世界よりも嫁(※予定)の方が大事なので仕事したくありません〜いえ、貴方はただの上司なのでキッチリ仕事してください〜
安崎依代@『比翼は連理を望まない』発売!
その者、『嫁』と書いて……
ランデルワース王国が都、ウェルディ。
その中心に建つティフィルナ王宮の朝は、存外早い。
正式な謁見開始時刻は朝10時、王宮会議の開場は午後1時からと遅めに設定されているのだが、王宮の主である国王は早朝から政務に励んでいる。
というよりも、励まされている。
「おはようございます国王陛下! 中庭の樹木が一晩でありえないほど成長してもはや中庭はジャングルと化しておりますがいかがいたしましょうか!?」
「陛下! 昨日爆発した魔法具倉庫の片付けについてですが!」
「朝食に使う予定だった卵がすべて鶏になってしまって……」
「腰が痛むのですが、どうにかしていただけませんものか」
まだ目も完全に開ききらない国王に詰め寄る臣下達は、口々に訴えの声を上げる。そのどれもが些事のように思えるが、当人達の顔は至極真剣だ。誰もが『自分の訴えは国王に直接届けなくてはいけないものだ』という顔をしている。……いや、むしろ『こうなったのは陛下のせいなのですから、責任取ってどうにかしてください!』という顔、と言った方が正しいのかもしれない。
「……あー…………」
他国ならば最悪不敬罪で処刑されてもおかしくないかもしれない。だがランデルワース国王はその不満の声を素直に受け入れる。安らかに寝ていた所を叩き起こされたにも関わらず、怒ることもなく寝起きで動きが鈍い頭を必死に働かせようとしてくれる辺り、当代陛下はとても寛容だ。
「中庭の木は……多分あれの、何かの実験のせい、だろう。当人を捕まえるか、……魔法省に問い合わせて……。魔法具倉庫も……担当部署に…………鶏は、可哀想だから、鶏舎で飼って、卵は買うか、諦めて……
「失礼致します陛下! 衣装部屋の衣装が勝手にダンスを踊り始めました!!」
「陛下! 西の庭の噴水が七色の光を放ち始めたのですがっ!!」
「陛下! 宰相殿のカツラが!!」
「陛下!」
「陛下!!」
国王がコックリコックリ舟をこぎながら答えている間も、訴えを起こす人間は増えていく。まだ寝ぼけている国王が案件を捌く速度よりも訴えを起こす人間が増える速度の方が3倍は早い。そもそも、国王がきちんと目覚めていたとしても、恐らく処理能力を超える勢いで人は増え続けている。
「……っええいっ!! いい加減
国王の寝室に人が入り切らず、続きの間である居室にまで訴え待ちの人間が溢れ出した頃。
ついに完全覚醒した国王は『カッ!!』と目を見開くと叫び声を上げた。その様に周囲の人間が『おぉっ!』とどよめく。
「あれのことはフランチェスカに一任していたであろうっ!! フランチェスカ! フランチェスカを呼べっ!!」
その叫びに、国王の寝室に押しかけていた面々はそれぞれ一歩下がるとその場で
「おはようございます、陛下」
「うむ」
王たるにふさわしい声で答えた国王はようやく寝台から外に出る。
そんな国王の傍近くに控えていた爺は『ほっほっほ』と穏やかに笑った。
「寝起きが悪い陛下には、何よりのモーニングコールですなぁ」
「爺、うるさい」
しかめっ面で答えた国王は片手を振って合図を送る。毎度恒例となった合図に爺は恭しく頭を下げ、寝室に押しかけていた臣下達はサッと散っていく。
ランデルワース王国が都、ウェルディ。
その中心に建つティフィルナ王宮の朝は、存外早い。
国王を早朝から叩き起こすことになる数々の珍事を、たった一人がせっせと量産しているせいで。
──陛下が早起きになったのは喜ばしいことですが、これではいくつになってもお妃様をお迎えできませんなぁ。
その原因に対する唯一の『特効薬』の元へと向かいながら、爺はまた『ほっほっほ』と朗らかな笑い声を上げたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます