとしていたんだ」


「訓練用? そんな話は聞いてないぞ?」


 暁美は玲奈に軽く視線を送り、優一に視線を戻す。


「そりゃそうでしょ。暁美はもっと面倒なことがあったんだから」


「あんたのせでしょ?」


 話に追い付けず、玲奈は完全に蚊帳の外。優一は必ず入隊させると言ったが、暁美の話を聞く限り、今すぐ入隊出来る可能性はゼロに近いと玲奈は感じた。


「あ……あの、私次回の入隊試験まで待っても大丈夫ですよ? 本部長に迷惑かけるくらいなら私はそれでも……」


 2人の会話に入ろうとすると、機嫌が悪そうだった暁美が「ハッ!」とした表情で玲奈を見た。


「あ、ごめんなさい。私としたことが周りをよく見ずに暴言を……」


「いつものことじゃないか」


 優一の言葉に再び暁美が機嫌を損なおうとしていたが、1つ咳払いをして、コーヒーを飲んで心を落ち着けていた。


「……あ~、さっき軽く水澤さんの関係資料を見させてもらったけど、私も優一と同じで今すぐ入隊してもらうのは構わないわ」


「え?」


 玲奈は暁美の意外な発言に思わず気の抜けた声が出た。


「ただし、このままでは先月入隊した隊員から不満の声が上がることが予想される。そこであなたにも入隊試験を行ってもらうわ」


「ほ、本当ですか?」


 暁美の横にいる優一は少し微笑んで玲奈を見る。玲奈は心の中で飛び跳ねている喜びを押さえるのに必死だった。


「試験はあなたの体が元の生活を不自由なく送れるようになったらやりましょう」


「は、はい!」


「では、あなたは病室に戻って体を休めなさい」


 玲奈は深く頭を下げて、暁美の言葉に従って車椅子を動かし、病室に向かった。


「……暁美」


「何? 私は今から」


「嘘をつかないでくれ。本当は特別入隊なんて反対なんだろう?」


「……………」


「それに俺の意見を鵜呑みにするような性格じゃないだろう? 何を見て水澤ちゃんの入隊を許可したんだ?」


「……ふん。ランク落ちしたあなたに言うことはないわ。それじゃあ」


「…………ご馳走様くらい言えよ」



~おまけ~



優一「すみません、お会計お願いします」


店員「は~い。えーっと、3,800円になります」


優一「は?」


優一は手渡されたレシートを見て目を丸くする。

そのレシートには1杯3,000円するコーヒーが記載されていた。


優一「あ……あ~け~み~!!」


暁美「ん~、高いコーヒーの割には味がイマイチだったかな~」

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