第4話


 毎日夜になると野球の楽しい応援歌を歌っていた。心が久々に踊りだしていた。


 手をたたいて一人喜んでいた。


 しかし、試合に勝利をして、テレビの中のようにハイタッチする相手は横にはいなかった。


 だから、テレビの世界を羨ましく思うようになった。そして、毎日毎日、部屋の中で野球を見ていると、野球場に行きたくなってしまっていた。


 でも外は怖いかもしれない。そう考えても、あのサヨナラホームランを打った選手に会いたくなってしまっていた。


 鉛がいくら外に出るなと鎖で私を縛っても、私はもう、抵抗して抜け出すことが出来てしまった。


 気が付けばスマートホンで行き先を調べていた。


「ここから二時間……交通費五千六百円……」


 引きこもっていたのでお小遣いなんて少ないけれど、五年間使っていなかったのでなんとかなった。


「チケット二千五百円」


 当日券も買えそうだった。


 遠いけれど、そんなものどうでもよかった。


 私は、久々に私服というものに着替えて、太陽の照らす地面を歩き始めた。


 鎖は劣化して粉々になってしまった。

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