わたしが魔女になるまで
國分
第1話 遊園地で迷子
美海は小学校4年生の女の子だ。
今日は、家族で遊園地に遊びに来た。空は雲ひとつない。絶好の行楽日和だ。
今日遊園地に来たのはご褒美だった。
マラソン大会の前の日に、ママと約束していたのだ。もし1位になったら、来週の日曜日に遊園地に連れて行ってもらうと。
そして当日は有言実行で、走るのが得意な美海は1位になった。
同じクラスには、美海と同じくらい走るのがとても早い女の子がいた。
運動会の時は、徒競走でその子に負けて2位だった。
だから、マラソン大会では絶対に勝ちたいと思い、放課後に毎日、家の近くにある公園で走る練習をしていた。
美海は、長距離を走るのがあまり好きではなかった。
疲れるし、走り終わった後は胸が爆発してしまうのではないかと思うくらい、ドキドキするからだ。
しかし、毎日走る練習をしたおかげか、マラソン大会では見事に勝つ事が出来た。
遊園地に行く朝、美海はママに起こされなくても早起きをしました。
遊園地に行くのがとても楽しみだったからだ。
今日行くのは、美海が大好きな遊園地だった。
ママもその遊園地が大好きで、美海ちゃんは小さい時から何回も連れてきてもらっていた。
クラスの誰よりも、その遊園地の事を詳しく知っているのが、美海の隠れた自慢だった。
遊園地に着くと、相変わらずの凄い人混みだった。
日曜日なので、家族連れがたくさん来ている様だった。
だからかも知れない。どの順番でアトラクションに乗ろうかと、考えてながら歩いていた美海は、気が付くと迷子になっていた。
しかし、美海は少しも不安にはならなかった。
何回も来た事があるおかげで、どこに何があるか覚えているからだ。
そして、迷子になった時は、どこで待ち合わせをするか決めているからです。
美海は、あらかじめ決めていた集合場所に歩き始。
すると、1人の着ぐるみが話しかけてきた。
「こーんにちはー、お嬢ーさん、迷子ですかぁ?」
おかしなイントネーションの、蛇の着ぐるみが話しかけてきた。
赤い瞳に白いウロコ。着ぐるみとは思えない、リアルで固そうな表面をしていた。
美海は遊園地にいるキャラクターを全て知っているが、この着ぐるみは初めて見た。
着ぐるみが生きている事を信じる年齢ではない。もちろん普通は話せない事も知っている。
「こんにちは、あなたは誰?初めて見たわ。なんで話せるの?」
美海は質問した。怪しんでいる素振りは隠せなかった。
「ボークは特別なんだよ。こーれは内緒なんだけど、ボークは魔法の力で動いているんだ。」
顔を近づけて、手で口元を隠し耳うちしながら話す。近くで見ると皮膚が本当にリアルに作られていると感心してしまう。
着ぐるみの顔が笑いながら、細い舌を素早くニョロっと出した。
着ぐるみの表情が変わった事に、美海は驚いた。
「ところで、美海ちゃーんは迷子なんだよね?ボークが家族のところに連れて行ってあげーるよ。」
美海は、どうしようか迷った。明らかに怪しい着ぐるみ。しかし、遊園地内にこんな目立つ不審者がいるとも思えない。やはり特別製の着ぐるみなのだろうか。
色々考えて、結局着ぐるみに案内してもらう事にした。
普段、着ぐるみが歩いていると、いろいろな人が一緒に写真を撮ろうと寄って来るものだが、誰もその着ぐるみには寄って来なかった。
やはり見た目が気持ち悪いからだろうかと、横顔を見ながら園内を歩いた。
「お名前はなんて言うの?」
美海が聞く。
「ウォールトだよ。」
2人は歩きながら色々なお話をしました。
ふと気が付くと、美海は知らないエリアを歩いていた。
レンガ造りの綺麗な建物が並んでいる。
屋根の煙突から煙が出ていおり、家の横に繋がれている馬が干し草を食べていた。
道路もいつの間にか、アスファルトからレンガ貼りに変わっていた。
この遊園地の事は隅々まで知っているが、今いる場所初めて見た。
「ここどこ?私、こんな所きたことないよ?」
「こーこはね、特別ーな場所なのさ。美海ちゃんはとてもラッッッキーなんだよ。」
そう言われて、少し嬉しくなる。
「さーあ、あの奥だよ。」
レンガで出来た橋を指差した。
上に線路が敷いてあるようで、横の土手に人が入らないように手すりが並べてある。
橋の奥はトンネルになっており、遠くに光が見えた。
トンネルの中に入ると外見よりも明るく感じた。
星の様な光が照らしており、それが二人が歩くのに合わせて移動している。とても綺麗だった。
「足元につまずかない様ーに気をつけてね。」
ウォルトが優しく声をかけ、手を繋いでくれた。
その手は見た目通りゴツゴツしていたが、温かかった。
トンネルの出口に差し掛かり、外の光が眩しくて、中からは外の様子が見えなかった。
2人は光に包まれてトンネルから出た。
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