哀感ハーモニカ

日暮れの公園が朱の光に染まる。

ベンチに座り、俺は独りハーモニカを吹く。

生き別れの妹よ。

お前は今どこにいる。

父さんがいつか吹いていたこのハーモニカ。

覚えているかい、妹よ。

この歌がもしお前の胸に届いたならば——


瞼を開くと、目の前に制服を来た少女が立ってた。

ハーモニカを吹く俺をじっと見つめている。

何か言いたそうに唇を震わせて。

切ない想いを堪えるように眉を寄せて。

俺は音を止めた。

「どうかしたかい?」

少女は目を伏せて、心を決めかねるように肩をすぼませる。

「言ってごらん」

「あ、あの…」

キッと少女の眉に力がこもる。

「そのベンチ、まだペンキ塗り立てですよ?」

「ああ」

俺は硬く表情を変えずに瞼を閉じた。

「もちろん知ってるよ。あえて、ね」

「そ、そうですか」

立ち去る少女の背中に、俺は哀感たっぷりのハーモニーを捧げた。

きっとクリーニングじゃ落ちないだろうな、と思った。

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