第25話

 早いもので入学してから一ヶ月が経ったが、王子はなんていうかしつこい。


 飽きもせず毎日のように鼻で笑い嫌味や皮肉を言ってくる。


「卒業後は平民になるんだろ、頑張らないと大変だな」「ちゃんと食べていけるのか」そんな感じのことをね。


 そして決まって最後にはトワに向かって「私の方に付いた方が賢明だと思うが」と声をかけてから去っていく。


 すでにヒロイン以外のクラスの女子を侍らせているというのに。

 今も上位貴族であるオーレンジ公爵家次女のアルジェ嬢、バーナナ侯爵家長女のシリル嬢が王子の腕に胸を押しつけながら腕を絡ませている。


 シリル嬢の代わりにキューイ侯爵家三女のリビラ嬢かピーチィ侯爵家長女のヒルデ嬢が腕を絡ませている時もあるけど。


 アルジェ嬢だけは王子の左腕を常にキープ。まるで婚約者のような振る舞いだ。


 身分もお胸もこのクラス一番のようだから……ん? なぜそんなことが分かるのかというと、アルジェ嬢のお胸は一目見ても分かるほど大きいっていうのもあるが、魔眼で彼女を見た時に、好感度の横にGという記号が最近表示されるようになったからだ。


 僕には意味が分からなかったが、夢の中の男の知識ではこれはお胸の大き……こほん。腰回りはすごく細いのに。そういうことらしい。


 だから王子もまんざらでもなさそう。鼻の下を伸ばしている姿をよく見かける。


 ちなみにシリル嬢がEで、リビラ嬢とヒルデ嬢がD。ヒロインのマリアさんがCでルイセ様とリーディア様がBで、セシリア様はA。

 あれ? もしかして王子はお胸の大きさで女性を選んでいない?


 ついでにアンナとレイナはD+でトワはA+。+ということはもう少しでランクアップする表示だと思う。あ、ついでにリンはAだった。


 ただ不思議なことに男であるはずのマルク皇子とセシルとキインにもあった。


 あ、違ったアレス王子やクラスの男子にもあるから男女の区別はないようだね。でも王子たちはSとかMとかLに対して、マルク皇子たちはCなんだよ。


 意味が分からない、というか僕の魔眼はどうなっているんだ。進化するならもっと有効活用出来そうな能力が備わって欲しい。


 そんな王子だけど、他のクラス女子とのスキンシップも忘れていない様子。


 貴族平民問わず目の前の女子の肩をポンっと触れて笑顔を振り撒き、ある時はキザったしく女子の左手をとって、手の甲にキスをしたりもする……

 やられた女子の反応を見れば王子は間違いなく狙ってやっているね。


 だから入学してまだ一ヶ月だというのに、王子の甘い言葉に頬を染めて瞳を潤まる女子の姿をよく見かける。

 クラス女子の視線は常に王子だ。


 つまりクラスの女子はほぼ王子の手によって陥落してしまっている。


 クラス男子から不満の声が上がらないのが不思議なくらい。いや、男子は男子で王子と繋がりを持とうと必死なのだ。


 意外にも普通に接しているのはヒロインの4人くらいかな……いや違った。


 トワと僕と同じ班になった平民のリンは逆に王子から距離を取っているかも。

 あと男子の平民。こっちは無理に繋がりを持つ必要がないから距離を取ってるって感じかな。


 王子は卒業するまでに後宮でも作る気なのだろうか?


 王子は、王太子ではないもののレッドドラゴンの加護と竜の紋章持ちのはずだ。

 紋章を次世代に繋ぐ必要があると王子がそう望めば……そうなる可能性もある。


 まあ、そんな王子だからこそ僕やトワに絡まずにクラスの女子と仲良くしていればいいのに、とつい考えてしまう。


 でも絡まれた後には決まってトワだけでなくアンナとレイナが相手してくれるからね。


 屋敷では貴族としての立場を考えていたから自制していた部分もあったが、今の僕にはそれがない。いや無くなった。


 もしかしたら夢の中の男の変な知識の影響もあるのかも。

 夢の中の男は貴族や平民といった身分なんてない世界にいたようだったからね。


 だから今は素直に好意を向けてくる彼女たちに、隠すことなく好意で返すことができるようになっている。

 彼女たちも今までよりもずっと嬉しそうにしてくれるから素直になってよかったと思っている。


 これがここ一ヶ月間の僕のルーティンであり、僕が唯一王子に対して優越感に浸ることができることでもあった。


 ほら、王子はどんなに女性を侍らせようとも立場というものがある。


 どんなに甘い言葉を囁こうが肩や腰を抱こうがお胸を押し付けられようが、王子からは手の甲にキスまでしかできない。

 あ、でも婚約者となればまた話が違うかもしれないが、まだそんな話は聞かないしね。


 その点僕は大好きなアンナやレイナ、それにトワと毎日のように好きなだけ求め合うことができる。


 権力? 卒業後は男爵位を賜ることになってるからね、それで十分満足。

 お金? 暗部での活動報酬がたんまりあるからね。今でも十分彼女たちを養っていける。


 どう考えても今の僕の方が幸せだと思う。ふふ、気分がいいな……おっと、いけない。


 どうも最近は、王子から理不尽な扱いを受けることが多いから王子に対する考え方が捻くれてしょうがない。気をつけないと。


 あと授業の方も始まった。午前中は教室で座学があり、午後に訓練所で実技がある。

 実技は主に魔法の訓練で、たまに武器の扱いなども学ぶが、ほとんどの場合、班での行動となる。


 その班の構成は自由だったが自然と前と同じ班になってしまった。


 密かにマルク皇子の支援に回ろうと思っていた僕としては有難い。


 そのおかげでマルク皇子と、護衛であるセシルとキイン、それに平民のリンまで好感度が上がり20を示している。


 そのおかげで、畏まった言葉遣いが少しは砕けてきて割とフレンドリーに接することができるようになっている。


 1ヶ月で20はかなりいいペースだからね、このまま良い人間関係を築けて行きたい。


 ただルイセ様とセシリア様が僕と班を組みたそうにしていたのが気になるけど、結局は上位貴族のしがらみから逃れることが出来ず前と同じ班になっていた。


 そういえば、魔法に関してだけど、影属性の魔法は教科書には載っていない。


 暗部専用の魔法だから当然と言えば当然なんだけど、皆の前では極力使用を控えている方がいいかもね。


 ホームルームの終わりに先生がいつものように明日の予定について語るが、今日は少し様子が違った。


「え〜最後に、君たちも入学して一ヶ月経ったが、まだ話しをしたこともないクラスメイトもいるだろう。

 そこで明日は近くの森まで遠征することにした。

 これは一学年全体で決まったことで、新たな人脈作りとして活用していただきたいという学園側からのサプライズだ」


 少しざわついたが、先生が話を続けたので、みんなは耳を傾けていた。


「君たち次第だが、ここでの繋がりが輝かしい未来への一歩となるかもしれない。どうか真剣に取り組んでほしい。

 では、班編成になるが、今回はいつもの班ではなく、くじ引きで決めたいと思っている」


 いよいよか。僕が死亡扱いになる森でのオリエンテーション。


 現実では、森での遠征授業ということになるらしい。


 よくよく考えればダンジョンにしか現れることのない魔物が現れるということは、あの森はダンジョン化するということではないだろうか?


 少し不安になりながらも僕はくじを引いたのだが、


 ——えっ。


 その班は、関わるつもりがなかったヒロインの4人に、アルジェ嬢と同じ班だった。


 僕は憂鬱な気分で部屋に戻るのだった。

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