第12話

「何をしているっ!」


 闖入者はすぐに見つけたが見つけた位置が少しおかしい。


 というのも、そこは父上の寝室から大きく外れた食料庫に近い小窓だった。


 その小窓の鍵をガチャガチャ取り外そうとしていたのだ。


 まあ僕はそいつが何者なのか、すぐに理解できたので不用意に叫んでみたんだよね。


「へ? ええ! ぅ、ウソ」


 ほっかむりをして身を小さくさせていた少女が、両肩をびくりと跳ね上げ、壊れたロボットのように、ゆっくりとこちらに振り返る。

 

 あれ、ロボットってなんだ? よく分からないけど、その手には細いピックの様なものが握られ腰には布袋のようなモノを下げている。


 そう彼女は暗殺者ではなく盗賊だったのだ。


 他の暗殺者と繋がりがあるのかは分からないが彼女も侵入者だ。遠慮なくやらせてもらうよ。

 彼女が驚き振り向た瞬間を狙って僕は魔眼を使用する。


「あっ……」


 次の瞬間には赤い魔力の糸で彼女と繋がったような感覚がする。


 ――よし、成功だ。


 彼女は盗賊といってもほとんど素人に近いレベルだったので先程よりもあっさりとかかってくれた。


「それじゃあ君はそのままゆっくり立ち上がってからその場に待機して」


「はい」


 俺の指示に従った彼女はゆっくりと立ち上がりその場に立つ。


 その立ち姿は少し幼さがある。僕とそう歳が離れていないように感じるが、とりあえずはこれで安心といったところだろう。

 思ったより早く終わってしまったね。


 ――さてと、アンナと師匠の方はどうだ……


 アンナと師匠の気配を探ると、すぐに見つかるが、2人は結構派手に動き回ってる様子。


 でも、油断さえしなければ、まず負ける事はないだろう。心配は杞憂だね。


「君は僕についてきてくれる」


「はい」


 盗賊の彼女にそう指示を出した後に、暗殺者と繋がっている方の赤い魔力(色線)に僕の下に来るように、との思考をのせる。


 この色線で繋がっている状態は魔力を常に消費しているが、今の僕の魔力量なら大して問題にならないくらいの消費量なのでそこまで気にしていない


 すぐに暗殺者から肯定の意思が返って来ると、さすがは暗殺者。

 それほど時間をかけずに僕に合流してきた。


 ――――

 ――


「クライ様すみません。またしても自害されてしまいました」


「すまん。俺もだ」


 交戦を終えて合流したアンナと師匠がすまなそうにそう述べるが、その視線は俺の両サイドに立つ盗賊と暗殺者に向けられたままだ。


「とりあえず僕の部屋に行きましょう。それからですね」


「そうだな。それがいいだろう」


「はい」


 ――――

 ――


「君たちはそこで待機だ」


 僕の部屋に戻り盗賊と暗殺者にそう指示をする。


 それから着ている服を全て脱いでもらう。

 

 前回はそれをせずに先に正体を尋ねた結果、隠し持っていた魔導具が発動。暗殺者たちは跡形もなく消滅してしまった。

 

 いくら証拠を残さない、渡さないためとはいえ、あれはない。


 だから今回は慎重にいく。決して邪な心からではないんだよ。


 それなのに、俺の指示に従い服を脱ぎ始めた盗賊と暗殺者の間にアンナが割って入ってきて微笑む。


「クライ様♪」


 そう盗賊の方の性別はほっかむりをしているとはいえ顔が少し見えていたので女性だと分かっていた。


 それがまさか、暗殺者の方も女性だったとはね。


 明るい部屋に入ったらすぐに分かったよ。


 身体のラインがまさに女性。そう、彼女はアンナに勝るとも劣らないりっぱなお胸をお持ちなのだったのだ。

 しかも、ぴっちりとした服装だから余計に目立つ。


 思い返してみれば、返事の時の声も少し高かったような気がするな。


「クライ様は指示だけしてくださればいいですよ。

 師匠もあっちを向いててくださいね。彼女たちは私が責任を持って隈なく調べますので」


 笑みを浮かべたアンナの口調はとても柔らかい。でも、反論は許しませんよ、といった気迫を感じる。


 僕と師匠は頷くしかないんだけど、師匠の額には玉粒のような汗が沢山浮かんでいて不思議。

 ダメだったら師匠も本気で断るだろうから、なんだかんだでアンナの実力を認めているのではないだろう。僕も頑張ろ。


「分かった。彼女たちのことはアンナ任せるけど間違っても……」


「はい。その時は、この命をもって償います」


 アンナも情報を引き出すことへの重要性を充分に理解しているのだろう。ミスは許されないと彼女なりに真剣に考えての発言なのだろう。でもな……


「いや、それは僕が困るからダメだ。アンナには僕の傍にずっといてもらわらないといけないからね。

 それで、もしものことがあって責任を感じたのであれば、その時は……その罰を僕が考えるよ」


 と言っても何も考えていないんだよね。


 三度目だし、相手も暗殺に失敗したと分かればまた襲ってくるだろうからね。


 アンナの命を天秤にかけるまでもない、というかかける必要はないんだ。


「は、はいクライ様」


 目尻の辺りを軽く指で払ったアンナが顔を赤くしてから頷いた。


 それから僕は、彼女たちを背にしてアンナに従うように指示を出す。


「「はい」」


 彼女たちの返事は感情のこもっていない無機質な返事なんだけどね。


 それからアンナが彼女たちの身体を隈なく探り始める。

 髪の中、口の中、ありとあらゆるところを隈なくね。

 アンナがどこを探しているか気配で分かるからちょっと居心地は悪いけど。


 アンナもしっかりと役目を果たし、暗殺者が隠し持っていたというか身につけていた魔導具を探し出した。その数なんと八つ。


 首、腰回り、両手首、両足首に巻きつけてあるモノから口の中や女性にしか隠せない所からも、闇の魔導具を見つけたのだ。


 そんな魔導具なのだが外し方は簡単だ。第三者が魔力を流すだけで簡単に外せた。


 本来なら第三者にそうされる前に自身で魔力を流して自害する。


 一つでも発動させれば必ず死に至るので、尋問しようものなら、躊躇なく魔力を流し自害するそうだ。まるで洗脳されているみたいだよね。


 だから相手さんからすれば、このような(魔眼で操る)事態になるとは想定されていない。

 今回は上手くいったといっても過言ではない。


 ちなみに盗賊の彼女からはそれらしいものは何一つなかった。暗殺者とは繋がりのないただの盗賊だね。

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