第29話 恋人(役)になりました。

入団式が終わり、アレックスたちは第3騎士団の団舎に移動した。

これから、第3の歓迎式が行われる。


「アレックス〜!!ようやく来たか!待ってたぞ〜。」

茶色の髪をふわふわ揺らし、ニカッと笑みを浮かべた小柄な男が近づいてきた。

まるでポメラニアンが尻尾を振っているかのようにどこか可愛い男でご機嫌だ。


「おぉ、ロウェル!久しぶり!」

アレックスは、近づいてくる男の顔を確認して挨拶をした。


「へへっ、お前が第3で嬉しいぞっ!

団長のくじ運に感謝だな。お前の所属を決めるのに、かなり揉めたそうだぞぉ。

第3から第10まで手を挙げたそうだ。人気者だなっ!」


「マジかぁ、くじで決まったのか。(てっきりハミルトン団長のゴリ押しかと思った....。)」


「おうっ。お前がいると便利だろ?

魔術師でもやってけるから第10も欲しがったんだ。

第1は、顔が王子然としたやつしか入れないからお前はお呼びじゃなかったってさ。あっはっはぁっ、残念だったな!」

ゲシゲシっとロウェルは笑いながら結構な力で小突いてくる。さすが騎士だ。


「いってぇな。イケメンじゃないのはわかってるよ!毎日鏡で見てるからな.....。お前だって、素朴ちゅうの素朴じゃねえか。うりゃっ。」

アレックスもお返しとばかりに、ロウェルの顔をぎゅむっと掴んで言い返した。


中の上程度の野郎2人で、顔をディスりあう。

悲しいやりとりだが、餓鬼の遊びのように楽しそうであった。


「はは、このそばかすがある限り俺も第1には入れねぇな。俺には、森とか自然がお似合いだろ?そんなの知ってるし。

...まぁ俺、第3気に入ってるから別にいいけどなっ。」


ロウェルは、平民らしい雰囲気の青年だ。

御伽噺に出てくるようなきこり風なやつで、一緒にいると安心する優しい雰囲気の男だった。

雰囲気が2人とも似ているので波長が合い、納品のたびに、ジャレつく間柄である。


「ねぇ、第2はアレク欲しがらなかったの?」

ネフィがアレックスの背中からひょこっと顔を出して話に割って入った。


「うぉっ!!超美女!」

ロウェルが、ビクッと驚いた。


ネフィは中身はともかく、スタイル抜群で顔も整っているので初見の人は息を呑む美しさだ。


「ロウェル、これ俺の幼馴染だ。ネフェルティ・ヴァンキュレイト。今日から隊長に就任するって聞いているだろう?」


「ああ、新人なのにいきなり隊長に抜擢されたって団でも話題になってる。

......。嘘だろう?ゴリラじゃない....。

筋肉ムキムキの生物学上の女って奴がくるって噂だったのに。こんな美女だなんて聞いてないぞ...」

ロウェルは、ぼーっと見惚れてブツブツと呟いた。


「あー、うん。ゴリラは禁句だ。

気をつけろ、ロウェル。

めちゃくちゃ、こいつ強いからな。鞭が飛んでくるからな。変な扉を開く前に、胴と頭がサヨナラだ。」

アレックスは、眉を下げながら呆れ顔で、右手で自分の顔と胴体を切る真似をした。


「で、なんで第2は手を挙げなかったの?」

ネフィは、初対面の男にポーッとされるのはいつものことだと、ロウェルの態度にも意を介さずに会話を続けた。

ロウェルも目を見て話しかけられたことで現実世界に舞い戻った。


「はっ!!意識飛んでた!

あー、第2はインテリ系が揃ってるんだ。

メガネと細身がトレードマークだな。

諜報とか情報を扱うところだから頭がキレる、すかした奴が入りやすい。

つまるところ学園出てないアレックスは、お呼びじゃないのさ。

学がない奴は要らないって。」

ロウェルはヒョイっと肩をすくめて、説明した。


「ふーん。アレクは、教えられればなんでもこなすのに。勿体ないね。」

なぜかネフィがプリプリしながらフンスッと腕を組んだ。


「なんで、お前がムカついてんだ?

別に、どこだって構わねぇよ。お前の直属部下ってことは、決まってんだから。やることは何処だって変わんないだろう。

まぁ、第3は(ホモ疑惑の)団長がなぁ......。」

苦虫を潰したへの眉顔のアレックスは嘆いた。


ところが、すかさずロウェルがアレックスの嘆きに反論する。

「何言ってんだ!?うちの団長、当たりだぞ?柔和で温厚で、しかも強いっ!自慢の団長だ!」

ロウェルは、かなり得意げだ。


「あー、そうかい....。スキンシップも多くて?」


「そうなんだよ!他の団長なんて威圧的なのに、うちの団長は気さくに肩組んだり、バシバシ尻叩きながら激励してくれてフレンドリーなんだ。」


「はは....。(良いように解釈してるなぁ、あれは捕食者の眼だぞ....。)」

もはや乾いた笑いしか出ない。


ネフィがこそこそと小さな声で囁いてきた。

「なに?アレク、苦手なの?」

「....ああ。苦手だ。俺のゴールデンボールと竿を使う前に違う竿で掘られそうだ...。」「あ、そっち?」「目の奥が、ギラついてるって感じで見つめられると悪寒がするんだ....。舌なめずりもされた....。」

「うわぁ、アレク狙われてるね.....。」

「...ボソボソ....男同士の受けなら童貞って言えるのかな?今世も30歳まで童貞を貫いてほしいのに....。グヌヌ...。どうしたもんかな....。」

ネフィが眉を寄せながらブツブツつぶやく。


そして、名案だというようにキッラキラした顔で小さな声で耳元で囁いた。

「じゃあ、ネフェルティちゃんが助けてあげようか?

今から、アレクは私の恋人ってことにしよう!

うん、いいじゃないっ!」

ポンっと手を叩いてネフィが提案をしてきたが.....


「.....コ、コイビト?俺と、ネフィが?いや無理だろう?」

「なぜ?」

キョトンと首を傾げるネフィがあざとい。


「まず、見た目が月とスッポンだ。な?釣り合いが取れない。

それに俺にメリットがあっても、お前にはないぞ?

お前、幸せな結婚したいって宣言して平民になってるのに、俺と恋人のフリをしてたら出会いがなくなるぞ。」


「そんなの関係ないねっ!ふんすっ、ふんすっ。

私にとって、アレクが一番大事だよ?

死を分かつまで私たちは互いに味方でいるんだよ?

それこそ、私の将来の旦那よりも大事なのはアレクだよ?

当たり前じゃんか!」

ネフィは、腰に手をあてて『何、当たり前のこと言ってんの?』って、ビシリっとアレックスに指を突きつけた。


アレックスは、ひゅっと息を呑んで固まった。


(え!?これ夢かな?死の魔法陣が、俺のために作用するの初めてじゃね?

いつも俺だけが無理難題を突きつけられて下僕のように従ってきたけど。

ネフィが俺のために我慢してくれるの?まじで?

い、い、いい奴じゃないか!?俺今まで誤解してたよ。ありがとう、ネフィ!!)


(ムカ〜ぁ!!第3の団長めぇ〜。私の所有物に手を出そうなんて、なんて奴だっ!絶対に渡さない!

旦那なんてものは、私の美貌でいつでもどこでもいくらでも見つけられるしねっ。ぷんぷん!

それよりも私専属の下僕が専属じゃなくなることの方が大問題だよっ!共有なんてあり得ないっ!!)


アレックスは、感動していた。

ネフィは憤ってた。

ロウェルは、黙って2人の内緒話を観察していた。


「お前ら、仲良いな?何こそこそ話してるんだ。

2人して、顔を青ざめたり怒ったり感動したり忙しない百面相してるぞ?距離も近いし、本当に幼馴染ってだけか?」

ロウェルは、ほっとかれて痺れをきらし、いよいよ声をかけた。


(全く、俺先輩よ?先輩放置して、2人で内緒話なんてなんて奴らだ。

アレックス羨ましいぞっ。美女に俺も囁かれてぇ!)


「いや、恋人だ!」

アレックスはキリリと男前のような顔を作って宣言した。


全く男前ではなかったが....。


「はぁ?聞いといてなんだが、全然甘い雰囲気もなかったぞ?マジか?」

ロウェルは、ネフィにも確認をとる。


「マジだぞ?ほら、どっからどう見ても恋人でしょう?」

ネフィも肯定して恋人繋ぎで手を絡めた。

次にダメ押しでアレックスの頬に触れるだけのキスをおくった。


「「!!!っ!?」」

アレックスもロウェルも、ギョッとして驚いた。


「いやいやっ!おかしいだろ?なんでお前まで驚いてんだ?」

ロウェルは、ビシッとアレックス指摘する。


「あっ、ソウダナっ!ナンデカナっ。

ほ、ほらっ!人前でいきなりされるとか慣れてなくて!こら、ネフィ!恥ずかしいだろ?

フタリキリノトキニ、.....キスっ、シヨウ!」

アレックスは、ネフィの暴挙に狼狽えてワタワタとカタコトで受け流す、いや受け流せなかった。顔が真っ赤だ。


ネフィは、そんなアレックスを見てニヤニヤと笑みを浮かべてキャハハとからかう。

ロウェルは、ジト〜っと疑心暗鬼の目を向ける。

アレックスは、ただただパニックになり赤くなったり青くなったり忙しそうだった。


「あっ、そういやアレックス?アングラスピアビーの巣の後始末まだ終わってないんだ。

あの後、じわじわとお湯が湧き出てきてドロドロのグチャグチャになっちゃってどうすることもできなくて放置してるんだ。だから、多分最初の仕事は訓練場の整備だと思うぞ。」


「ん、あー温泉があったのか?だからかぁ...、地中が暖かかったから蜂が活動できたんだな。なるほど、スッキリしたわ。」




3人が話しながら談話室に入ると、酒やご馳走が所狭しと置いてありテンションが上がった。

「さて、ここが談話室だ!ここでお前たちの歓迎会をするぞ!今更だが、ヴァンキュレイト。プライベートではなんて呼ばれたい?俺のことは先輩だがロウェルでいいぞ。階級は、ヴァンキュレイトの方が上だからな。」


「うん、同い年だからロウェルと呼ばせてもらうよ。ロウェルせ・ん・ぱ・い♪

仕事中は、ヴァンキュレイト隊長って呼んで。フランクの場所では、ネフィと呼んでよ。」


「おう、じゃあこの会ではネフィと呼ばせてもらうぜ。じゃあ、楽しんでくれ。」

ロウェルは、すたすたと既存団員たちのまとまりに合流しに去った。


しばらく経つと歓迎会が始まった。

歓迎会の初めに新入団員の紹介と役職者の紹介があった。

ネフィもアレックスも簡単に紹介をされ、好意的に歓迎された。


第3騎士団は全部で150人ほどいる。

団長、副団長が1人ずついて、その下に隊長が配置されている。

隊長職は10人いて、その中の1隊がネフィの預かる隊になった。

各隊は10人から20人の集まりで構成されていたが、ネフィの隊は総勢11人。

ネフィは第10大隊の隊長という役職になり、アレックスは第10大隊隊長補佐というイレギュラーな役職をもらった。他の団にも、他の大隊にもない役職であった。

副隊長は別の者で、あくまでもアレックスは補佐で副官ってところだ。

ネフィの業務と同じことを手分けしてやり、ネフィの有事の際には代わりに仕事をこなすが、あくまでも階級は下っ端であるので、命令を出すのはあくまでも副隊長。副隊長の耳に指示を囁く黒子的な存在であった。


そんな役割なので、居なくても対して困らないので気楽に勤務できそうだとアレックスは安心したのだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る