第6話 踊

誰に話しかける風でもなく、むろん私を意識していた風でもない。

やはり、新一自身にむけてのことだったのか。


自身に対するメッセージなだったのか。

新一の瞼が閉じられる一瞬間、新一の目に憎悪の炎が燃えているように感じた。


けれども次に溢れ出た涙で、すぐに消えてしまった。


暫く続いた沈黙の後、今度は私が言葉を紡いだ。


「若者だって、その位の計算はしているんじゃないか。

獰猛な獣に痛ぶられる小動物然として、世論の同情を買ったのじゃないかな。


第一君をして、マスコミに対し悪感情を抱いたじゃないか。

若者のために涙を流したじゃないか。


同世代の純朴な若者が攻撃されたのが、たまらなかったんだろ?」


「それにだ。

僅かではあっても、ヒッピーに対する偏見を取り除けらればと思ってのことかもしれないぜ。

ひょっとして……」


「その物分りの良さが、だめなんだよ」

新一が私の言葉を遮って言う。


「流されちゃだめだ。

物の本質が変わるわけがない。


原則が大事なんだ。

踊らされちゃだめだって」

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