02-15. 必然の結末

 スタビライザーを折られたのはライジンストライカーだった。


 アルス・マグナが持つAK46マルチライフルから、ビームセイバーが出現していた!


 これがジャベリンを弾き、ジャーニのスタビライザーを切り落とした。



 会場どころか、全てのフォロワー先までが驚愕と動揺に包まれる。


 そこまで似せるのか、という感想もあれば。

 だからこそか、という言葉もある。


 最後の手段であるビームセイバーを持っていたからこそ、150ワンフィフティソードを惜しみなく投げ放つことができたわけだ。



「まさかここで『赤の女王レッドクィーン』の心境を味わうことになるなんて」


 ジャーニがほぞを噛む。


 コースアウトの警告に従い海中に浸かるライジンストライカー。

 ヒットポイントの減少と合わせて、アルス・マグナから大きく遅れることになる。

 手元に残ったジャベリンをリボルバーに戻し、既に諦観の構えだ。


 単独トップとなったルカインは、復調した機能を全開にして飛翔する。

 最早優勝はだれなのか、口にしなくとも知れたこと。

 ルカインを追跡するエアリエルたちもいるが、ゴールまでに彼女と並ぶことはないだろう。


 最後の海中と空中のディビジョンを通過して、ルカインのアルス・マグナがトップでゴールイン。


 4位まで順位を落としたジャーニが続く。


 続くラフィーの成績は5位。

 出場二回目の新人としてはかなりの好成績だが、志す目標とは隔絶の差があった。


 少し遅れてトリシャがゴール。


 以下、イリソン、セオドアと続く。


 レースを終えたエアリエルたちは、セーフティフライングで島の上空を旋回すると、それぞれのピットに降り立っていった。




 エクスカリバー14をセッティングラックに固定したヴィクトリア王女が、颯爽とマシンドレスを脱ぎ去ると臨時のチームメイトに話しかけた。


「お疲れ様。ラフィーは中々の順位で終わったわね」


「そんなお世辞じゃなんの慰めにもならないわ」


 こちらはラックに固定されたままのラフィー。

 つんっとむくれたまま顔を逸していた。


「ひとまず反省会の前に汗を流して着替えなさい。

 サウスパークディメンションレース、最後の大盛り上がりを見に行くわよ」

「…………?」


 なんのことか解らないといった表情のラフィーに、トリシャが笑いかける。


「本当に飛ぶこと以外は興味が薄いのね。

 これからウィニングライブが始まるのよ。

 妖精の歌、見聞きしなきゃ損するわ」




 サーキットに併設された大型ステージの中央がライトアップされる。

 スポットライトの中に一人立つ少女。彼女は黒いドレスに身を包んだルカイン・プナグストだ。


 大きく拍手が起こり、やがて止む。


 インストが鳴り、エアリエルが静かに確かに歌いはじめた。


『鮮やかに 染まる空の向こう

 訪れるものは 夜だけでじゃない。

 明けの時にも グラデーションの静寂はある』


 参戦会見の時とは違う曲だ。

 激しく踊りはしない。ステップを踏むのでもなく。

 歌声よ響けと、ゆったりと身体を伸ばす。


『暖かさで変われるのは 風だけなの

 胸の奥に 冷たさを覚えるのはなぜ

 目に見えてくる景色は 色づくのに』


 しっとりと情景が思い浮かばせる歌声だ。



 観客席の端で歌を聞いていたラフィーは、不思議とルカインへの敵愾心を持っていないことに気がついた。


「勝ったら歌うって、よく考えたらわけわからない習慣ね」


「エアリエルを根本から否定する言葉が出るのは、まだまだ素人ってことよ」


 作業着姿のトリシャが横から突っ込む。


「ステージを見てなさい」


 言われるままに歌声を聞いていると、ステージ背景が大きく変形し始めた。

 歌に合わせたのか朝焼けを連想させるオブジェクトの移動と色合いの変化だ。


「ブレインパルスリンクはなにもAFを飛ばすだけじゃない。

 こうしたギミックの動力源にもなる。

 キミの応援がエアリエルたちを輝かせる。

 それはレースに限った話じゃないのよ」


「歌を聞いたフォロワーがブレインパルスを送れば送っただけ、目立てるわけね」


「それが次のレースの原動力にもなるもう一度彼女の晴れ姿を見よう、きれいな歌声を聴こう。

 アエロフォーミュラはパルスリンクで飛翔しているいるから、フォロワーの声援は無視できないわ」



 一曲終わったルカインはホロ衣装を闊達な物に変え、ジャンプする。


『Hey! Hey! 今だけにこだわってないで

 どうしようもないことなんて ないはずさ

 走ろう 踊ろう まだまだ気分は上々さ』


 急な変化にラフィーはその場でつまづく。

 ルカインの顔もこれまで見てきた平坦な表情とは違い、口と目を大きく開けたエネルギッシュなものだ。

 百面相もかくやという変わりようだ。


「こういうナンバーも持っているんだ。

 レースと一緒でオールマイティにまとまっているわね」


「そういうものなの……?」


「ルカインは強いわよ。レースもだけど歌も幅広くカバーしてる。

 今回のSPDでフォロワー申請が大量にあるんじゃないかしら。

 だから」


「次に戦う時は、もっと強くなっている」


 そうよ、とラフィーの言葉をトリシャが肯定する。


 アンニョイな雰囲気でトリシャが切り出す。


「ねえラフィー。

 このままウチに来る気はない?

 こっちとしても資金面を整えて、ラフィーのお金が使えるようになるのは利点だわ」


「……金づるにするってこと?」


「嫌な言い方だとそうなるわね。

 3人抱える大所帯になるし、どうしてもナスカッサを優先するから、ラフィーへのサポートは手薄になるし」


「何一つ隠さないのね」


「この案のデメリットも大きいからねー。

 フィフスだって一回こっきりの臨時チームならという話で切り出したし。

 今でこそいうけど、実は一番現実味が低いプランだったのよ」


「書類関係の時間が間に合わなかったとか、そういう方面で?」


「そう。だから誰かしらが先んじて整地していた可能性があるのよ。

 背景が不透明なラフィーと早計に関わるのは、リスクもあるってこと。

 誰かラフィーの出場に手を貸すような人物に心当たりがないかしら?」


 少し考えて、ラフィーは可能性を告げる。


「EEGPでクルーをしてくれたF衛星大学の中継屋かしら」


「今いち権力関係に弱い気がするわ」


「それなら、アマノカケルね」


 ヴィクトリアが目を丸くして驚く。


「ホントに二代目がラフィーのところに来たんだ!」


「アマノカケルならまだASF協会への影響力を持っているでしょう。

 でも理由がわからないわ」


「ラフィーを失格に落としちゃったことへのお詫びじゃない?」


「でもあれは、勝利の魔女の言葉を守らなかった私が悪いんだから!」


「アナタがそう思っているなら、これ以上は探りようがないわ。

 申請が通ったのは、単純に奇跡だったと割り切ることにしましょ」


 さっぱりと言い切る王女に、納得がいかずに渋る表情のラフィー。


 ウィニングライブはアンコールも含めて4曲を披露して終了となった。


 これでサウスパークディメンションの全てが終わる。



「ラフィーはこれからもエアリエルを続けるの?」


「当たり前よ。倒すべき相手がはっきりしたんだから。申請資格を取り戻して、私はもう一度飛ぶわ」


「ちょーとズレてるわね。まあそこは後で直すとして」


 トリシャが肉厚ゴーグルを外し、ラフィーの頭に掛ける。


「次の目玉は『四大大会グランドスラム』の『絢爛舞踏会オデュッセイア』。

 名だたるエアリエルが集まるし、わたしも出るからしっかりフォローしてね」


「こんな場面で営業しないでよね。

 でも、応援だけならしてあげる」


 笑うトリシャに釣られて、ゴーグルを首から下げてラフィーが笑う。


「ラフィーと会うのは、次のステージ。

 四大大会最大の色物レース『宅配便グレートシャトルラン』になるかしら」




 ホールから出たルカインが記者たちに囲まれる。

 無数のフラッシュやドローンカメラを防ぐSPたち。

 彼らが作った道を進み、黒い少女が車に乗る。


 車内には既に一人の男性が座っており、ルカインは軽く頭を下げた。


「急な変更にもよく対応してくれた。

 危惧した相手はそれほど目立った印象もなかった。

 上々の首尾だな」


 スーツを着こなした男性こそ、プロジェクトアルス・マグナのジェネラルマネージャー。アラベル・プナグスト。

 縁戚関係で言えば、ルカインの甥に当たる。

 アラベルはルカインよりも年上で、ガブリールとは外縁となるためラフィーとの接点は無い。


 ルカインのプロジェクトを強く推し進める理由は、厚い顔皮か腹の中に存在する。


 彼の存在を、ラフィー・ハイルトン・マッハマンは未だ知らずにいた。


Act02. Fin























次回予告

Act.03 迅速に救助せよ! エリアル スピード レスキュー!


 緊急事態発生、オービタルリング破損。


 エリアルA スピードS レスキューR、救急部隊出動せよ!



「それもアエロフォーミュラなの!?」



「便利な機械があるんだから。


  便利に使うに決まってんだろ!!」

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