殉愛
千尋少年
第1話
名前のない癖が度々顔を出してくる。同級生の友人から、電話がかかってきた。おそらく明日のボランティア部についてだろう。ほら、また奴が出てきた。僕は電話に出ると同時に、右、左、左、そして右と、スマートフォンを持ち替える。もうずっと前からだ。自分の中にルールがあって、意思とは無関係に動作する。ウインクしろと言われれば、右目で一回、左目で二回、そしてまた右目で一回。貧乏ゆすりだって右左左右のリズムだ。
逃れられない癖、いや、縛りなのだ。
「・・もし。明日の部活の事なんだけど持ち物なんだっけ?」
いつものように持ち替えていると、もしもしの半分が聞こえない。だが会話に支障はない。もしもし文化はありがたい。
「しらんよ。俺もお前に訊こうと思ってたわ。部長なのになんで知らんの?」
「お前にやらされたんだよ!まだ高二なのに。部長言うのもうやめて。取り敢えず明日の九時に、安らぎ老人ホームに集合ね。」
「ほーーい。了解です。」
土曜の朝は気持ちがいい。土日は起きたら大体正午を過ぎている。今日は老人ホームのお祭りのボランティアの為、いつもより五時間ほど早く起きた。スマートフォンと財布を持って舞台に向かった。大概これを持っていけば困ることはない。
「あら。今日は早かったのね。また遅刻すると思ってたわよ。」
「当たり前ですよ先生。見直しましたか。僕、同じ過ちは繰り返さない太刀なんです。」
一五分ほど遅刻したと思っていたが、如何やら友人は昨日三十分早めに集合時間を伝えてくれたらしい。流石は友人兼、保育園からの幼なじみだ。
「お!今回は遅刻しなかったな」
にやりと笑う友人はしっかり時間通りに来ている。こういうところが好きだ。それを言葉に出すことはないが、きっと伝わっている。にやりと笑い返すと、さっそく先生が今日の任務について喋り出した。高二になって初めての部活だ。部員は三十人ほどいる為、順番でボランティアをする。今日の部員は全部で五人。まずは部長の友人。次に副部長の僕。そして三年生なのに顔を出す生粋のいい奴、僕たちはこの人を偽善者パイセンと呼んでいる。もちろん裏でだ。そして新入生の二人。一人は覇気がまるでない、小僧。おそらく部活が決まらず担任に強制的に入部させられたのだろう。そしてもう一人。これは驚いた。なんて伝えればいいのだろう。可憐な美少女、黒髪の乙女、ナイスガール、天使。ありきたりな表現しか見付からない。こんなことなら新入部員歓迎会に顔を出すべきだった。
恋をした。あの恋だ。一七年間、一度も芽生えたことの無い感情。だが知っている感情である。五感が訴えてくるのだ。
「おい、あの美少女はなんて名前なのだ。答えなさい。マイフレンド。」
「日和だよ。可愛いよな」
「ああ。可愛いな。」
驚いた。友人も日和ちゃんのことを可愛いと思っている。だが驚いたのはそこではない、友人が日和ちゃんのことを可愛いと言ったその時、あからさまの嫌悪感が自分の中から現れたのだ。自分に驚いた。どうやら僕はどうしたって日和ちゃんを手に入れたいらしい。そうどうしたって。
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