第22話 ネフェルティとリダリアのプチ修羅場
次の日の朝、アレックスが惰眠を貪っていると....
「とうっ!!」
「ぐぇっ!.....ごふぉっごふぉ、ごほっ。」
ネフィが勢いよくアレックスに肘を突き立て乗っかってきた。
「....な、なんだ!?
ゲホっ、おこし方 雑っ!!」
「おっはよ〜!朝だよ!
ネフェルティねぇ、お腹すいちゃった♪」
ネフィは、いや〜んと、体をくねくねさせて戯ける。
起きてすぐにふざけあう気力は持ち合わせてないアレックスは、ちょっとイラっとしたが、精神力で飲み込んだ。
「ケホけほっ、....あーー、元気になったんだな...何よりだ。おはよう。」
アレックスはお腹に回復呪文をかけながら起き上がった。
(女ゴリラが、ジャンピングエルボーなんて...なんつー、恐ろしい起こし方するんだ....
落下点がズレてたら、あばらが折れる傷害事件だぞ。
腹だったから痣ができるだけで済むが....。
全く慎みが足りない女子だなっ!ふぅ〜...。)
実は、常人なら内臓が破裂する程の殺人行為だったが痣で済んだ。
知らず知らずのうちにアレックスの肉体も鍛えられていた為、無事だっただけである。
もはやアレックスも、常軌を越えた領域にいた。
そして、どんどん二人は常識からずれていく。
どこまで行くのか神のみぞ知る...。
「私、か・ん・ぜ・ん回復〜♪」
ネフィは、その場でくるっと回って朝から元気にはしゃぐ。
「昨日は、寝ても100しか増えなかったのに?
魔力回復薬には回復スピードにブースト効果でもついてるのか...?
やっぱり、ファンタジー薬は理解の範疇を超えるな。」
アレックスは、できれば数値化して今後どのくらい飲んだら最適かを検証したかったので、ちょっと悔しかった。
とりあえず、ネフィが回復したのならマンチェスタにはもう用がない。
二人は、ご飯を食べて帰宅の準備をした。
外に出ると、当たり前のようにリダリアが待ち構えていた。
「おはようございます!アレックスさん、奇遇ですね!」
リダリアはずっと宿の前で張っていたが、さも偶然のように声をかけた。
当然、異性の機微に疎いアレックスは嘘に気づかない。
しかしネフィは、リダリアの愚かな行為に思わずフッっと鼻で笑う。
その仕草を見てリダリアは、片眉をピクリと揺らした。
(なんなの!今、鼻で笑った?小馬鹿にして、むきぃぃぃ!!)
「おはようございます。
リダリアさんも、その荷物ということはカレードに帰るんですね?」
そんなピリッとした視線の交錯にも気づかないアレックスは、リダリアの足元にある大きな荷物を見て普段通りに声をかける。
「はい!アレックスさんも今から帰るんですか?」
リダリアは、ネフィのことはまるで見えていないかのようにまるっと無視した。
目をパチパチ瞬かせ、胸の前で両手を組み合わせアレックスを見つめる。
自分ができる最上級の可愛さアピールだ。
しかし、そんなリダリアの仕草は一切、さっぱりこれっぽっちも、アレックスには響かない...。
アレックスはそれどころか、そのまま帰ろうとする。
「はい、これから帰ります。では、またカレードで。」
アレックスはニッコリ笑って辞去の挨拶をし踵を返した。
「ぶはぁっ!!...くっ....あはははははっ!!」
ネフィがたまらず口を押さえて噴き出した。
ヒーヒーっと、リダリアに指をさし腹を抱えて笑いが止まらない様子である。
リダリアは、アレックスのそっけない態度にしばらく呆然としたが、キッとネフィを睨みつけ一喝した。
「あなた!失礼よっ!
人に指を向けるんじゃありません!
笑わないでっ!!
そもそもあなた誰!?アレックスさんの何!?」
「...くっ、ぷはっ!
ごめんね、笑いが止めようとしてるんだけど...。
くくっ...止まらなくて....。ひっ、ひっ..ふ〜...。」
ネフィは必死に笑いを止めようと試みるが、ツボに入ってしまい止まらない。
「ネフィ....。初対面の人に指差して笑うのは、失礼だぞ。
しかも、ラマーズ法は出産の呼吸法で、落ち着くためのもんじゃない...。」
アレックスは、呆れながらネフィを見た。
「ごめんって。
.....あー、私はアレクの幼馴染です。
ネフェルティと言います。よろしくね。」
笑いすぎて目に涙が滲んだので指で涙を拭いながら、自己紹介をした。
(アレク??ネフィ??
愛称でお互い呼んでるの!?
なにそれっ!ほんとに幼馴染なの!?
リダリアに勝ち目ある?私のことも愛称で呼んで欲しい!リーリアって呼んでぇぇぇ!)
「....リダリアです。
昨日は、一日中(治療院で治療の)パートナーとしてアレックスさんと居ました!」
ふんっと、得意げにネフィに言い放つ。
(あなたがぐったりしている時、結果的にアレックスさんは私と居たのよ。ふふふん!)
しかし、リダリアの交戦的な物言いにもネフィは全く意に介さずへ〜っと受け流した。
「そうなんだよ。
昨日治療院で治療を手伝ってくれたんだ。
リダリアさんは治療助手なんだ。
それで偶然にも、俺の薬の顧客で知り合いだったんだ。」
「こ、顧客?」「し、知り合い?」
(もっと、親しみを込めた間柄になってないのぉぉぉっ?!昨日、一緒に患者と病気と戦ったじゃない!)
リダリアは、アレックスの言葉を小さく繰り返して、心に大打撃を受けた。
ネフィは、心の中でまた笑いが止まらなくなった。
(ほとんど他人の関係〜ぃ!
ぷはは、脈全然無さそうだよ!
しかも、アレクの言葉がぜつみょうにクリーンヒットしてるっ、なんて残念っ!)
ネフィは、そんな気持ちもおくびにも出さずに努めて明るく会話をする。
「そっか。じゃあアレクのお客さんってことは、私の守るべき領民ってことだね。オッケイ!」
「???(守るべき領民?)」
リダリアは、ネフィの発言の意図が分からず困惑した。
ネフィは、ニヤ〜っと笑いながら、自分から自己紹介をする。
「ふふ、リダリアさん?
私の正式名は、ネフェルティ・ヴァンキュレイトと言います。
以後お見知り置きを♪
我がヴァンキュレイト領の日々の繁栄にご協力ありがとう。」
ネフィは、慇懃無礼に騎士の礼をした。
「ネフィは、領主様の一人娘で、学園の騎士科に所属してる騎士見習いなんだ。」
アレックスは、補足説明をした。
「え、えええええっ!」
リダリアは、目をグワッと開いてものすごく驚いた。
(どうして?どうして?
領主の娘と知り合いなの??
謎すぎて、ミステリアスどころじゃないわっ!摩訶不思議だわ!
ちょっと違う理由で、ドキドキしちゃう!
ドキドキよりバクバク慄いちゃう...。)
「それでなんだけど、ネフィの素性は黙っててくれると助かります。
一応こんなんでも貴族だから、婦女子が俺みたいな平民男と二人で旅してるのはまずいでしょう?
ネフィも、身分は黙っとけよ、全く...。」
(ふふふん、私という身分の壁は高いだろう?
どうやって、私を排除するのかなぁ!
めっちゃ楽しい!!)
ネフィは、新しいおもちゃを見つけたようにウキウキとした。
(あ、でも貴族と平民じゃ、身分が違うから結婚はできないわよね?
これってチャンスじゃない!?)
リダリアは、逆に前向きに考えてウキウキした。
(はぁ、ネフィが身分なんて言うからめんどくさいことになったよ。
妙齢の男女が一緒にいるだけでも邪推されるのに、身分が違うなら尚更まずいだろ。
リダリアさん、目輝いてるよ。
絶対勘違いしてるよ。
...はっ!貴族の男妾じゃないかって思ってるんじゃ!?
女子は、禁断の関係っての好きらしいし....。)
アレックスは、全く見当違いなことを考えてげんなりした。
「あのっ!これから帰るなら一緒にカレードまで行きませんか?」
リダリアは、前向きになった勢いで本題を切りだした。
アレックスは、キョトンとして一言告げる。
「えっ?無理です。」
ネフィはニヤニヤしながら二人のやりとりを見ていたが、アレクの言葉にまたもや噴き出しそうになった。
(ぷはっ!マジか?
理由も言わずにその一言は、ライフゲージがゼロになるよ。残酷だな〜アレクは...クフフ。)
「私たちねぇ野営しながら帰るんだ。いつものことで慣れてるからね♪
きっと、助手さんは、乗り合い馬車でしょ?
だから無理なんだよ。」
ネフィは、『いつもの』とワザと強調してリダリアをからかう。
リダリアは、豆鉄砲をくらったかのように目をまん丸にし驚いた。
(いつものぉぉぉぉっ!?
泊まりがけで、出かけることに慣れてるってこと?
でも、幼馴染なのよね?でも、でもっ!
男女が二人で旅って間違いが起きるんじゃ!?
ネフェルティ様めちゃくちゃ綺麗だし、これでなんとも思うところがないってことないと思うの!
はっ!もしかしてアレックスさん、ボーイズラブ!?)
リダリアは、明後日の方向に思考を飛ばした。
「じゃあ、バイバーイ。」
ネフィは、軽く手を振って踵をかえしアレックスもペコリとお辞儀をして帰路につく。
リダリアは、脳内パニックで煙が出そうになりながら見送った...。
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