第8話 騎士団会議

ようやくネフィの夏季休暇が終わりを迎え、学園に悪魔が帰った。ふぅ、やれやれ。


平和が戻ったきた秋の中ごろ、ネフィからの定期報告が届いた。


『拝啓 アレク!

こないだのドラゴン鑑賞は楽しかったな。今度の冬の長期休暇ではどこに行こうか?アレクも考えておいてくれ。

そうそう、こないだ学園でヒロインを見た。

黒髪で、日本を思い出し懐かしい気持ちになったぞ。よくわからんが見てると暖かい気持ちがした。ヒロイン補正か?

だが、魔力値は大したことはなかった。

やはりアレクには敵わない。

ヒロインは聖魔法しか使えないから、やはりアレクの一人勝ちだな。私は鼻が高いぞ。

あとな、王子と一緒にいたので、乙女ゲームのシナリオ通りなら私は王子の婚約者になりそうだ。そうなったら、ますます断罪されるように動こうと思う。

王子妃面倒だしな!隣国に行く準備はしておいてくれ。 


ネフェルティより』


うん、王子妃なんてなったら世も末だ。立派に断罪されてくれ。


俺は今日も解熱鎮痛剤を作って、効果の研究だ。

臨床実験大事!


「アレク君、こないだ腹痛があったんだが、アレク君の薬を飲んだら治ったんだよ。」


「こないだ体が不調を訴えて医者にかかったんだが、目が黄色で黄疸かかってるから肝臓が悪いと言われてな。治癒師のまずい薬をたくさん飲んだんだが一向に良くならなくて....。もう2、3日で死ぬんじゃないかという時に藁にもすがる思いでアレク君の薬を飲んだら少し楽になってね。1週間飲み続けたら治ったんだ。あれは肝臓にも効くのかい?」


こんなふうに、街のみんなからいろんな声が届いていた。



「うーん、俺の薬は魔力が入ってるからヒールと同じ効果があるのかなぁ?だとしたら画期的だよな。

持ち運べるし、治癒魔法の使い手不足が解消されるしな。

騎士団に卸しておけば、俺の将来は安定だよなぁ。

そう考えると、解熱鎮痛剤で治せないのは癌か。あれは細胞の変異が原因だし。

あとは、毒か?状態異常は治せないもんな。」とぶつぶつ独り言を呟く。


ん〜、俺の化学式はファンタジーのものが作れないのが難点だよなぁ。

毒消し草しかりポーションしかり...。

魔術で状態異常解呪はできるが、魔法使いがいない時に使えるものがいいよなぁ。

錬金術にはあるが、いかんせん不思議な材料が多すぎて材料をとりに行くのが難しい...。

カリナさんは、凄いなぁ。寝る時間もバラバラになるし、植物の世話もして日々忙しい。遊ぶ暇もない...。

錬金術師ってブラック企業だな。

カリナさん、まじ聖女だ!拝んどこ。南無南無。


よし今日は、エド様に手紙を書こう。かねてから思ってたことを実行する時がきた。

ネフィからエド様に渡して貰えば届くだろう。


『拝啓 エドワード様


夏季休暇では、私もネフィもお世話になりました。あのあと、きちんと休めましたでしょうか?心配しておりました。

今日は、エド様の怪我がまたネフィによりひどくなると困るので、数回分の解熱鎮痛剤を入れておきます。使ってください。

状態異常解呪と体力魔力回復以外なら効果が見込まれます。あと、欠損は流石に無理です。


今日筆をとったのは、エド様のおうちに口利きをしていただきたく候、厚かましくもお願い申し上げます。


エド様のお家は騎士の家門だと聞きました。私の解熱鎮痛剤を騎士団の備品としておいて頂きたいのです。


紹介をしていただけないでしょうか?


知っての通り、私は平民です。正攻法では、謁見もできません。何でも屋アレックスの薬を売り込みたいので、足がかりをつくっていただきたいです。

いろよいお返事お待ちしてます。


ネフィの下僕予備軍アレックスより』


こんなもんかな?

下僕仲間の絆を、俺は信じてる!



1週間経つころ、早速返事が来た。

エド様ではなく、当主様からだった。


『何でも屋のアレックスどの


私は、エドワードの父親であるジャクソン・マクガーニだ。エドワードから話を聞いた。私自身もアレックスどのの薬を試して、効果に驚いた。素晴らしい!


ついては、団長や隊長たちの会議で説明したいので、試供品を送っていただけないだろうか?費用が必要であれば、私が用立てよう。

遠慮なく言いたまえ。

まずは、我が家に薬を届けてくれ。


ジャクソン・マクガーニ』


よし、早速作ってエド様の家に向かおう。

先ぶれを出しておこう。

ネフィが貴族には先ぶれがマナーだと言ってたしな。


1週間後に伺います。アレックス...とね。



で、実際にマクガーニ卿とお会いして薬をたくさん渡してきた。

エド様はメソメソする筋肉隆々な僕っ子だったが、マクガーニ卿は貫禄があるがたいのいいロマンスグレーな紳士だった。

なぜ、エド様はああなったし?遺伝子学的に不思議だ。

とにかくあとは騎士団の会議の結果待ちだった。






いよいよ冬が始まる肌寒いよく晴れた1日の出来事である。


「それでは、騎士団会議を行う。」


齢50前後の騎士団長カリーニが開会宣言をする。

それを合図に次々と議題が話され始めた。


「今回の議題は、辺境の魔獣の対策を..(以下略)。」「次の議題は、予算が例年よりも...(以下略)。」etc.

さまざまな議題の方向性を決めていく。

そんな会議も佳境になり、進行役の騎士が最後の議題を提示しだした。


「最後に、前回マクガーニ卿よりもたらされた解熱鎮痛剤なる薬の採用について話し合おうと思われる。全騎士団報告をっ!」


第1から第10までの騎士団の代表が報告し出した。


「第1騎士団です。症例10。

訓練中による負傷。打撲痕3名、瞬くうちに治癒し痛み消失、腫れ消失。

さらに腹痛7名完全治癒しました。」


「待て。腹痛に使ったのか。7名もか?治療師の薬で良かったのでは。」とカリーニが苦言を呈した。


そこで騎士が腹痛の時の詳細について語り出した。


「はっ!実は演習中の小隊に感染病が発生。直ちに隔離しました。それが7名です。

症状は、強い腹痛と軽い頭痛と吐き気でした。そのため、何を飲ませばいいのか分からず解熱鎮痛剤を飲ませました!」


「.....。効いたからよかったが、それは正しい処置なのか?...まあ、わかった。次、第2騎士団」


メガネをかけたあまり騎士らしくない細身の男が報告を始めた。


「第2騎士団です。我が隊では、擦り傷から打撲の症例に使い、完全治癒が確認されました。

骨折は、痛みや腫れは治まったものの骨の修復には至りませんでした。ですが、予後良好で骨折以外の身体的不都合は全く出なかったと報告に上がってます。

そして、驚くべくことに傷を負って出血が激しい隊員に飲ませたところ、たちまち皮膚の修復・止血が確認されました。皮膚の損傷くらいなら治癒できそうです。」と淡々と報告した。


「そんな効果があったのか?他の騎士団でも、皮膚損傷が激しいときに使った例はあるか?」


すると、一人の男がゆっくりと挙手をし、報告し出した。


「第七騎士団です。えー、非常に言いにくいのですが騎士の一人が痴情のもつれによって刺され内蔵が深く損傷し、命の危険がありました。これも驚くことに治癒されております。」


「なんと!そこまで。凄い薬だな。

マクガーニ卿!

この薬はどうやって作ってるのだ?」と、カリーニは、机に前のめりになって興味を示した。


「はい、息子の友人のアレックスという青年が作っております。

この青年は、平民ですが全属性の魔術が使えるそうです。

あと、錬金術も独学で学んでいるそうでして。

今回の薬は、魔術と錬金術の融合ということでした。

実際に目の前で見せていただきましたが、見たことがない文字を魔法陣に描きながら錬成しておりました。

その文字は何だと聞いたのですが、アレックスが研究して作った文字だそうです。」


「「平民!?なぜ平民が魔術を?しかも全属性?」」と室内がザワッとした。


「はい、そのアレックスの知友がヴァンキュレイト家の令嬢で、その令嬢が手ほどきをしたそうです。」と補足説明をした。


カリーニは、顎髭に手を当てながら思案し、マクガーニ卿に質問をする。

「なるほど、魔導の家門だ。

それなら、魔術が使えるのも納得だ。

だが、全属性使える者はほとんどいない。

凄い青年だな。第10騎士団に入らせたいものだ。

騎士団試験は受けないのか?」


「私も推薦したのですが、死の契約を令嬢と交わしていて無理だと言われました。

その契約に連関するかもしれなく、今は騎士団に入れないそうです。」と驚愕の事実をマクガーニは伝えた。


「死の契約!?今時そんな契約をする者がいるとは....。今はということは時期が来たら大丈夫なのか?」


「はい、令嬢が学園を卒業したら可能になるかもしれないと歯切れの悪い言い方でしたが...。」とその時のことを思い出しながらマクガーニは肯定した。


「なるほど、ではあと少し待ってみよう。今回は騎士団に薬を採用するということで手を打とう。異論はないな?」と周りを見渡した。


誰も異議を唱えなかったのを確認してカリーニは、会議を終了させた。

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