02-13. 聖剣両断後の混戦模様
「イリソン。マシンの状況はどう? 大丈夫?」
「だめダメだよ。
海中からの照射は考えてなかったから、損害は予想値より低いけど、わりとヤバいダメージになっちゃった」
「こっちも似たようなものよ。
まったく。何をどう考えればレーザー固定砲台をAFに搭載しようなんて思いつくのかしら」
「あのイノガロイドがいるからでしょ。
そうでなければ超大出力のブレインパルスを捻出なんて出来ないんだし」
「彼は人として認定されてないから、あくまでアエロフォーミュラの外部武装扱い、トリシャの持ち物なんだっけ。
それが大型人工知能からのブレインパルスを中継するなんて、ひどい抜け穴もあったものよね」
「欠点は連射連発できないっこと。
一回使えば一週間は撃てないけど、レースをするなら一回盤面をひっくり返せるだけで十分インチキなのよ」
そして母娘が知らないことではあるが、エクスカリバー14が
「こっちはドアっちを振り切れたから利点はあったけど、おかーさんはどうなの?」
「トリシャが積極的にルカインを狙ったぽいのよね。
一番ヒットポイントの消耗が激しいのが彼女よ。
当然ブレインパルスの出力制限が強いはず。
様子見ながら突いてみるわ。
被害を受けてない機体もあるし、自分の状態把握も忘れず慎重に進みましょう」
「りょーかーい」
2人は速度を落としながらも安定を重視して飛翔する。
トリシャは得意満面で割れた海が戻る波から脱出する。
「ほらラフィー、今の内よ。全体が停滞気味だから駆け抜けるのに最適でしょ」
一緒に海上ディビジョンに出たラフィーは心から呆れていた。
「ひどい無差別攻撃を見たわ」
「無差別じゃないわ。ちゃんとトップを狙って撃ったんだからね」
「他は巻き添えってわけ?」
「もちろん狙って巻き込んだのよ」
胸を張って笑う王女さま。
「とはいえさすがに私はガス欠気味だから、ここからはラフィーちゃんの出番よ。
たとえトップに立てなくても、頂点への気概は無くしてないのよね」
「当然よ。
先にいくけど、ちゃんとついてきなさいよ」
アルス・ノヴァが一気に加速する。
エクスカリバー13の開放でフォロワーたちが盛り上がっている。
ラフィーへの強い追い風になって吹いている。
ここで乗らずにどこで仕掛けるのか。
今しか無い。
エクスカリバー13の照射でヒットポイントを奪われ、バランスを欠いたエアリエルたちをごぼう抜きにする。
機体性能にものをいわせての強引な加速だ。
コーナーリングもサーキットギリギリだが飛んで抜けている。
前回のEEGPから続くレースでラフィーの技量は素人のそれを越え始めていた。
数人を抜き去った所で、セオドア・ロイロフスキーのグラオザーム・ヴェヒターが見えてきた。
こちらも超広範囲レーザーの被害を受けたらしく、飛び方が安定していない。
「ここで新星とは奇なる
いざ尋常に勝負!」
両手用大型ライフルで狙いを付けるセオドア。
「一度聞いてみたかったけど、どうしてそんなに口調が小難しいのよ」
左右に揺れる回避行動を取りながらラフィーが質問する。
「生来のものだ。聞き取れないわけではあるまい」
「あらそう。噂に聞くキツいキャラ付けだと思ったけど、違うのね」
「ぐぅっ、ぬぅ……」
「信念を揺るがしかねない苦悶を上げないで!」
「新星殿こそいきなり巨乳アピールをはじめたではないか!」
「
「ええい、持つ者の苦労話など嫌味でしか無い」
「そっちこそ、ただの僻みでしかないじゃない!」
両者はライフルで打ち合うが、機動力はアルス・ノヴァが圧倒的に勝っている。
初弾はラフィーが当てた。
さらに減速するグラオザーム・ヴェヒターは、接近するラフィーに逆転を狙って近接戦闘を仕掛けようとする。
だが、大型ライフルと背中の
「お先に失礼」
「待て、勝負はこれからだぞ」
「決着はレースの順位で決めるのよ」
ラフィーは前回の苦い経験から確実なゴールを目指している。
トリシャにも言われたが、まずは完走することを目標に。
「だって速くなくちゃ、戦うことすらできないんだから」
トップ2人を小型ウィンドウの横目で見て、小さくつぶやいた。
ライジンストライカーを駆るジャーニは武装の選択を慎重におこなっていた。
装填数6本のリボルバージャベリン。範囲照射のビームランチャー。
近中距離の多人数相手を狙った武装だ。1VS1は得意分野とはいえない。
それでも相手は、近接武装をヴィクトリアを退けるために投げ捨てている。
付け入る部分があるならそこだ。
大型シリンダーに刺さった6本の投槍が明暗を分けると踏んでいる。
なので主に用いるのはビームランチャーになるが、消耗がきついから連射が効かない。
レース序盤から放ちまくった娘の方は、もう残弾が尽きかけている。
今後のミーティングではその辺りを咎めなければと考えているが、どうしても娘を甘やかしてしまう。
自分を律しきれないことに、自身の若さを痛感しながら母親として出来ることを目指す。
当然一つは、目の前にいるエアリエルを追い抜くことだ。
ビームランチャーでアルス・マグナの進路を塞ぎ背後を取る。
十分に引きつけてから、ジャベリンを2本射出。
ルカインは苦しい体勢に身を捩りながら避ける。代償に著しく速度が落ちた。
黒いAFを抜きにかかるジャーニだが、エアリエルとしての勘が戸惑いを与え、加速を躊躇する。
見ればアルス・マグナのマルチライフルが、錐揉みしながらでも的確にライジンストライカーを狙っていた。
「あら、それぐらいじゃやられないお耳をしているのね」
三半規管と空間把握能力の増強具合が自分たち母娘より高く調整されている。
ルカインの身体には、恐ろしくコストの掛けられていた。
これが万全の調子なら強引に抜き避けきる自信があったが、エクスカリバー13の影響が残る機体では慎重にならざるを得ない。
「ほんと。いやらしい聖剣だこと」
ジャーニがぷりっと小さく苛立ちを表す。
快調のアルス・ノヴァは手負いのエアリエルたちを追い抜いてゆく。
ちょうど第二潜航ディビジョンを終えたところでイリソンと接触した。
「ラフィーちゃん。ちょ、ちょーと待って!」
「待つわけないでしょ!」
ふらふらと飛ぶライジンシーカーに叫び、ラフィーは前方を目指す。
「それなら、これでもくらっちゃえー」
すれ違う間に、ライジンシーカーのリボルバージャベリンが全弾発射される。
一斉射ではなく、間隔がまばらにされた偏差撃ちだ。
順々によけては五発目か六発目が当たる。
考えなしの放出ではあるが、本当に何も考えていないわけではなかった。
しかし、
「この銃には、こういう使い方だってある!」
ラフィーはマルチライフルのストックを握り突き出す。
銃口からビームセイバーが発振され伸び、途中から傘状に広がり盾になる。
ビームシールドがジャベリンを弾き無傷で乗り切った。
「そんなのあり!?」
「
これは初出しの技じゃないわよ」
注目してみれば『
これが調査して判明した新城直人謹製ビームセイバーの本領だ。
色々と言いたいこと聞きたいことがあるフランケン大学の学生たちだったが、彼が残してくれたこの剣には素直に感謝しようと思うラフィーだった。
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