「むぅ……やはり食事管理だけではダメなのか。人間たるもの、運動が不可欠なのだな！」

　彼はそう考え、すっかりと重くなった腰を遂に上げたのであった。

　それからと言うもの、ジェラールはまるで人が変わったように運動するようになった。

　昨日までの非常にノロノロとした動きを止め、意味もなく機敏に動くように心がけた。

　腕立て伏せにスクワット、それら簡単に行える筋力トレーニングにも励んだ。

　また、自身が治める領地を大手を振って快走したりもした。

　なので、領民の間では男爵様の気が触れたなどのよからぬ噂が蔓延することになった。

　呼吸が乱れ、汗が滴り落ち、足に重りでも付けたかのように上手く足が動かなくなった。そして遂にジェラールはその足を止めた。

　疲れきった身体をどうにか動かし、近くの広場で大の字になって天を仰いだ。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

　見上げる空はどこまでも青く澄んだ空で、火照った身体を撫でる風がたまらなく心地良かった。

　思えばいつぶりだろう？　これほどがむしゃらに走り回ったのは……子供の頃以来か。そういえば歳をとってからというもの仕事に対して必死になりはしても、必死に動き回るなんて事なかったからな……。

　そんな事を思いながらジェラールは自身の少年時代を振り返っていた。

　若草の青が鼻腔に届き、辺りを走り転げ回っていたあの頃の記憶が鮮明に蘇る。

「……ふふふっ」

　ジェラールは小さく口角を上げて笑う。

　これほど懐かしい気持ちになれるのなら、もっと前からそうしていれば良かったと心の底から思った。

　少年時代の記憶に突き動かされるようにジェラールは再び走り出す。

　その先に自身が望む未来があると、そう信じてーーーー

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい